弊害
朝、下駄箱を開けると、一通の手紙が入っていた。
開くと、乱暴な字で『放課後、3–4まで来い』とだけ書き殴られていた。
面倒ごとであることは確実なのだが、行かなければもっと面倒なことになることも目に見えている。
「アルバート君、またね」
「はい。また後で」
ハンナ先輩と別れ、教室へと戻る。演習場から下駄箱までの道を一緒に歩く程度の、何もないようで、とてつもなく幸せな日常を送っている。
当然、嫉妬する奴もいる。俺を呼び出した奴もその一人だと踏んでいる。自惚れるようだが、それしか理由が思い当たらない。
四時間の授業を終え、いよいよ約束の時間がやってきた。魔法石をポケットに入れ、あの時の手袋を装着、外していたネックレスを取り付け、万が一に備える。
本館の階段を、下校する生徒を掻き分けながら上る。教室へと向かう。廊下を進むにつれ、人が少なくなってゆく。誰もいない教室が続き、突き当たりに到達する。そこにあるのが、その教室だ。
「お邪魔しまーす」
建て付けの悪い扉を乱暴に開け、中に乗り込む。二、三人を想定していたが、それよりも多い八人が俺を出迎えた。
「おお、よく来たな」
ぱちぱちと手を叩く男と、俺を取り囲む七人。その全員をの顔を見渡す。
「そんなのいいんで、要件だけでお願いできませんか?」
男は立ち上がり、こちらに詰め寄りながら首を鳴らす。
「俺の女に手ぇ出したな?」
え、ハンナ先輩は付き合ってたってことだろうか。
すぐに携帯を開き、クルシュに繋げる。
「おい、おい!」
取り巻き達、目の前のうるさい男をどうにかしてくれ。
「黙れ、通話してんだよ」
一喝し、要件だけを聞いた。
「―わかった。助かる」
全然そんなことはなかった。俺が初めての彼氏らしい。
俺の彼女を、俺の女呼ばわりされたことに無性に腹が立つ。
「いつからお前の女なんだ?てか、お前誰だよ」
「痛い目に逢いたいようだな。やるぞお前ら」
こけにされたことに相当お怒りなようで。喧嘩になってしまった。
すぐに魔法陣に魔法石を当てる。その魔法陣には起動と展開に関する文字しか書いていない。俺のお手製の魔法陣だ。
これで起動すれば、ハウリングのような現象が起こる。それでどうなるかは知らないけど、多分予想通りだろう。予想が外れれば、喧嘩が続く。
一か八か、起動。いくつも魔法が同時に起動。波が干渉し合い、その振幅が増大する。
「よし!」
予想通り、身構えてなかった目の前の金髪以外は、全員ぶっ倒れた。
芸術祭の日に体調不良者が続出したのを聞いて、思いついた。不規則な波をいくつも作り、相手にぶつけるだけの簡単な魔法だが、不意打ちなら意識を奪うことができる。
「俺はこれで……あ」
「逃すか!」
扉の一部を凍らされてしまった。もう出られない。喧嘩はやめてってハンナ先輩に言われているのに。
「……」
ドアがダメなら、窓でいいや。
金髪の魔法を避けながら、窓を背にする。下を覗き、人がいないことを確認。
「じゃあな」
反撃すると見せかけ、真後ろに魔法をぶっ放す。割れた窓から、ひょいと、飛び降りた。
あの日の出来事を知っているなら、今のは屈辱だろう。
この前と同じように、着地……したのはいいが。
「アナタ、何をしているの」
着地したところを、一人の先生に見られてしまった。
反省文のバーバラと呼ばれ、全生徒から恐れられる、この学校で一番面倒な先生。
「生徒指導室に来なさいっ!」
ヒステリックに叫ぶマダムに、従うしかなかった。




