Versus
相手の戦型は、前衛にメルトバーグ、後衛にノックスの攻守型。定跡通りなら、前衛が速攻魔法、後衛が防衛魔法だ。
俺が休んでいると間に、向こうは五試合をこなしている。その中で、この戦型が三回いずれも勝利している。初撃は、今回も変えてくることは考え難い。そのため、火球と雷撃のどちらかだろう。
そして、俺が爆炎系の適正があることを踏まえると、初撃は雷撃で決まりだ。
厄介なのがメルトバーグの魔法の速さだ。初撃からの第二撃、三撃へと移るのが速い。攻撃の手の速さは、クラスで群を抜いている。
残念ながら、速さならこちらの方が上だ。
後ろのリーエルに「雷撃」とサインを送る。。
「わかりました」
と、返事だけが返ってくる。どうするかは、防御を知り尽くした、最強の盾であるリーエルに全て委ねている。
構えの合図。
突き出した手から火花が散る。体が燃えるように熱い。
『始め!』
「っ!」
魔法陣が現れた直後、前方へと駆ける。勢いよく溢れ出した魔力は炎へと変貌。凄まじい熱を纏い、前方の敵へと迫る。その炎と煙に姿を隠し、同じく迫る。
それと同時、相手は詠唱を始める。
「盾よ!っ!」
「雷撃よ!っ!」
相手の魔法陣が現れた時には既すでに、俺はそこにはいない。
相手の魔力を感じながら、距離を詰める。
雷が空気を切り裂く音とすれ違った直後、凄まじい轟音が響く。この音は、防衛魔法ではないことは確かだ。
その轟音が二回、三回と続く。何をしているのか見当もつかない。
左前方に、後衛のノックスの魔力反応。手堅く魔法障壁を展開している。手数と守りの硬さで押し切ろうというわけか。戦法としては悪くないが……
波動の中心へと向かう。
「お疲れ」
「え?」
ポンと肩を叩き、その後に首を掴む。
「火傷を負いたくないなら、そのまま場外へと歩け」
さすがに諦めたのか、相手は抵抗することなく指示に従った。
煙が晴れ互いの姿が現れる。
「相方はお前を裏切って降参した」
「っ……クソッ!」
メルトバーグの眉が釣り上がる。
「どうする?お前も降参するか?」
「誰が降参なんかするか」
俺は肩をすくめ、同情の眼差しを向けながら。
「やめとけよ……勝てるわけないだろ」
と、挑発。
「魔法も魔法を扱えない奴に、負ける?冗談か?」
「だから魔法を使わないって言ってんだよ」
その言葉に、メルトバーグは笑う。
「二度とそんな口がきけないようにしてやる」
魔力反応。波源が四肢に集中している。これは、身体強化魔法だ。
「……この身に力を。四肢を鋼の如く、拳に地を貫くが如き鋭さを」
「あぁ、初心者か」
勝利を予感した。
こちらに駆け寄るメルトバーグに対し、右肩を引き、体を斜めに向ける。全身の力を抜き、左手は軽く開き、胸の前まで上げ、右手は軽く握り拳を作り、ヘソの位置へ。
「死ねぇ!」
左腕を相手が右腕に当てるのと同時、左足を軸に体を回転。そうして、華麗に躱す。
「っ!」
二撃目、今度は左手で殴りかかってきた。怒りに身を任せた結果、大振りなったそれに対し、こちらも反撃に出る。
右足を軸に回転、拳は目の前を通り過ぎる。左膝を上げ膝から抜き、蹴りを繰り出す。
「っと!」
鞭のようにしなったら左足で、メルトバーグの腹を打ち抜く。
「ぐぁっ!」
その場で崩れ落ちた。
魔法を使っている時のここは、ほぼ無防備だ。
少し距離を取り、軽くジャンプをする。さっきのは動きが固かった。
それにしても、あまりの歯ごたえの無さだ。そこらのヤンキーの方が強いぐらいだ。地区大会優勝というのは嘘だというのか。
拳を強く握るメルトバーグに対し、
「落ち着けよ」
と声をかけた。
「今ので目が覚めたよ」
だそうだ。その言葉通り、向こうも構えた。だが、身体強化魔法は相変わらずだ。
そこから一進一退の攻防……とは、ならなかった。躱しながら、動きを見切る。
顔への攻撃に最大の注意を払い躱す。避けきれない下段の回し蹴りには足の裏で対処していく。
一見すると攻められているようたが、形勢的にはこちらが上。
こちらは一つの技しか手の内を明かしていないのに対し、敵は親切にも、様々なバリエーションを見せてくれている。
ある技の後に、どの技が来るのかは、人それぞれに癖がある。
クラスメイトがざわつき始めた。ようやく気がついたのだろう。俺が一度も攻撃を食らっていないということに。
「なあ、そろそろ、やめとけよ」
暗にお前には勝てないと。それに対する返事は「黙れ」まるで聞く耳を持たないようだ。
なら、そろそろか。勝利の予感が確信に変わる。
蹴りの間合いまで下がり、蹴り足ではなく、軸足の左に注意を払う。
こちらが僅かに距離を詰めるや否や、向こうが動く。
メルトバーグの大きな癖、それは蹴りを繰り出す直前に、軸となる左膝がやや内側に回転することだ。
俺にも昔、その癖があった。より強い蹴りを繰り出そうとすると、ほとんどの人間はそうなる。
その瞬間、しゃがみ、軸足に蹴り。軸足が払われれば当然、体勢は崩れる。
蹴ったままの勢いで一回転し、もう一度左足を強く踏み込む。体を捻り、体勢を立て直したばかりのメルトバーグめがけ、右足を振り抜いた。
「っっ!」
腹を抱えるメルトバーグの、無防備な顔面に、アッパーカット。膝にしようか迷ったが、さすがにやめた。
倒れこむメルトバーグの体操服の首元を掴み、引きずりながらコートの外に転がす。
あいつの敗因は山ほどある。一つが、向こうの身体強化の使い方だ。体を物理的に、それも常時硬化するなど、子供がやることだ。
一度、身体強化魔法の扱いが天才的な奴と喧嘩をしたことがある。そいつは、初動の一瞬だけ筋力を増強させ、終端の時にだけ瞬間的に硬化させるという、とてつもない技を持っていた。
身体能力ではおそらくこちらが優っていたが、見えない蹴りに一瞬でやられた。これが本物の蹴りだと実感した。
そいつは、今この学校の魔導兵科にいる。
ふと、昔を思い出していたところに、リーエルが声をかけてきた。そのまま、俺の隣に座る。
「アルバート君の一人勝ちですね」
「まあ、皆の反応はそんな感じだな」
「私も意外と頑張ったんですけどね……」
なんだか不満げな表情だ。
「そういえば、あの魔法はなんだったんだ?」
リーエルは近寄り、声のトーンを抑えた。
「あれは操作系の魔法です。空気を圧縮しました」
全て理解できた。だからあそこまで音が大きくなったのだ。
「なるほどな、頭いいな」
嬉しそうに微笑んだ。
「アルバート君の推理もなかなかでしたよ?」
「頭を使わないと勝てないからな……」
辛い現実だ。脳筋で勝てるのは、限られた人間だけだ。少なくとも、俺ではない。
話が終わると、俺たちの周りにクラスメイトが集まってきた。つまるところ、対戦の申し込みだ。
それら全てを、片っ端から受けた。次からは一日二戦
をこなしていかなければならない。
二限から授業を乗り越えた。
体力が有り余る中、部活動へ。始まる前、シュヴァルト先輩に呼び出された。




