強化合宿 初日
激動の日々に翻弄され続けた四月。それも残るところ一週間となった。
あの日から、特に事件は起こっていない。大きく変わったのは、クルシュが別人のようになったことぐらいだ。
クラス内での変化といえば、各二、三人だった仲良しグループが徐々に集まり、大きく分けて男女共に三つの派閥になった。
女子一つ目は、リーエルを中心としたお嬢様グループ、小規模ながら存在感は抜群だ。
二つ目は、それには劣るものの確かに華がある、最大のグループ。クラスのヒエラルキーのトップだ。
三つ目は、本気で魔導工学に向き合う人たちが集まるグループ。
男子もそんな感じではあるが、女子ほどはっきりとは別れてはいない。しかし、俺との間には確かに壁がある。そのほか、俺に対しては当たり障りのないようにしようという空気が流れている。
生徒会での進展が何よりも大きかった。今回の功績を称えられ、会長から勲等を授かった他、親父との共同研究が正式に決定したからだ。
そして今、俺はバスに揺られている。一息つく間も無く、激動の日々はなおも続く。
収穫祭やら建国記念日やらが集まるこの一週間は、本来なら休みなはずだったが、もう一度言うが、俺は今、バスに揺られている。
それも既に、三時間が経過している。
「見えてきたぞ!」
見えてきたのは、広大な屋外演習場と、学園の倍はあるであろう室内演習場。
これは強化合宿だ。
当初の予定では、学園から一時間ほどの所にある競技場を使う予定だったが、変更され、王国軍の演習場を使用することになった。それに伴い合宿参加の枠も増え、全員が参加することになった。
自由参加なのに全員が集まったことに、正直引いている。
室内演習場はやはり、とてつもなく広い。地下を含めた三階建で、二階にジムやシャワールーム、更衣室などがあり、一階が普通のコート。そして、最も驚いたのが、地下演習場。何が凄いかというと、ここはフロアが自在に昇降する。つまり、塹壕であったり、起伏のついた戦場を再現できるというわけだ。
「本当に、ここ使うんすか?」
感激した様子で、フィリップ先輩がシュヴァルト先輩に聞いている。
「これは、想像以上だな」
と、シュヴァルト先輩も今回ばかりは感激している。
昼食を終えて程なく、練習前のミーティングが始まる。
「一年は新人戦に向けて、チームで動いてもらう。チームだが、SからA〜Dまでの五チーム、今からメンバーを発表する」
皆が息を呑む中、俺は既に知っているため、軽く手首や足首の柔軟をする。
「まずはS。先鋒からマット、コールツ、ティッケル、アコス、そして、ジーク」
拍手が巻き起こる。この五人は、一年のトップだ。
A、B、Cと発表され、残るはD。
「Dだが、ミルの怪我により、アルバートが先鋒と大将。次鋒から、ゴーマン、ノイル、グランケだ」
それぞれのコートに分かれ、まずは話し合いから始まる。
「お前が大将かよ」
不満げにグランケが吐き捨てる。まあ、こうなるのは仕方がない。
「そうだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
応じたのはグランケだけ。他の二人は退屈そうに欠伸をしている。
一瞬イラッとしたが、すぐに切り替えた。
「……練習メニューだが、基礎から始めたいのだが」
それぞれの特徴を掴みたいのと、ここがDであることを踏まえての提案だ。
「はあ?基礎練?」
ゴーマンが食い気味に、あからさまに嫌だという意思を込めて言う。
「ああ、基礎からだ」
「実践だろ。こんなとこまで来てコソコソ基礎練なんかやってられないわ」
呆れた様子でつぶやいた。
「逆に実践?どう考えても早いだろ」
俺の反論に、
「てか、なんで仕切ってんの?」
舌打ちをしながら、ゴーマン。
「ならお前が決めろ」
諦めた俺は、そう吐き捨てた。
結局、ゴーマンの指示の下、実践練習に入った。他のチーム、Sのジーク達ですらミット打ちから入っているのに、だ。
ウォーミングアップもせずに、ゴーマンとグランケがコートに入る。それを横目に、ノイルに話しかけた。
「お前は、どう思う?」
俺の声に驚きつつも、答えた。
「僕は、基礎から入るべきだと思います」
「だよな」
「特に、僕は初心者に近いので」
それなら、尚更基礎から入るべきだ。
「中学の頃は何やってたんだ?」
「魔術部でした」
「なら、なんでここに来たんだ?」
魔術部なら、この学園にもあるだろう、と。
「中学の頃から憧れている人が、実は格闘技も強くて……それで」
恥ずかしそうにしながら、続ける。これは、女だ。
「この学校に入学したのも、その先輩を追いかけてのことなんです」
憧れでこの学校に入学するとは、なかなか一途な奴だと正直、関心した。
「なるほどな」
心当たりのある人物を知っているが、まさかな。
「応援してやるよ」
「あ、ありがとうございます」
少し照れながら、ノイルが答える。
「まあ、格闘技に関しては俺が教えてやる」
「よろしくお願いします!師匠と呼んでもいいですか?」
どこか抜けているが、親しみやすい奴だとは思う。
「いや、師匠はやめろ」
笑いながら、コートに入った。




