余波と陰謀
食事会では、前の発表を聞いてくださった学者や開発者の方々とそれぞれ分野の話を交えた。最前線にいる人たちの話は刺激的で、なによりも話し方が上手い。
そのおかげで、ジークとミーナのことなどすっかり忘れていた。
家に着いてもその余韻は残っており、風呂に入って初めて思い出した。ベッドに潜り、携帯を開く。
『どうしよ、告白された』
『付き合うことになった』
と、ミーナから。ジークからは届いていないのは、おそらく、舞い上がっているからだろう。よかったな、ジーク。
他人の恋愛成就を見届けたところで、眠りについた。
翌朝の朝練。ノイルから突然、話があると言われた。
「あの、僕、クラスの子に告白されました」
その一言で俺の思考が止まる。ノイルからそんな言葉を聞くとは思っていなかったからだ。
「まて、二週間の間に何があった……」
ついこの前まで、ハンナ先輩一筋だったはずだ。
「その子が、同級生に強引に食事に誘われてるのを助けたんです。そこから話しかけてくれるようになって……」
強くなったし、助けたということには驚かない。
問題は、その答えだ。
「今、返事は待ってもらってます。その子が僕のことを真剣に考えてくれているのは伝わってきます」
「ハンナ先輩は、いいのか?」
たとえ難い複雑な思いを押し殺しながら、問う。
「先生は、優しいんですね」
「俺が、優しい?」
「ハンナ先輩は、先生のことが好きです。先生もそれに気がついているはずです。でも、僕の想いを知ってるので、あえて一歩引いた立場にいますよね?」
「……その通りだ」
しばらく黙った後。
「やっぱり、優しいんですね。僕は、その女の子に真剣に向き合うつもりです」
「そうか」
それは、ノイルが出した答えだ。正解なんてないし、俺がどうこういえるものでもない。
「なので、先生も先輩に向き合ってほしいです。追いかけてばかりは、普通の人には辛いですから」
ニコッと、屈託のない笑みを浮かべる。
強い想いが込められたそのことばに、心を打たれた。ずっと弟分だと思っていたノイルが、いつのまにか大きくなっている。
「わかった」
その言葉だけを残し、練習を再開した。
教室に到着すると、いつもとは違う少し曇った表情でリーエルが話を始めた。
「アルバート君、聞きましたか?」
「何をだ?」
「昨夜、学校の図書室から古書や古代文明に関するもの全てが盗まれました」
驚きつつも、その詳細を聞く。
狙われた本の内容から考えると、原因は俺だ。
「おそらく、魔法崇拝団体の仕業だな」
魔法崇拝団体といっても様々だが、おおよそどの団体かは見当がついている。さらに、厳重な警備を潜り抜けての犯行であるため、学校関係者であることも想像がつく。
「学校関係者というのも、厄介ですね……」
深刻な表情でリーエルがつぶやく。
しばらく、その意図を考え込んだ。この時期、そしてこのタイミング……一つの推論が導かれた。
「これは、俺に対する予告だろう……明後日、何かある」
冷や汗をぬぐいながら、そう答える。
「私も、そのような気がします。兄とお祖父様に伝え、最悪の事態に備えます。アルバート君は、とにかく、気をつけてください」
「わかってる。それと、これはあまり公言しないほうがいい」
最後に、そう付け加えた。内部に協力者が可能性がある以上、こちらも水面下での対策が求められるからだ。
対策を考えているうちに一日が過ぎた。
会長に伝えたところ、明日、緊急の対策会議をするとのことだ。
これに真っ向から挑むほど、俺も馬鹿ではない。これは、俺の手に負えるほど簡単な問題ではない。警察や軍に任せるべきだという事ぐらい、理解している。
とにかく、俺は身の安全を第一に考えなくてはならない。




