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古代技術と爆炎の三流魔道士  作者: Uノ宮
芸術祭編
51/62

Queen of frost

『次は、プログラム二十番。美術部による、魔法絵画の披露です』


 ここまで派手に魔法を使っていても、なぜ周囲に気づかれていないのか。


今のアナウンスで、その答えがはっきりした。


「氷槍よ!」

「ルーディス」

魔法石で盾を展開し、なんとか凌ぐ。だが、それも今ので最後だ。


「どうする……」

 この時間は、魔術部の演舞、美術部の魔法絵の披露だ。そのため、会場内で数多くの魔法が使われているのだ。だから、奴らの魔法による魔導反応にも何ら違和感を持つものはいない。


尚も続く猛攻。

「雷よ!」

「雷よ!」

空気を切り裂きながら立て続けに迫る雷を、なんとか躱す。


 どうにかして、この状況を伝えなければならない。だが、俺に人に何かを伝えるための魔法など使えない。

「石ころ遊びはもう終わりかい?」

こちらから打開する手段がない以上、避けることに専念するしかない。



何発も放たれる魔法を避け続けた。だがそろそろ、体力も限界に近い。


「会長にも、先輩にも、見捨てられたようだね」

腹を抱えて大笑いしている姿に、唇をかんだ。

「あれだけ心配してくれていたレーナという女も、今はショーに夢中なようだね」


「そうか……」

俺は、この石に頼りすぎていた。


「まだやる気か?」

「ルーディス・オーバー・フラン」

頼む……届いてくれ。

「ルーディス!オーバー!フラン!」

起動と属性変化を、ただひたすらに繰り返す。


「盾よ、火を打ち消す盾よ、我らを守りたまえ」

氷の盾が、敵の目の前に展開される。

「お前の魔法も無駄だ」

それでも繰り返す。俺にはもう、これしかない。






 場内に異変が現れ始めた。

「なんか……気持ち悪い……」

「俺も……」

何人もの生徒が、体調不良を訴え始めた。


それは、舞台裏でメイクをする一人の生徒をも襲う。

「レーナ、どうしたの?」

頭を抱えるレーナの姿を目の当たりにし、ハンナは心配そうに問いかける。


今までにないほど不規則なそれに、レーナは察した。

「アルバート君に、何かあった」

驚いた様子で、ハンナが立ち上がる。その目は、助けたいという思いに満ち溢れてる。

「待ってハンナ。私が、行く」

そんなハンナを、レーナが制止する。

「でも……」

「アルバート君に、後夜祭で見てもらいたいんでしょ?」

にっと笑い、レーナはドレスを脱ぎ捨てた。


 



 波に乗せた想いは、届いた。





『クール・アリシア並びに、ミス・アリシア予選に出場する生徒の方は、集合場所に集まってください』 


「そろそろ、終わりの時間ですね。ここまで、よく耐えました」

笑いながら、手を叩いている。


「最後に言いたいことはありませんか?」

「何が崇高な魔法だ。やっぱり、魔法より科学だな」

「ここまできて尚魔法を貶すなど……やはりあなたには、死んでもらいます」


もうすぐだ。あの時のように、必ず来てくれる。

「「雷よ」」

雷が放たれた直後。ふわりと浮き上がる。

「生徒会執行部です!」

冷たく響き渡る声。やはり、来てくれた。


あの日のように、先輩の横に運ばれる。

「大丈夫だった?」

「はい……すみません」

俺が謝罪をすると、ムッと睨まれた。言葉を間違えたらしい。

「ありがとう……ございます?」

「そう、正解」

頷きながらも、先輩の目は相手を捉えていた。



迫る魔法を、なんの造作もなくただ打ち消しながら、先輩は話し始めた。

「私ね、アルバート君に隠してたことがある」

「どうしたんですか?」

手袋を外しながら、続けた。

「ハンナの話を聞いて、アルバート君が助けを求めてくれて、思ったんだ。二人とも、変わったんだなって。それで、私も正直に生きようと思った」


その意思を汲み取り、俺は先輩を見て頷いた。先輩は変わろうとしている。


「アルバート君は、爆炎の愚者って呼ばれてたよね?」


四年前のことだ。その当時、名を馳せていた三人の中学生。その通りな氷の女王、幻惑の舞子、雷の撫子に倣ってつけられた、俺の通り名。それが爆炎の愚者。

「なんで、知っているんですか?」


手袋を投げ捨て、先輩は笑った。


「氷は、対になる爆炎とは比べられるから」


「私は、氷の女王……」

詠唱は、その一節から始まった。伝わる波は、先輩の瞳の奥で感じていたものと同じく、冷たい。


「―ここは、私と氷が支配する―」

ゆらゆらと、雪の結晶が舞う。


「「盾よ!」」

異変に気がついた敵が、魔法に備える。


「―銀世界」

そして、最後の一節と共に放たれた結晶が、地面に落ちた瞬間。


 一面が、氷に覆われた。銀世界へと変貌したのだ。


 半身氷漬けになった敵を見ながら、先輩は冷たく笑う。

「アルバート君。私は、この魔法で、人を殺めたことがあるの」

自嘲的に笑う、その目には、深い悲しみが含まれている。

「知ってます」

俺も、比べられていたから。

「だから、私はこの魔法が憎いの」


俺の中には、確かな答えがある。今の先輩の言葉は、それに照らし合わせれば間違っている。


だから、諭すように口を開いた。

「先輩は、間違っていません。相手は八人を殺した凶悪犯です」

「でも、殺したことには変わりない」

声を震わせる先輩に、こちらも声を張る。


「先輩が止めなければ、もっと多くの命が奪われていたんです。だから、自分を責めないでください。先輩は、人を殺すために使ったんですか?助けるために使ったんですか?」

「……助けるため」

声を緩め、優しく訴えかける。

「だったら、それでいいじゃないですか」


先輩の手にも、霜が降り始めていた。


「もっと早く、アルバート君に逢いたかったな……」

糸が切れたように、先輩が倒れ込んだ。

「先輩!……嘘だろ」

体温は驚くほど低く、呼吸も浅い。この魔法は、諸刃の剣だ。



他一切を考えず、先輩を背負った。


首に冷気を受け、その部分の感覚が失われていく。だが、構わずに走り続けた。


「アルバートの君……場内に……」

「わかりました」

すぐ側の扉を蹴り開け、近くの席へと走る。


こちらを見て驚く生徒に、呼びかける。

「生徒会だ。頼む、一席空けてくれ」

生徒らは騒然としながらも、席を譲ってくれた。着ていたコートを先輩に被せる。


「魔法で温められるやつは温めてくれ!」

事の深刻さに気がついた生徒らは、それに応じる。


 五分ほどで先輩の体温は戻り、そしてそのまま、眠りについた。その表情は、重荷から解放された喜びからか、笑っているように見えた。




 この騒動は、一般生徒の誰にも知られていない。なぜ先輩がこうなったのか、なぜミスコンを辞退したのか、その本当の理由を知る者はいない。


 生徒の間で断片的な情報が入り混じり、つながり、やがて一つのストーリーが出来上がった。


その中の俺は、やはり悪役だった。





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