急成長
一回戦。相手はノルトン魔法学校。
「余裕で勝てるだろ」
笑いながらジークが言う。
「まあ、普通にやればな」
そうは言っても、油断をしていると足元をすくわれる恐れがあるので、あまり気は抜けない。
「練習するか?」
ジークが立ち上がる。
他のアリシア勢は全チームが先鋒、次鋒、中堅の三人だけで一回戦を突破しているため、ジークはまだ何もしていないのだ。
「頼む」
ジークと組手をし、目と体を慣らす。ノイルにも声をかけたが、緊張でそれどころではないらしい。
しばらくして、アナウンスが入った。場所は第一アリーナの第三コートだ。
「んじゃ、行ってくるわ。ノイル、行くぞ」
「はい!」
ビシッと自らの頰を叩き、ノイルは立ち上がる。
「頑張れよ」
ジークは背中を叩いて、俺たちを送り出した。
健康状態やアクセサリーの検査を受け、いよいよアリーナに入る。
まだ一回戦だというのに、観客が多い。アリシアという名の重さを改めて実感する。
『先鋒、アルバート・レーザス 対 アンナタ・メージュ。構え!』
相手は姿勢を低くし格闘技の構えを、それに対し俺はただ手を突き出すのみ。
魔術の対決で用いられるその構えに、観客が騒つく。
『えっと……』
審判も戸惑っている。おそらく競技を間違えていると思われているが、昔からよくある事だ。
「こういうスタイルなので、大丈夫です」
そう伝えると、審判は頷いた。
審判は一度、大きく咳払いをして。
『……始め!』
開始と同時、敵はこちらの思惑通り距離を詰めに来た。相手が棒立ちならその動きは最善、だがそこに落とし穴がある。
口一つ動かさず、ただ炎をイメージする。
展開された炎は球状に変化。そして直撃。爆風が敵を、場外へと吹き飛ばす。
『っ!勝負あり』
観客が歓声を上げた。
この三週間、機械いじりばかりをしていたわけではない。一日に何百も同じ魔法を使っていれば、無詠唱になるのは必然。
一礼しコートを後にする。
「たまたま不意打ちで勝てただけだろ」
すれ違いざまゴーマンが呟いた。確かにその通りなので反論する気もない。
偉そうにコート入りしたゴーマンは、相手の作戦に踊らされるがまま、判定にもつれ込んだ。結果は引き分け。
皮肉の一つも出てこない。
引き分けに持ち込んだ向こうの作戦は見事だが、これに勝ちきれないどころか、手も足も出せていないようなら、こいつに次はない。
「ノイル、とりあえず勝て」
中堅のノイルにそう声をかける。
この二週間、朝練でしか会うことがなかった。日に日に体格はよくなっているのは感じていたが、技術的にどこまで強くなっているかはわからない。
ノイルの体格は、一回り大きくなったとはいえ相手と比べると小さい。
相手の方が大きい場合、防御は頭を中心に守り、攻勢に出るときは下段、特にボディーを中心に攻め、ガードが下がってきた瞬間を狙って仕留める。それが体格差がある時の一般的な戦法だ。
ノイルはすぐに頭を守る体勢に入る。前に雑談の中でさらりと言っただけなのに、覚えていたようだ。
『始め!』
驚くべきはその間合いの取り方だ。敵の蹴りがほんの僅かに届かないギリギリの場所で小刻みにステップを踏んでいる。これは全く教えていない。ただ、間合いの重要性を語ったただけだ。
数十秒の様子見の後、ノイルから仕掛けた。敵の足が前後に入れ替わるタイミングを見計らい、下段に蹴り。反撃が来る前に距離を取り、追撃の芽を摘み取る。
相手には当然ストレスが溜まる。このままでは判定負けとなるため、ここからは無理に攻めてくるだろう。それに対してノイルはどう対処するのかそれが勝敗を分ける。
下段に意識を向させることで、相手は顔付近がガラ空き。俺ならここで間合いを詰めて、バックブローで仕留める。
やはりノイルも間合いを詰めたが、運悪く相手のタイミング。このままだと僅かに相手の方が早い。
だがノイルは違っていた。敵が蹴りの動作に入った瞬間、間合いの僅かに外に再び戻った。
迫る蹴りにも微動だにせず、ノイルは詠唱を始めた。ここで魔法を使うとは誰も考えつかない。
「天に轟く雷鳴よ、大気を裂く稲妻よ!」
本来なら捉えたはずの顔がほんの僅かに遠く、蹴りは虚しくも空を切る。
そして大轟音とともに、蒼紫の光が一瞬にして駆け抜ける。
大きく体勢を崩し無防備な敵に、その、長編二節詠唱の魔法が直撃。
完璧なカウンターが決まった。
『勝負あり!』
ノイルが格闘技を始めたのはちょうど一月前。自分を理解し、ひたむきに練習に励んでいたのは知っている。強くなる要素は十分にあるが、それでも成長が早すぎる。
そして今回の勝負の決め手は空間認識の能力だと言える。これはノイルがもともと備えていた才能、たとえ毎日練習していたとしても一ヶ月では身につかない。
それに加えて長編二節での魔法。これは今までの人生で積み上げてきた努力の結果だ。
副将のグランケが負け、勝負を決めるのは大将戦となった。
今はまだ負けないが……油断をしているとすぐに抜かれそうだ。追いかけられるというのは、妙に燃える。
この大将戦は成長のためにも、格闘技のみで勝つ。
そう決めて、コートに入った。




