学者への一歩
日は進み、日曜。俺は、親父に頭を下げられていた。
「頼む!使わせてくれ」
使わせてくれ、というのは俺が作ったボードの安定機構のことだ。さすがのマゼラティクスでも、魔法石の研究まではしていなかったようだ。
「研究チームに入れてくれたらな」
「わかった」
「え、マジ?」
冗談のつもりで言ったのだが、親父の目は本気だ。
「こちらとしても、お前がいた方が助かる」
「あ、そうなんだ」
話が予想外の方向に進んでいる。
「そっちも学会で発表するなら、何かしらの後ろ盾は必要だろう?」
「まあ、確かに」
その後ろ盾がマゼラティクスとなれば、これ以上のものはない。
「それに、報酬は弾むぞ?」
「どんくらい?」
金で釣るとは卑怯だが、それにすぐに食いつく俺が言えた義理でもない。こういうところは、やはり親子だ。
「……多分、俺の年収は超えるな」
「マジか……」
親父の年収は世の男の平均給与の倍ほど。それを超えるとなると、かなりの額だ。
「しかも、一定の額がこれから毎年入るだろうな」
頭の中が金のことでいっぱいになった。もう何も考えられない。
「とりあえず、来週までに詳しいブツを頼む」
そんな俺を見兼ねて、親父が俺の肩を叩いた。
「普通に論文って言えよ」
「いや、ブツだ」
「仕上げとけばいいんだな?」
「ああ、こちらで上との話はつけておく。あと、演説の内容も考えとけよ」
「了解」
「忙しいから、戻るわ」
そう言って、そそくさと帰って行った。
といっても、忙しい主たる理由は、新型のボードに親父しか描けない複雑な魔法陣が使われているからなのだ。
調子に乗るからそういうことになるんだと言ってやりたかったが、それよりも、わざわざ来てくれたという感謝の方が大きい。本来なら、俺なんかにかまけている時間などないはずなのだ。
こういう所は本当に尊敬しているし、自分もこんな親になりたいと心から思っている。
一息ついてから、論文に取り掛かった。
こういった公文書で、書くべきことは二つ。
一つはシステムの原理と実験データ。これが何より重要だ。さらに、今ある限りのデータを可能な限り分かり易く説明しなければならない。
二つ目は、それらの設計図。これは俺のものをそのまま貼り付ける。そして、考え得る限りの改善点を列挙して書き出す。この場合、小型化や多方向への魔力供給が挙げられる。
意気込んで取り掛かってはみたものの、思ったよりも言葉にするのが難しい。
設計図にはq=C V、F=75g/7などの数式がひたすらに並んでいる。用いているのが古代文明の知識や数式であるため、そのままでは通じないのだ。
半日をかけて、ようやくまともなものに仕上がった。自分の発明ですらここまで時間がかかるとなると、他者の研究の考察はどうなるのか、不安でならない。
携帯を確認すると、レーナ先輩からのメッセージが入っていた。
『明後日の集会の活動報告だけど……主にマゼラティクスとの共同研究の報告だから、アルバート君、よろしく』
やっぱりこの人、めちゃくちゃだ。
「嫌です」
返信はすぐに帰ってきた。
『私はもう、何も考えない』
『お願い!』
こうなってしまったらもう、俺がやるしかない。
わかりました。とだけ返信し、風呂へ。
ベッドに潜り込み、何を言おうか考え始めた。全校生徒の前となると、さすがに緊張する。いろんな意味で目立っているから尚更だ。
一通り文言を考えたところで、眠りについた。




