叔母、登場
ヒステリックマダムことバーバラ先生に連れられ、生徒指導室へ。一応ハンナ先輩には、要件を伏せて遅くなる旨を報告してある。
「そこに座ってちょうだい」
完全にこの先生の趣味であろう、漆塗りの家具に飾られた部屋を見渡しながら、言われた通りに座る。黒魔牛の一枚皮で作られた、豪華なソファーだ。
「これ、飲みなさい」
「あ、どうも」
差し出されたティーカップを受け取る。
「まさか、バーナードの息子が入学してくるなんてね」
唐突に父の話をしはじめたが、黙って聞いておくことにした。説教、というわけではなさそうだ。
「父は、どんな生徒だったんですか?」
「エルトーレが生徒会長になるまで、歴代最高と言われていた男だよ。背格好はあんたと瓜二つだね」
親父はやっぱり凄かったということを実感しつつ、紅茶をすする。
「で、入学式の時と比べると、イイ顔になってるじゃない?何か未来を見据えたような、守る覚悟に似たものを感じるわね」
「はあ。分かりますか」
確かに、守るべきものができたし、将来を具体的に考えるようにはなったが、そこまで顔に現れるものなのだろうか。
「私の孫たちと上手くやってくれているかしら?」
雰囲気が似ていたのでそんな気はしていたが、やっぱり。
「まあ。それなりには」
マダムは身を乗り出して、どこまで進んだの?と。
「デートは?手は繋いだ?」
下世話だな、このおばさん。
十分ほどプライベートを曝け出さされだあと、やっと解放された。下世話だが、皆が言うほど悪い人でもないし、むしろ面白い人だと思う。
部屋を出る間際、マダムがニヤリとしながら。
「あの子、奥手だから、あなたからデートに誘ってあげなさい」
てきとうに返事をし、部屋を出た。そろそろ、何か行動を起こしたいと思っていた頃なので、これをきっかけにするのもいいだろう。
「今日の件は、見なかったことにしてあげる。怪我はないかい?」
「はい。逃げてきたから大丈夫です」
「そう……あなたを妬む生徒、奪いたがる生徒には気をつけなさい」
前者は理解はできたが、後者にはピンとこない。曖昧なまま、部屋を後にした。
少し遅れて部活動に向かう。部員らが俺を待ちわびていた。嬉しい反面、少しばかり照れ臭い。
俺の株が急上昇した理由は、最近、競技魔術団体がルールを変更したから。
ノーコンタクトから、リミテッドコンタクトへと変わったのだ。
リミテッドコンタクトのルールは、普通の格闘戦から、身体強化、上段への攻撃が禁止され、さらに魔法を主として戦うことが義務づけられたものだ。そのほか細かなルールもあるが、挙げればきりがない。
戦術が大幅に広がるため、部員からは概ね好意的な意見が多い。けれど、格闘技に関しては右も左もわからいような人らなので、一から教えることになる。
「この時は、どうすればいいんですか?」
中段への蹴りへの対処法を問われた。腕を盾にするのが普通だが、それでは芸がない。
「当たる瞬間に、相手の足元を凍らせるのがいいだろうな。こっちも多少痛いが、相手はバランスを崩して転ける。ここで重要なのが、それまでに水の魔法で地面を濡らしておくことだ」
ここまでの練習で把握したそれぞれの特徴から、一人一人にアドバイスをしていく。
ハンナ先輩が得意とする戦術に合わせ、カウンター
に繋げる体捌きを主に教えた。
自ら攻めるとなると、自分から組み立てる必要があるし、相手の返しを読む必要がある。その点カウンターは、少ない動きで数多くの技に対応できるので、効率がいい。
「ありがとう。教えるの上手だね」
「そう言われると、先輩に睨まれている甲斐はあります」
俺の自虐ネタに、二年の先輩は笑いながら練習に戻っていった。
さっきからハンナ先輩は、チラチラこちらを見ている。小さく手を振ると、そっぽを向いた。
幸せを感じながら、指導に打ち込んだ。やっぱり、人に教えるのは楽しい。
正確には、人に頼られていることが嬉しいだけなのかもしれない。けれど、それだけで十分、やりがいになる。




