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古代技術と爆炎の三流魔道士  作者: Uノ宮
入学編
32/62

冷徹と温厚


「退学でいいだろ」

判断は驚くほど速く、あっさりとしたものだった。

「まあ、保護者を呼び出しての話し合いが先だが」

髪の毛をぐしゃぐしゃと揉みくちゃにしながら、机に突っ伏した。

「仕事が増えた……せっかく研究の時間が取れると思ったのに……めんどくせぇ」

先生は職員室に響く声で唸る。

「アルバート、放課後に話し合いな」

「わかりました」


職員室を後にし、教室へと戻る。


「おはよう、リーエル。あ!アルバート君も、おはよう」

一日で変化がやばいな。前まで危険人物だと思われていたとは思えないほどだ。


 メルトバーグは……ちゃんときているが、やはり前のように友人とは話していない。所詮、その程度の思いやりしかない友人だったのだろう。


 席へと戻ると、ある異変に気がつく。

「あれ、俺の机どこ行った」

心当たりしかないが、あえてとおどけてみせる。

「おかしいですね」

リーエルも俺の意思を汲んでか、とぼけ始めた。

「机ないから、俺、帰るわ……あれ、鞄もない!?」

「アルバート君、家に置いてきたんじゃないですか?」

クラスが笑いに包まれる。本来ならシリアスな空気になるのだが、四人の思惑通りにはさせない。


「メルトバーグじゃねえの?」

さっきの一人、ゲルジュが吐き捨てた。まだ反抗するか。

「おい、ゲルジュ、その目で見たんだな?」

「いや、見てねぇけど、それしか考えられないだろ」

クラスの雰囲気が変わる。徐々にメルトバーグへと疑いの目が向けられ始めた。

「なら、生徒会長を呼んでくる。リーエルはここを頼む」

「わかりました」


一度、メルトバーグの席へと向かう。

「メルトバーグ、お前じゃないだろ?」

小さく頷いた。

「なら、行ってくる」

「アルバート君、会長は一組、本校舎の最上階です」

「わかった」


教室を飛び出し、本校舎へと走った。三階までの階段を駆け上がり、会長がいる教室へ。

ノックをし、教室へと突入。

「失礼します。一年のアルバートです。エレナさんに用があって来ました」

クラスがざわついた。見渡すとレーナ先輩とハンナ先輩の姿もある。二人とも、ただことではないことをすぐに察した。


担任の先生と共に、先輩が出てきた。

「君、どうしたんだね」

「話せば長くなります。とりあえず、エレナ先輩を一時間ほど借りたいんです。お願いします」

深々と頭を下げた。

「わかった。行ってやりなさい」

「わかりました、先生」

「ありがとうございます」

そこに、教室からハンナ先輩とレーナ先輩の二人が出てきた。

「先生、私も行きます」

「すみません、私も行かせていただきます」


三人を連れ、すぐに教室へと引き返す。

「アルバート君、突然どうしたんですか?」

エレナ先輩が問う。

「俺の机が無くなりました」

「どういうこと?」

「それを、一人に濡れ衣を着せようとする奴らがいます」

「多分、私の弟と関係がある」

ハンナ先輩が呟くように言った。

「そうなの?」

レーナ先輩の確認に、黙って頷いた。

「すまない」

「ハンナ先輩は悪くないです。悪いのは俺と、そいつらです」

顔を見なくても、どんな表情をしているかは想像がつく。


 教室へとたどり着くと、クラスは犯人探しで騒然としていた。

「アルバート君、ごめんなさい」

それは、こうなってしまったことに対するものだろう。

「いや、仕方ない」

そう言いながら、メルトバーグを教室の外へと避難させる。


少し遅れて、先生がやってきた。

「どうなってんだよ……」

リーエルがすぐに事情を説明すると。

「アルバート、リーエル後は任せた。三年生の三人も、わざわざありがとう」

そう言って、先生はメルトバーグを屋外へ連れ出した。


教室に入り、一喝。

「座れ!」

怒りを込めて叫ぶと、クラスが静まり返った。ここからは、会長に委ねる。


皆が、会長に目を向ける。

「おおよその事情は把握しました。そこの四人、まずはあなた方からです」

会長が真っ先に指をさしたのは、今朝の四人だった。一眼でそこまで見抜くとは、本当に恐ろしい魔法だと実感する。

「レーナは一緒に来てほしい。ハンナはアルバート君から話を聞いておいてくれる?」

エレナ先輩の真意は伝わった。

「わかりました」



 ハンナ先輩と話すために外へと出て、花壇に腰掛ける。

「やはり、昨日の一件が原因なのか?」

「そうですね……何度も言いますが、先輩は悪くないですよ」

けれど先輩の表情は曇ったままだ。

「どうして……」

先輩は何かを言いかけて、やめた。


「俺、杖買ったんですよ」

無理に言葉を引き出そうとはせず、あえて関係ない話を始めた。

「どんなのにしたんだ?」

なんとか話に乗ってくれた。少し表情がマシになったような気がする。

「えっと……色は黒なんですけど、形は複雑で、こうなってて、こんな感じで、とにかくカッコいいやつです」

「全く伝わってこないぞ」

少し表情が和んだ。この調子で気楽にいこう。

「なら、今日の部活で持ってきます」

「見てみたい」

その後も、しばらく雑談に興じた。


「それで……さっき、なんて言おうとしてたんですか?」

そのままの流れで、自然と聞く。

「ああ……どうして、私が悪くないと言ってくれるんだ?」

「だって、本当の事ですから」

遠くを見つめながら、言う。

「でも、弟がああなったのは、私のせいだ」

「それは違います」

先輩の目を見て、はっきりと否定する。本当に、それだけは違う。


「二人の間に何があったのかは分かりません。でも、奴が今のようになったのは、全て奴の選択です。たまたまハンナ先輩のような姉がいたというだけの話です」


「…………」

ハンナ先輩は口を噤んだまま、少し俯く。

「俺にも、妹がいるんですよ」

少し顔を上げ、意外そうな表情を浮かべている。

「先輩は、俺の妹はどんな性格だと思いますか?」

「アルバート君をそのまま女の子にした感じ……だろうか?」

こちらを伺うように、見上げてくる。それから視線を逸らすように、再び遠くの空に目をやる。

「それが、殆ど真逆。めちゃくちゃ真面目で頭が良い。それでいて、俺みたいな兄を心配する優しい奴です」

「……」

「俺を見てたら、こうはならない」

「……」

「関係ないんです。所詮、兄や姉なんてそんなもんなんですよ」

ハンナ先輩を見ると、手で涙を拭っていた。

「すまない……こんなみっともない姿……」

「だから先輩も、ありのままでいてください」

ハンカチを差し出しながら、花壇から立ち上がる。

「……ありがとう」

先輩を一人にし、先に教室へと戻った。


「アルバート君、やはり、あの四人でした」

「どうしますか?」

「任せます」

任せます、か。退学でもいいが。


「私は、更生の機会を与えてあげてもいいんじゃないかと思っています」

「そうですか」

やはり会長は、強いだけあって器が大きい。何かあっても対処できるからだろう。


しばらくして、ハンナ先輩が帰ってきた。


「私に、そいつらを殴らせて」

その一言に、エレナ先輩は困惑していたが。

「俺の代わりという形なら、大丈夫でしょう」

校則の解釈的には問題ない事を伝えると納得した。


四人を呼び出し、選択肢を与える。

「退学か、殴られて二日の謹慎か、選べ」

「殴れ」

「わかった」

ハンナ先輩の前に引き出し、教室へと戻る。乾いたビンタの音を背中で受けながら、教卓の前に立つ。


「今回の件は、二日間の謹慎で終わりにする」

ざわつくのも当然だろう。

「机がどうこうなんて気にしていない。だが、次はない」


「俺は、アルバートの判断に従う」

「私も、当事者である彼の判断に異論はありません」

会長はと先生がそう言ったことで、クラスが落ち着いた。


波乱の幕が、ようやく閉じた。

「ありがとうございました」

「アルバート君って、敵に回すと厄介だよね」

三人が頷いている。

「わざと殴られて校則違反で反撃なんて、普通は思いつかないよ」

「そういうところ、エレナと似てる」

笑いながら、レーナ先輩とハンナ先輩が言う。ハンナ先輩の口調は、少しだけ変わっていた。


「アルバート君、また後で」

廊下でハンナ先輩らと別れ、教室へと戻る。


「アルバート!」

呼ばれて振り返ると、メルトバーグが立っていた。

「ごめん」

深々と頭を下げる。それはミーナのこと、そして今日のことだろう。

「過ぎたことは気にすんな。パンで許してやる」

「ありがとう」

「それは、お前の姉に言え」

そう言って、教室へと入る。


「アルバート、助かった」

研究の時間が保証された先生は、なによりも嬉しそうだ。


有り余っていたはずの体力が、ごっそりと削られた。

当分はこんな面倒は起こらないことを祈るばかりだ。


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