小さな恋の話
トレーニングの後、入浴を済ませ、食堂へ。夕食は、バイキング形式で、ささみなどの低脂肪高タンパクの肉がふんだんに使われたメニューになっている。
さすがというべきか、集合時間の五分前には部員全員が席についていた。シュヴァルト先輩、アネット先輩、俺、ジーク、マット、ノイルの6人でテーブル囲んだ。
シュヴァルト先輩が前に立ち、予定の説明を
「明日から予定は、10時から二時間の全体練習、朝練は自由。明日の昼から魔術部が来るから、明日の夕食は交流会、そして、明後日からは合同練習だ」
男子から歓声が上がる。この部は女子が少ないし、男勝りな人ばかりだからだ。正直、魔術部の女子部員のレベルは高い。
「ノイル、どうした?」
「いえ、なんでもないです」
一瞬、喜んでいるように思えた。これはもしかして、本当にそうなのか。
「それじゃあ、合掌。いただきます」
「「いただきます」」
夕食が始まった。
どれも程よく味付けがされており、疲れた状態でも食べやすい。それに、軍の食事のイメージを覆すほどの美味しさだ。
「明日、朝練するか?」
シュヴァルト先輩が五人に問いかけた。
「します!」
真っ先に返事をしたのは、ノイルだ。さっきからずっとだが、緊張で顔が引きつっている。
「ノイルがやるなら、私も」と、アネット先輩。
「僕もやります」マットが続く。
「俺もする。アルバートもするだろ?」
ジークが咀嚼中の俺に気遣い、俺に聞く。俺はそれに頷き、六人の参加が決まった。
「そういや、部屋割り決めてなかったな」
思い出したようにシュヴァルト先輩が言った。それに対し、女子は色々ややこしいから私が決めると、アネット先輩が。
「男子は、好きに決めさせるか……ジーク、お前が残り三人決めてくれ」
「一緒な前提なんだな……まあ、ここの三人でいいだろ」
「わかった、お前らはいいか?」
俺とマットは頷き、ノイルは固まっている。
「僕でいいんですか?」
と、か細い声で聞き返す。
「むしろ歓迎だ」
シュヴァルト先輩はにっと笑った。
「えー!ノイルは私の部屋に呼ぼうとしてたのに」
アネット先輩のその言葉に、ノイルは胸を撫で下ろした。
部屋割りも無事終わり、部屋に向かう。日も完全に落ち、空は藍色に染まっている。
「どっちにする?」
シュヴァルト先輩がカバンから取り出してきたのは、旅行の定番、トランプだ。
さっき、合宿は遊びじゃないって言ってたような気がするが、そこは触れないでおこう。
一時間ほどトランプに興じ、消灯より一時間早くベッドに潜る。
「最近、会長とはどうなのよ?」
ジークの一言から始まった、こちらも旅のど定番、恋話。シュヴァルト先輩に向けられたものだ。
「……何も進展ねえよ」
ボソボソとシュヴァルト先輩は答えた。見た目とは裏腹にかなり奥手ならしい。
「まだ何もないのかよ」
ジークが笑っている。それに対し、お前は何もないのかと先輩が問う。
「まあ……特に……」
誤魔化そうとしたが、そうはさせない。俺は知っている。
「ミーナとはダメだったのか?」
「おい!言うなよ!」
ジークは、ばっと布団から飛び起きた。
「主席の子だよね?ああいう子がタイプなんだ」
ニヤニヤしながら、マットが続く。シュヴァルト先輩は意外だといった様子だ。
「まあ、いいなって程度だ」
恥ずかしそうに頰を掻きながらジークが答える。
「で?どうなんだ?」
すぐに畳み掛ける。
「まあ……今度ご飯に行くことになった」
「すげえな……」
意外と積極的だ。というより、好き嫌いがはっきりしているミーナとそこまでいくということは、かなり脈アリだな、これ。
「そういうお前は、何もないのかよ」
仕返しのように聞き返してきたが、
「ない」
即答した。シュヴァルト先輩からレーナ先輩のことについて聞かれたが、首を横に振った。
「……なら、マットは?」
諦めたジークは、マットに話を振った。すると、マットは照れながら、
「……カタリーナさん」
と答えた。ぴんと来ないが、聞くところによると部内の一年らしい。
「ああ、お前の好きそうな感じするわ」
納得したように、ジークが頷く。
「部内恋愛はいいが、活動にに影響しない程度にな」
笑いに包まれた。
そわそわし始めたノイルに、視線が集中する。
「心当たりある、当てていいか?」
こくこくと、緊張した面持ちで頷くノイル。
一人、こいつが言っていた人物像に完全に一致している人を知っている。まあ、ダメで元々だ。
「ハンナ先輩だろ?」
「っ!」
一瞬で頰を赤く染めた。わかりやすい。
「これは、黒だな」
そう言いながら、シュヴァルト先輩が笑っている。
「それって、魔術部部長の?」
マットの問いに、俺が頷く。ノイルは完全にショートしている。
「ノイル、ハンナ先輩に憧れてこの学校に来たって」
「へぇ、なら普通、魔術部じゃないのか?」
シュヴァルト先輩が優しく問う。
しばらくして。
「先輩は、格闘技も強くて、追いつきたいと思ったから、この部に入りました」
「そうだったのか」
「けど、全然ダメで……」
弱気な言葉に、シュヴァルト先輩が優しく笑いながら、お前なら大丈夫だ、と励ました。
「ほ、本当ですか?」
部長直々の激励に、緊張気味に聞き返す。
「入部テストでわかったが、お前の魔法は威力はまだまだだが、かなり洗練されている。質的な完成度は、かなりのものだ。ちょうど、火力バカのアルバートとは真逆」
軽く俺へのディスがあったが、正座で真剣な表情を浮かべるノイルを見ていると、そんなのも気にならない。
「今はまだまだだが、期待している」
その言葉に打ち震えながら、ノイルは頭を深く下げた。
「アルバート、今日みたいに色々と教えてやってくれ」
「わかりました」
不安げな表情を浮かべるノイル。
「ノイル、アルバートと一緒にいれば大丈夫だ」
シュヴァルト先輩が優しく言う。
「一緒ってことは、Aの練習もですか?」
俺の問いに先輩が頷く。ノイルは驚いていたが、
「大丈夫だ、参加といっても、ミット打ちぐらいだ」
「わかりました!」
五人からの頑張ろうぜ、という言葉に、ノイルは嬉しそうに、そして力強く頷いた。
ちょうど消灯時間になり、眠りについた。




