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古代技術と爆炎の三流魔道士  作者: Uノ宮
入学編
4/62

争奪戦1日目



 本校舎を抜け、アプローチに差し掛かる。テントが張られたその光景は、どこにでもあるような部活勧誘。唯一違うのは、その熱気。


 帰るためには、この部活勧誘がひしめく人混みだらけのアプローチを抜けなければならない。


 だが、隣の二人が早速標的となった。

儀仗(ぎじょう)部はどうですか!」

「吹奏楽部に入部してください」

「君!格闘技部に向いているよ!」

そのほかにも、勧誘の誘い文句が飛び交う。

「君、芸術部のモデルになってよ」


 魔導工学部のリーエルには、主に芸術系の部活が狙いを定めている。賢明な判断だと言える。

「ミーナさん、ぜひ魔導器研究部に!」

「魔法学科なら、魔法学部だよ」

「君、格闘技部に入る気はないかい?」

最初の二つはわかるが、華奢な女子生徒に戦闘はないだろう。それにしても、ミーナはやはり有名だ。


 気がつけば俺たちの周りは人だかりができていた。首席と学長の孫がセットならこうなってもおかしくはない。

「アルバート、どうする?」

ミーナが困った様子でこちらを伺うが、俺にはどうすることもできない。

「どうするっつっても」

「飛びましょう」

惑う俺に代わって、リーエルが答える。

「俺は飛べない。二人で行け」

二人は目配せをし、俺の腕を掴んだ。

「アルバート、行くよ……せーの!」

瞬間、体が浮かび上がる。

野次馬どもの頭を飛び越えた。

「「飛んだぞ、追え!」」

どよめきが起こる。そうして、あっという間にアプローチを抜けた。

詠唱なしで門までとは、さすがとしか言いようがない。


飛ぶというのは、こんな気分なのか。


それにしても、ここまでしても付いてくるとは、しつこい奴らだ。ほんの少しだけ、脅してやろう。


目を閉じ、意識を集中させる。そして、詠唱を口ずさむ。


「ルーディス・ラ・デーラ・ラウディス・ラ・フラン・メイド・アド・メイド……」


紡がれた言葉に従い、体から溢れ出した魔力が腕へと収束、魔法陣が空中に展開され、紅く浮かび上がる。


陣は幾重にも重なり、焔が渦を成し始める。


「アルバート⁉」

波動が三人の髪を揺らす。

「アルバート君⁉」

魔法は完成し、後は放たれるのを待つのみ。

「「避けろ!」」

魔力反応を感知し、慌てて射線から飛び退いた。

それを確認し、すぐに魔法を解除。

「……セル」

魔法陣は割れ、収束した魔力は発散、三人の体内に吸収されていく。

ミーナの青ざめた顔を目にし、笑ってしまった。

「マジで撃つと思ったのか?」

「略してたし、顔が本気だったから!」

ミーナの額には冷や汗が浮かんでいる。リーエルに至っては涙目だ。

「撃つわけないだろ」

こんなもん撃ったら、退学どころの騒ぎではない。テロリストの仲間入りだ。

そうこうしていると、校舎から尋常じゃない人数の教師が出てきた。

「さすがにやりすぎたか」

どうしようか考えていると、リーエルが俺の手を引いた。

「着いてきてください。いい場所があります」

リーエルに導かれるまま、俺たちは近くのカフェに逃げ込んだ。


 隠れ家的な場所に位置していたカフェ。その店内は、照明が抑えられ、落ち着いた雰囲気を漂わせている。奥の四人がけのテーブルに着き。とりあえずコーヒーを注文した。

「聞きたいことは山ほどあるのですが」

リーエルが話を切り出した。俺は黙って頷く。

「先ほどのあれは何ですか?」

何ですかと言われても、見た通りだと思うが。

「見たとおり、魔法だが」

「それは分かっています」

「私が説明します——」

ミーナが説明を始めた。あれは略式詠唱の一つで、父が生み出したものだ。使えるのは親父と俺と、ミーナだけ。

「そういうことですか」

「まあ、そのせいで父も俺も学界からは永久に追放だ」

笑い飛ばしながら言う。


 崇高なる言語と位置づけられた魔法詠唱を改変し、省くなど、学界の幹部が許すわけがない。まあ、父も辞めたがっていたからちょうど良かったのだろう。今となっては笑い話だ。


「アルバート、時間割」

そうだった。直ぐに端末を開き、先生にもらったものをそのまま転送した。

「ミーナさん、私とも連絡先を交換しませんか?」

リーエルの言葉に、ミーナは喜んで応じた。そこからは二人で勝手に盛り上がり始めた。


 居場所を失った俺は、追加で注文したチョコレートケーキを頬張りながら、本を読み進めた。


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