争奪戦2日目
一夜明けた通学路。今までと変わらず、隣にはミーナがいる。
視線を感じるのはミーナに対してか、それとも俺に対してか。おそらくは後者。
空を飛んで、なおかつあれほどの魔法を展開したら、目立つのは当然だ。学園生活の開始早々、面倒な事になった。
「目つき悪いよ?」
「生まれつきだって知ってるだろ」
遠くを見るときの目つきの悪さと、生まれつきの髪色が相まって、完全にその類の人間だと思われているだろう。
「お前、俺と歩いてて大丈夫かよ」
周りから見れば、優良児が不良に絡まれてる図である。可哀想、などという声も聞こえてくるほどだ。
けれどミーナは、鼻歌交じりに俺の横を堂々と歩いている。
門までたどり着いたところに、一人の女子生徒が近づいてきた。顔立ちから判断すると先輩だ。恐らくはミーナに用があるのだろう。
「ミーナさん、今大丈夫?」
やはり。ミーナに少し待っててと言われ、俺は少し離れて会話が終わるのを待った。
「ごめん、おまたせ」
数十秒なので、お待たせと言うほどでもないが。
「誰だ今の?」
「生徒会の人だよ。答辞は生徒会執行部に入るのが条件だからね」
そういう制度だったのか、初めて知った。頑張れよ。と、とりあえず労いの言葉をかけておく。
「アルバートも入らない?記章貰えるよ?」
「記章は欲しいが、仕事が多いから面倒だ」
聞くところによれば、生徒会は殆ど全ての行事に関わっているらしい。それに、俺は生徒会に入れるような立派な人間ではない。
「なら学級委員長にすれば?やってたから分かるけど、あれ、ほとんど何もしなくていいよ」
その割には評価が高いから、と、ミーナは笑いながら言う。
「それでも、迷うわ」
笑いながら、ミーナと別れた。
始業の鐘が鳴った。今日も、順調に事が運べば二時間で終わる予定だ。
今日は魔導書の配布と、それぞれの係を決める。どこの学校でもこの流れは同じだろう。
係を決める。まずは委員長からだ。
女子の方は、立候補したリーエルで決まった。そして、男子。さっきも言った通り、やはり悩む。先生と目があった。
「立候補は居ないか?」
気がつけば、俺は手を挙げていた。
「アルバート、志望理由を聞かせろ。次にお前だ」
ミーナの話と、リーエルにやってみようと言われたからだし……適当に誤魔化すか。
「この機会に経験しておこうかと迷っていたところ、アリシアさんが声をかけてくれました。それならぜひ、と思い、立候補しました」
ほとんど何も考えていなかったのに、驚くほどに言葉がスラスラと出てきた。
「なるほどな。次、お前」
「僕こそが委員長、そして彼女のパートナーに相応しいと思うからです。あんなやつに、彼女の隣は務まらない。僕こそが彼女に相応しい唯一の人間なのです。以上です」
見下したような話し方にイラっときた上に、あんなやつとはな。それに最後、よくあのバカ兄貴の前で言えたもんだ。
「あ?最後、聞こえなかったわ」
やっぱり、不機嫌になるわな。
「僕こそ、アリシアさんに相応しいと言いました」
「ふざけてんのか?」
眉が、さらに釣り上がる。バカだろ、こいつ。
「いえ、僕は至って真面目ですが……」
「はい却下、アルバート、頼んだぞ」
はーい。と、軽く返事をしておく。横目で奴を見ると凄い目でこちらを睨んでいる。
「贔屓です。納得いきません」
俺が口を開くより早く、
「いい加減にしろよ」
誰か他のやつが代わりに言った。
「いいでしょう。ここは彼に譲ってあげましょう」
なぜか、俺を睨んで座った。今後、変に絡まれなければいいが……
その後は滞りなく決まり、予定通りの時間に全てが終わった。
帰る間際、先生から、今日は騒ぎを起こすなよと耳打ちされた。加えて、教師で気づいているのは俺だけで、今回はそれっぽく誤魔化せたが、次は厳しいと。
留意するが、ここからその問題にぶち当たる。昨日のこともあるし、今日は空からは逃げられないだろう。
肝心の部活動だが、俺は全く決めていない。ミーナは生徒会に入るため、生徒会のメンバーが多く両立がしやすい儀仗部に入ることを決めたようだ。リーエルは学業優先で考えているため、今のところはどこにも入らない予定らしい。
帰り道の最大の難所、アプローチだ。
「今日は逃がしませんよ。説明だけでも聞いてください」
「私はもう決まったので」
ミーナが断るが、まだ引かない。本当に鬱陶しい。だから人が集まらないんだよ。
「私は学業優先なので」
リーエルも続く。これで諦めるだろうと思っていたが、そいつらは俺の前に立った。
「違うよ、君だよ。昨日のあれ、すごい魔法だったね」
気がつけば俺の周りに人が集まり始めている。手の平返しもいいところだ。
「「いたぞ、ここだ」」
「二人は先に行け」
ミーナとリーエルの背中を押し、集まる人の輪から追い出した。
勧誘はどんどんと集まる。特に、体育会系の勧誘が。
「だから入る気はないって言ってるでしょう」
俺の叫びも、全く耳に入っていない。
五分以上が経った。我慢してきたとはいえ、さすがに腹が立ってきた。これは俺が短気だからではない。全員まとめて蹴散らしてやろうか。
「いい加減に……」
目を閉じた瞬間。
「え?」
「生徒会執行部です」
その声とともに俺の周りは魔法の壁に包まれ、それが 広がり、生徒らを押しのけていく。
体育会系の奴らを押しのけるとは、なかなかの魔法だ。
そしてそのまま、俺はその壁ごと門まで運ばれた。
「ありがとうございます」
「君、人気者だね」
運んでくれたのは、生徒会の腕章をつけた、女子生徒。
「昨日色々あったので」
あっと、彼女は俺を指差した。
「アルバート君だよね?」
そうだが、どうして俺の名前を知っているのか、不思議でならない。