壮大な野望
一時間半ほどで全体練習は終わり、自主練習に移った。シュヴァルト先輩とアネット先輩は少し実践練習をしてからトレーニングに入るらしい。
一度コートに戻り、二人にも声をかける。
「俺らはトレーニングするが、お前らもするだろ?」
「自主練?するわけないだろ」
笑いながらゴーマンが答えた。
勝つ気あるのかという俺の問いに対して、あるに決まってるだろ、と二人が口を揃えて答える。
「なら、しろよ」
「基礎練なんか意味ねえよ」
そう吐き捨てるような二人に、強くなる未来はない。俺は諦め、二階へと向かった。
しかし、ノイルは違っていた。
「……意味あります」
「なんだ?」
「基礎ができない人は、絶対に勝てません!」
珍しく声を張り上げた。
「ああ?雑魚が何言ってんだ?」
ノイルに詰め寄る二人の間に割り込んだ。
「雑魚って……同じDの分際でよく言えたな」
「黙れ、いい気になるなよ」
舌打ちをしながら、二人は宿舎へと帰って行った。
「なんでこうも上手くいかないかな」
ため息をつきながら、ノイルを抱えた。
「歩けますから、離してください」
「それにしても、カッコよかったな、さっきの」
「からかわないでください」
ジタバタと暴れるノイルをからかいながら、二階への階段を駆け上がった。
あれは、こいつの本心だ。本当に強くなりたいのだろう。だったら、俺に教えられることは全て教える。
トレーニングウェアに着替えて、ルームへと入った。多種多様な機器が並んでいる。
「まあ、技術的なことは追々教えていくから、まずは体づくりだな。好きなの使え」
「わかりました!」
ノイルは全ての機器に目を通しに向かった。
とは言ったものの、そこから十分、ノイルはずっと俺と同じことをしている。
「おい、真似すんなよ」
と笑いながらつっこむと、
「いいじゃないですか」
と、ノイルも少しムキになって反論した。
そんなやりとりをしながらトレーニングに励んでいると、先輩らがやってきた。さっきまで練習していた人らはおらず、二人だけ。
すると早速、
「アルバート君、筋肉やば!こんな身体してたんだ」
筋肉を褒められることはあまりないので、少し照れる。
「触っていい?」
「はい」
「え、柔らか!筋肉だよね?」
ぐっと力を込めた。
「うわ、固まった」
驚くアネット先輩に、動くための筋肉は、基本的に柔らかいものだということを説明した。
トレーニング中のノイルが見つかった。
「あっ、ノイルも!頑張ってんじゃん!」
案の定、アネット先輩の餌食になった。
それを横目に、シュヴァルト先輩と話を始めた。
しばらく話した後、
「前から思ってたが、何故強くなりたい」
シュヴァルト先輩からの唐突な問いがきた。
「難しいですね……」
何故、と聞かれると答えられない。色々なことが複雑に絡み合っているから、上手く言葉にできない。
しばらく考え、言葉を紡いでいく。
「なんというか、国を変えたいってのが、一番強いんですかね」
「国……というと?」
「今は魔法が一番の指標で、魔法で全てが決まる世の中です」
そうだな、と先輩は頷く。
「でも、そうじゃないってのを見せつけたい。魔法は一つの手段だということを、世間に知らしめたいんです。二百年前の戦争で英雄が国を救い、全てを変えたように。俺も、根本から国を変えたいと思ってます」
俺の壮大な目標に、シュヴァルト先輩は真剣に聞き入ってくれている。
「もちろん、俺の魔法でそれができればいいんですけど、爆炎系だけじゃ到底無理そうなんで、魔導工学でなんとかしようって思ってるんですけどね。いわゆる、パラダイムシフトってやつです」
俺が語り終えると、先輩は笑い始めた。
「世界を救うならわかるが、世界を変えるって。つまり、自分に合わせるってことだろう?」
「まあ、そうなりますね」
「傲慢すぎるだろ……けど、最高だ」
「アルバート君、かっこよすぎ」
聞いていたのか、アネット先輩は俺の背中を軽く叩いた。
「トレーニングしますか」
「だな」
再びトレーニングを再開した。しばらくしてジークも参加し、五人でそれぞれ思い思いに過ごした。




