空を、飛ぶ
合宿も終え、通常通りの学園生活へと戻った。授業も今まで通り進んでいく。
ここ数日で、クラスになんの変化も見られない中、俺を取り巻く環境は一変した。人の色々な想いを知り、自身の方向性を再確認できた。
振り返れば四月は、人としてかなり成長できたのではないかと思っている。
そしてもう一つ。魔力の安定供給を担う機構が完成した。
その鍵は魔法石にあった。魔力を使い果たした透明の魔法石に魔力を注ぎ続けると、全体的に色が戻っていったのだ。
その、吸収と放出の二つの性質を組み合わせたのが、その機構の主な構造となっている。
二週間近く悩んだ末の発見だったため、かなり嬉しい。
どうやら革新的な発見らしく、先生が勝手に特許を取得ししていた。当然、俺の名義でだが。
そこから二日で配線と溶接、組み立てを終え、残るは研磨となった。正直、一番簡単な研磨が最も時間がかかる。だが、それを乗り切れば完成だ。
大会に備えて部活の練習量は増やしつつ、家で作業をこなしていった。
激動の四月から一転し、ゆったりとした日常が流れていく。
俺の体もだが、ノイルの体に大きな変化が訪れた。腹筋が割れ始めたのだ。二週間で技術的な事はほとんど教えた。蹴りも練度を増し、人の意識を飛ばす程度の威力にまで成長した。
吸収の速さに驚いているが、同時に嬉しさを感じている自分がいる。
そして、ついに……
作品が完成した。理論上は寸分の狂いもない、飛行補助魔導器。
安定して飛ばすために、思考を凝らした装置がいくつもある。
「乗るぞ?」
そして今、アリシア家の演習場で初の飛行実験が行われている。
「落ちんなよ」
笑いながら先生が言う。落ちた時は多分、この人がなんとかしてくれるだろう。
リーエル、クルシュに見守られる中、ボードを起動した。
轟々と炎を吹き出しながらボードは浮く。かなり不安定。
転倒防止装置を搭載しているため、普通にしていて倒れることはないのだが、それでも怖い。
足を固定し、魔力を注ぐ。炎の出力が上がり、さらに浮き上がる。一定の高さまで上昇した後、推進機構へと魔力を送る。その機構は、スイッチ方式を採用した。
姿勢を低くし、徐々に加速。初めはゆっくりと曲がる練習から始まる。制動システムが作動し、緩やかにカーブを描く。そして、もとの位置にまで戻り、ボードから降りる。
「こんなもんか」
「遅えな」
先生が笑いながら言う。
「先生もやってくださいよ」
「いや……いいわ」
「兄さん、できないの?」
渋る兄に対してリーエルが兄を挑発する。
「やってやろうじゃねえか」
そう言って、ボードに乗った。単純な人間だ。
「アルバート、本物を見せてやる」
と言いながら、自身に浮遊魔法をかけている。だが、これが俺の理想だ。
制限ギリギリの最高出力で飛び回っていた。身体能力が高すぎる。
「お前の兄、なんなの?」
リーエルに問う。
「兄さん、もともとはボードの代表です。そこから軍に入隊して、北とのいざこざを一人で治めて、今は教師です」
「意味が分からん」
異色すぎる経歴だ。だが、今ので実感したが、間違いなく、この国で最も強い。
「私にも理解できません」
笑いながら、リーエルが言う。
「な?俺ってなかなか凄いだろ?」
誇らしげに先生は言う。悔しいが、凄いと言わざるを得ない。
「まあ、これの出来は完璧だな。加速、減速に関しては加速魔法のボードよりも遥かに早いし、体力の消費も少ない。曲がるのは少し厄介だが、練習すればなんとかなる」
酷評されると思っていたが、褒められた。
「何より、魔力の安定感が並外れている。多少意識がそれでも、全く問題ない」
さらに、最も気になっていた、魔力の安定も十分とのことだ。
「ボードの選手になれよ。基本的に皆、お前ぐらいの歳から始めるから、この時点では十分狙える」
「マジですか?」
「まあ、これを競技本部の審査に通して、なおかつ人の三倍は練習する必要があるけどな」
三倍、という言葉が重くのしかかる。だが、魔法の根本を変えるには最適な機会だ。
「まあ、これで通学するんで、上手くなってから考えます」
二、三年のなかには何人かそれで登校しているらしいから、浮くこともない。
物理法則に則って空を飛ぶ。これは、昔ながらの知識だ。
何でもかんでも魔法で片付ける世の中に一石を投じる、いい切っ掛けになるだろう。




