表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古代技術と爆炎の三流魔道士  作者: Uノ宮
入学編
29/62

理由

 

 アラームが鳴るよりも前に目が覚めた。日の出が早くなってきているとはいえ、今はまだ五時半、外は暗い。

 昨晩の早寝が功を奏し、昨日まで感じていた疲れは完全に癒えている。自分でも、身体中が魔力で満たされているのが感じられるほどだ。

 手を出し、少し魔力を込める。毎日のバイタルチェックは小さい頃からのルーティンだ。

ボッッと、火の粉が舞い上がった。

 普段ならパチパチと火花が上がる程度、今日の調子は最高らしい。


 学校までの道を走り抜け、演習場へと向かう。今日は動きの最終調整と、昨日買ったペンダントの確認だけだ。

十五分ほどで調整を終えだ。シュヴァルト先輩に声をかけ、アリーナを後にする。


まだ暗い学園内を歩き、教室へと向かった。

この時間は、さすがのリーエルといえどまだ登校していない。

エナジードリンクを飲み干す。そして、リーエルの机に「起こしてくれ」とメモを置き、仮眠をとった。



「―起きてください……やっとですか」

割と深い眠りに落ちていたことに驚きながら、あくびを一つ。

「おはよう」

「おはようございます。何かあったのですか?」

俺が寝ていたことに対し、疑問を抱いているようだ。

「いや、特に何もない、体力の温存だ」

「ということは、今日……ですか?」

俺は頷いた。

「着替えてくるから少し待っててくれ。そのあと、作戦会議をしよう」

「わかりました。考えがあるのですね?」

「まあ、後でな」

教室を出て、トイレへ。更衣を済ませ、再び教室へ。今は更衣室へと向かう時間も惜しい。



「それで、作戦だが、相手の戦型によって切り替わる―」

昨夜考えた作戦を話し始めた。


 初めは、俺の無詠唱魔法。そこは変わらない。


後衛の敵が防ぎにかかれば、俺が飛び、隙だらけの相手をコートの外に吹き飛ばす。その間、前衛の相手はリーエルに任せる。


並んでいれば、先に片方を叩く。そして、もう片方対しては、俺が近接戦に持ち込む。リーエルは距離を取らせないよう、威嚇射撃をするという手はずだ。

「あくまで近接戦なんですね」

納得しながらも、疑問に思っているようだ。

「ああ、あいつは殴り合いに相当な自信を持ってるようだからな。小細工なしに、相手のフィールドに上がった上で、完膚なきまでに叩き潰す」


「どうしてそこまでするのですか?」

そもそも論を突っ込まれた。

「あいつには色々とやられたからな。まさか、こんな場所で再開するとは思ってもいなかったよ」

八年前の怒りが蘇る。

「何か、あったのですか?」

「いい話でもないぞ?」

「はい。知りたいです」



八年前のあの日のことを全て話した。案の定、リーエルの表情は曇る。


「ミーナの背中には、あいつが付けた傷が残ってい」る」

「許せません」

目に涙を浮かべながら、リーエルの怒りを露わにする。

「近接戦にこだわるのは、魔法だと傷が残るからだ。私欲の暴力に魔法は使いたくない。その代わりに、二度と消えない傷を心に刻み込む」

と、笑いながら。

「でもどうして、そこまでしてミーナさんの仇を?」



あいつとの一件があった少し前、ミーナの実家から届いた荷物の整理を手伝いをした時のことだ。最後まで封がされたままのダンボールが一つだけあった。ミーナに許可を取り、中を見せてもらった。


その中に入っていたものは、ボロボロになるまで使い込まれた魔導書とノートだった。


ノートを開いた俺は、息を飲んだ。そのノートの中は文字で埋まっていた。何度も何度も詠唱の単語を書き連ねられ、黒く滲んでいる。


気がつけば一冊、また一冊と手にとっていた。


止められなかった。ページをめくる俺の手は、震えていた。

そして、冊数を重ねることに、それらは意味を持つ文へと変わっていることに気がついた。やがて最後の一冊になると、詠唱の横に丸やら三角やらが描かれるようになっていた。それは多分、実際にできるかできないか、だ。

鼻をすすりながら、次に魔導書を手に取った。驚いたのが、表紙以外は、ある一部を除いてとても綺麗だったことだ。その一部、読み込まれた箇所は、爆炎系の章だった。

開くと、紙が落ちてきた。

その時、ミーナが慌てる。けれど、遅かった。


『アルバートへ』

それは、俺に宛てた手紙だった。字から察するに、小学生の頃に書いたものだろう。

『もしアルバートが悩んで、ひとりではどうしようもないと思った時は、思い出して欲しい』

そのあとの一文だけが、魔法用のインクで綴られていた。

『私は、立ち直るまではずっと、アルバートの側にいる。何があっても、味方でいる』


魔法は、意思を持つ言葉が詠唱としての役割を果たすものがある。

あいつが、それを知らないわけがない。その一文は、魔法として成立している。


涙がこぼれ落ちた。

「バカだろ」

「ううん、大丈夫。それに、効果はずっと前に切れてるから」

その言葉の意味はすぐにわかった。

「……そうか」


その時から、俺はよりミーナを尊敬するようになった。その努力を尊重しているし、彼女と過ごしてきた時間を誇りに思っている。


だから、その努力を、過ごしてきた時間を否定されるのは、許せない。


「……特に、それを壊そうとしたやつにはな」

ふふっと笑いながら、リーエルが続ける。

「アルバート君は、優しいですね」

目に浮かんだ涙を拭いながら、リーエルは微笑む。

「優しい?冗談だろ?ただの自己満足のケンカだ」

そういって、席を立つ。

「そういうことにしておきます」

そう言いながら、リーエルも続く。


授業まではあと十五分ほどあるが、少し早くグラウンドへと向かった。

入念な準備体操を行い、戦いに備える。

そもそも、身体強化ができない俺にとって、戦いは完全に身体能力頼りだ。いい加減なストレッチだと、普通に怪我をするし、最悪の場合は、肘の靭帯やアキレス腱がブチ切れる。

特に今日は、念には念を。


「アルバート、早いな」

先生だ。とりあえず挨拶をして、今日から参加できるという旨を伝える。もちろん、魔法の弱化はクリアしている。

「よし、なら一戦目だ。相手だが……ぐちゃぐちゃになってるんだよな……誰とやるか、決まってるか?」

「メルトバーグでお願いします」

もちろん、決まってはいない。だが、あいつと俺のいざこざの噂は広がっている。向こうは断れる雰囲気ではないだろう。


 始業の鐘が鳴った。


「早速一戦目、アルバートが指名で、メルトバーグペアを指定した」

先生の言葉にクラスが沸き立つ。

「メルトバーグ、どうする?」


誰かの、「怖いならやめとけよ?」という言葉にメルトバーグの眉が釣り上がる。


「誰がこんな無能に負けるか」

その言葉に、ボルテージが上がる。これは、チャンスだ。

「みんな、聞いてくれ。俺は、こいつに魔法は使わない。その上で勝つ」

その言葉に、さらに沸き立つ。

「そんなこと、できるわけがない」

メルトバーグは笑う。


「こちらは一撃も食らうつもりはない」

そう宣言しコートに入った。これは俺も、負けられない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ