憧憬
「まず、思いのまま戦ってみようか」
「わ、わかりました」
戦うという言葉に少し怯えながら、その目はしっかりとこちらを捉えている。
魔法主体となることが多い二対二とは違い、一対一では肉弾戦が主体となる。
「雷撃よ!」
相手の放った速攻魔法を避けつつ、距離を詰める。
基本的な戦い方を知らないのだろう。
万能な速攻魔法でも、一対一の時はそれ単体では有効な攻撃手段にはならない。
「あっ……」
攻撃が外れてうろたえるノイルの後ろに回り込んだ。
そして、腰に手を回し持ち上げた。
「やっぱ軽いな」
ノイルは顔一つ分ぐらい小さく、線も細い。
「うわ!」
足をジタバタさせるが構わず、そのままコートから出た。
開いたコートは好きに使えとゴーマンらには言い、俺はノイルに基本的なことを教えた。
「わかりました」
一度説明しただけで全て理解したらしい。頭はいいから、あとは身体だけだ。
「蹴ったり殴ったりは?」
「したことないです」
「俺を蹴ってみろ」
「でも……」
「心配すんな、思いっきりな?」
覚悟を決めたようで、再び目つきは鋭くなった。
だが、繰り出された蹴りはとてつもなくひょろひょろしたものだった。それを片手で受け止める。
「おい、本気出せよ」
「やってますよぉ!」
軽々と掴まれたのが悔しいのか、目が潤んでいる。
「次は殴ってみろ」
「はい……」
これも同じく、ポカポカという効果音がふさわしいものだった。その全部を体で受け止め、思わず笑ってしまう。
「ひどいですよ!」
「すまん、想像以上だった」
笑いを抑えつつ、説明を始める。
まず、パンチの軌道から説明した。大きく振りかぶったパンチは、見た目は豪快だが、その分ロスが大きい。仮に円弧状に拳を出した時、最短距離の約1・5倍の距離がかかる。これは敵に防ぐ時間を与える。
そして、腕が横を向くため、腕を伸ばすことで得られる威力の恩恵をほとんど受けられない。これは質に関する問題だ。
次に、蹴りに関して。蹴りも同じく、足が伸びたまま外から出ている。直接的な距離はほとんど関係ないが、遠心力によって速度が出ない。
膝をたたんで、膝を相手にぶつけるイメージだと伝える。
そして、両方に言えることは、体が使えていない。捻りや反動を全く利用できていない。
これらが改善すれば、筋肉がなくても、もう少し鋭い攻撃ができる。
あとは実際に見たりやってみたりするしかない。やっていくうちに、自然と筋肉もつくし、トレーニングもしてもらうつもりだ。
一通り説明が終わったところに、アネット先輩がやってきた。
「ノイル、おまたせ」
来るや否や、ノイルに抱きついている。その気持ちも分からなくもない。俺が女なら同じことをしている。
「わわ!」
「アルバート君と何の話をしてたのかな?」
からかうように頭を撫でている。
「アネット先輩、何しにきたんすか?」
その手を掴み、ノイルを救出した。
「何しにって、教えによ。魔法のセンスは抜群なんだけど、格闘技がね」
「今、教えてます」
俺の陰に隠れながら、ノイルが頷く。
「アルバート君に任せておけば大丈夫ね」
手をヒラヒラとさせながら去って行った。自由だな。
二階へと移動した。
やることは簡単。サンドバッグ相手にひたすら反復練習をするだけだ。
「まあ、見とけ……っ!」
サンドバッグと向き合い、左足を踏み込んだ。
体を捻ると同時に右膝を折り、切り裂くように振り抜き、インパクトの直前で再び伸ばす。
打撃音とともに、サンドバッグが揺れる。
「こんなもんだ」
ノイルは唖然としている。しばらくして。
「確かに、膝が折れてました」
「できるか?」
「やってみます」
さっきの俺の動きを真似ながらゆっくりと動きを確認し。サンドバッグと向き合った。
パシッっと、緩い音が鳴る。
「どうですか?」
満足そうに振り返る。
「さっきよりは良くなったが、まだ大振りだ」
正直、一回でここまで吸収できるとは思っていなかった。
「やっぱり、そう簡単にはいきませんよね」
と、わかりやすく落ち込みながら、またサンドバッグへと向かっていった。
その隣で俺もサンドバッグ相手に反復練習を始めた。足に魔力を貯めながらなので、かなりきつい。
隣から聞こえる音が少しづつ変化していく。
そのまま、俺たちは休憩を挟みながら、十分ほど蹴り続けた。
基礎はこれからもやっていくとして。次は戦い方だ。
再び一階へと戻り。先輩らが練習する奥の方のコートに行きその側に座った。
「何をするんですか?」
「先輩から技を盗む」
「わかりました」
ただ、じっと目の前の試合形式の練習を見つめた。
数戦を見終えて。やはり人の戦いは参考になる。
「気づいたことはあるか?」
「えっと……それぞれの間合い、というものでしょうか、そういったものがあるのかと思います」
そこに着眼するのは鋭すぎる。
「そこが一番大事だ。まずは、自分の好きな間合いを覚えることから始まる」
「そうなんですね」
すぐにメモに書いている。真面目すぎるその姿に笑みが溢れる。
「先生はどのようなところを見ているのですか?」
先生、という呼称だが、まあいいだろう。
「技を出すタイミングであったり、どういった魔法を使っているのか、それが相手の動きにどのような影響を与えるのかを見ている。ただ見るだけじゃなくて、俺ならどう対応するかとかを考えている」
メモを取り終わるのを待ち、続ける。
「例えば、今の氷の技、攻撃に使うよりも敵の動きを制限するために使うのが有効的だろう」
知る限りで、目の前で繰り広げられる技の意味や効果などを説明しながら、観察に全体練習を費やした。
途中から休憩がてらにやってきたアネット先輩やシュヴァルト先輩を交えながら、戦術論に興じた。




