動き出した恋の話
第一グラウンド、演習場それぞれで、有志の音楽ライブが行われている。この学園の後夜祭は、生徒会に所属する生徒の思い出づくりのために始まり、その頃は細々と芸術祭の成功を祝っていたらしい。
だが今では、一般生徒がそれらを盛り上げている。
必死に歌うバンドグループに、恥ずかしげに手を繋ぐカップル。ダンスに誘う一人の男子生徒と、それを見守るその友人たち。
学年も学科も、魔法も、何一つ関係ない、人と人とのふれあいが、営みが、そこでは行われている。
青春、と呼ばれる光景がそこには広がっている。
そんな様子を、俺は一人、生徒会室から眺めていた。
大音量で流れるライブの音源に、弾む笑い声。おおよそ喧騒に近い騒ぎだか、耳障りではない。
あいにく俺はこういった催しには慣れていない。なので、こうして見ているだけで十分だ。
「今から、クール・アリシア並びに、ミス・アリシア本戦を行います」
そのアナウンスを聞きつけ、生徒らが一斉にステージに集まりはじめた。どこから湧いてきたのかわからない。
正直、俺もこれを楽しみにしていた。近くで見たいのだが……ハンナ先輩を観に行っていると思われるのは少し恥ずかしいので、ここから画角に収める。
扉が開く音が聞こえ、そちらに目をやる。レーナ先輩だ。昨日のこともあるので、人混みは避けたのだろう。
「アルバート君、ここいい?」
「どうぞ」
先輩は窓から外を眺めるのかと思ったが、そのまま壁を背に三角座りをした。白い太ももがちらりと覗く。
「こら、ニヤニヤしない」
ほんの僅かに口角が上がったのを、先輩は見逃さなかった。たぶん、わざと見せたのだろう。
「ありがとうございます」
「なにそれ」
笑いながら、再び窓の外に目をやる。
「アルバート君は、私のこと怖がらないんだね」
ぽつりと、先輩が呟いた。
「俺も似たようなもんですから」
「炎と氷なのに、似たものどうしなんだ」
クスクスと笑いながら、先輩は立ち上がる。
しばらく眺めていると結果が発表された。
一位は誰かはわからないが三年だろう、二位にリーエル、三位にミーナと、ハンナ先輩がランクインしていた。
次に男子。一位はやはり、俺の親友のレックス。二位は知らない三年で、三位はジークと、二年の誰か。
「続いて、フォークダンスを行います。コンテスト出場者の皆様、指名を」
一位の人は、男子二位の人を指名した。
「エルトーレ先生、踊りましょう」
リーエルは、教師である兄を指名し、会場が盛り上がる。
「俺じゃなくて、男を誘え」
そう言いながらも手を取る姿に、会場はさらに湧く。
当然、ミーナはジークの元へ。
その、壇上で交わされるミーナとジークの熱い視線に、会場から冷やかしの声が跳ぶ。
一人一人にスポットライトが当てられ、そのまま意中の相手の名を呼んだり、その人の元に歩み寄ったりする。
そして、ハンナ先輩の番だ。
すると突然。
「ハンナ!アルバート君はここだよ!」
窓からレーナ先輩が叫んだ。
全員がこちらを向き、ざわつき始める。スポットライトが、俺を照らす。
「アルバート君!私と、踊ってほしい」
声を張り上げて、ハンナ先輩は手を差し出した。 体が熱い。
「行ってらっしゃい」
この指名は、断れない。覚悟を決めて、息を吸った。
「喜んで!」
勢いよく、窓から飛び降りた。
空中で魔法を展開し、ゆったりと着地。そして、俺を待つハンナ先輩の元へ。
ゆっくりと階段を登り、手を取った。
物語の主人公のような振る舞いに、最高潮に盛り上がる。
「……ありがとう」
先輩は初めて、皆の前で本当の一面を見せた。
「こちらこそ」
何人の男子を敵に回したか、考えたくもない。
「俺、踊れませんよ」
不意に手を引き、先輩が俺の肩に手を回す。
「私に、任せて……」
「……はい」
気の抜けた声でしか答えることができなかった。ハンナ先輩も、顔を真っ赤にしている。
これは絶対にレーナ先輩が吹き込んだに違いない。
先輩に身を委ね、踊る。
「アルバート君……」
先輩の頰は紅潮し、目は潤んでいる。
「……はい」
俺もそこまで鈍感ではない。この後に何が続くのか、それくらいわかる。
先輩は足を止め、顔を近づける。それは予想外の事態に、鼓動が早まる。
「……好きだ」
耳元で囁かれ、脳が熱で溶けた。思考が回らない。
しばらくして、ようやく余裕を取り戻す。
「……俺なんかで、いいんですか?」
「君じゃないと……嫌だ」
「先輩……かわいいですね」
ムッとした様子で、こちらを見上げる。それに対し、耳に顔を近づけ、囁く。
「俺も、好きです」
その反撃で、先輩の顔は耳まで真っ赤に染まった。
俺は感じた。人に愛されることはとても幸せで、何物にも代えられない価値があるのだと。
俺の恋は、今、動き出した。




