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古代技術と爆炎の三流魔道士  作者: Uノ宮
入学編
28/62

庶民とセレブ

 翌朝、八時五十九分三十秒。車の音が近づいてきた。八時五十九分四十五秒、マンションの前で停車。


九時〇分◯秒、インターホンが鳴る。九時一分、乗車。

「おはよう」

「おはようございます」

車は走り出した。揺られること十五分、モールへと到着。まもなく会長も車で登場。


「開店直後だってのに、人多いよね」

「日曜ですからね」

 休日のモールはやはり、人が多い。あまりの多さにうんざりしていると、数人が近づいてきて、一言、 「写真撮ってもらえますか?」

と、俺ではなく、会長らに。

 会長とレーナ先輩は相当な有名人らしく、写真撮影を求める人が次から次へと訪れ、軽く騒ぎになった。


 すぐに場所を移動し、二人の行きつけの、マゼラティクスの系列のファッションブランド店へと逃げ込んだ。この店なら、野次馬は入ってこれない。


気になったのが、店員の二人に対する対応だ。常連とはいえ、少し気を使いすぎなのではないだろうか。


「アルバート君、選ぼっか」

レーナ先輩が俺の手を引く。

「選ぶって……この店でですか?」

見間違いか、目の前に陳列されているどのシャツの値札を見ても、俺が着ている服の値段より桁が一つ多い。

「執行部の一員で、なおかつ恩恵を受けているのだから、それ相応のものを身に付けてもらわないと」

今のは生徒会長として。

「どうせなら、良いもの買わせてよ」

と、レーナ先輩が笑う。

「そうよ、私たちにも花を持たせて」

今のは、先輩として。

ここは、言葉に甘えよう。


 しかし、それにしても、だ……

「四万……」

そんな俺の反応とは対照的に、

「魔導制御、魔力欠乏防止か……この作り込みにしては安いね」

「アルバート君、つけてみて」

「はい……でも、こんな高いの買ってもらえないですって」

と言いながらも、首にはそれが巻かれている。


鏡を確認……意外と悪くない。

「んー。似合うけど、もうちょっと派手な方がいいかなぁ。それに、アルバート君は魔力欠乏とかしなさそうだし」

「私もそう思う」

そう言って、その隣の、さらに高そうなペンダントを手にした。

「これ、いいんじゃない?」

「効果は……爆撃系の威力・展開速度向上ねぇ」

顎に手を当てながら、レーナ先輩は考える。

「アルバート君に必要かって聞かれたら、もう十分だと思うけど……」

同じように、エレナ先輩も。

「十分ではないですよ」

「えっ?」

「それは、今の段階では、というだけです。まだまだ速くできますし、強くできます」

「そっか……なら、これにしようか」

いや、買うと決めたわけではない。

「さすがにこれは高いですって」

値段は、さっきの倍。

「大丈夫だよ。まあ、将来的にこれ以上の何かを贈ってくれたらいいかな」

「そういうことなら……」


 お会計をしてもらい、早速、身につけた。確かに、体の魔力が安定し、流動的になった感覚はある。

「ありがとうこざいます」

「どういたしまして」


店を出ようとした時、後ろから声をかけられる。

「アルバート君、これ、どうかな?」

レーナ先輩の頭には、えんじ色のベレー帽。髪が銀色のため、とても映える。

「似合ってますよ」

「そう?なら買おうかな」

そういってすぐに、その帽子をもってレジへと向かった。



 エレナ先輩に連れられ入ったのは、同じくマゼラティクス系列の魔導器店。こちらでも、店員は二人に頭を下げている。


ディスプレイに飾られた杖や棍の数々に気圧される。豪華に装飾されたその見た目とは裏腹に、機能性は最高水準だ。


しかし、俺たちはなぜここにきたのか。

「アルバート君、どれが良い?」

そう言われても、ピンとこない。

「俺に……ですか?」

俺が魔導兵科もしくは、魔術部の部員ならわかるが、杖とは無縁の魔導工学科だ。

「後々伝えようと思ってたのだけど、今伝えておくわ。執行官は万が一の時のために、所持することが推奨されているの」

「あの時、私も持ってたでしょ?」

確かに、初めてレーナ先輩に会ったときに、突きつけられた。


それなら、安いやつでも良い気がする。

「だからって、ブランド物じゃなくてもよくないですか?」

エレナ先輩は教え諭すように、こちらを見つめる。

「言ったでしょう?あなたは色々な意味で全校生徒から注目されているの。あなたがどんな物を身につけるかも、生徒会の評判に関わることよ?」

それに、お金は私が払うのだから。と。


「わかりました。なら、会長に任せます」

そう言うと、エレナ先輩は嬉しそうな様子で店内を見て回り始めた。

「これとかどうかな?」

先輩が持ってきたのは、白を基調とした棍だ。柄には金色の魔法陣が描かれ、先端には希少価値の高い透明の魔導石が埋め込まれている。


手にとって、それらしく構えてみる。何かが違う。

「うーん」

「エレナはわかってないなぁ。アルバート君は、黒だよ」

「確かに、そうかも。レーナ、付いてきて」

今度は二人で選び始めた。


 二人を待つ間、店内を見て回る。杖か棍、金属か木といったように、素材も形状も様々だ。

「これ、いいな」

金属の軸と魔導石だけからからなる、かなりシンプルな杖。しかしよくみると、細い魔導鋁の糸を何重にも編み込んで作られている。そのため、驚くほど軽い。

 しかし、この金属は急劇な温度変化に弱い。そのため爆炎系魔法は使えないのだ。

 こういう時に改めて、もう少し魔法が使えればと感じる。こればかりは、自分で創る以外の解決策はない。それはまた考えるとしよう。


 しばらくして、二人に呼ばれる。

「アルバート君、これとかどうかな?」

魔導石の受け軸を、耐熱性に優れた金属版二枚を捻ることで覆い、一本の杖に成形したものだ。さっきのと比べると重いが、強度と耐熱性、デザイン性を考えると申し分ない。

「ちなみに……値段はどれくらいですか?」

恐る恐る問いかけると、レーナ先輩は右手でピース、左手で◯を作った。

「にじゅう……」

顔から血の気が引いていくのが分かる。さっき見ていたのでも高かったのに、その倍はする。

「学校から半分くらい降りるから、心配しなくて良いよ」

「そうなんですか……良かった……」

ホッと胸を撫で下ろす。いや、よく考えると、それでかなり高額なプレゼントだ。俺も感覚がおかしくなっている。

「お会計してくるわね」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

エレナ先輩はかなり嬉しそうだ。


「気になったんですけど、お小遣いはどれくらい貰っているんですか?」

俺の質問に、二人は首を横に振った。ここ三年貰っていないらしい。

「その服とかはどうやって……」

「ほとんどを贈っていただいてるから、あまり買ったことがないのよ」

「ということは、スポンサーですか?」

なるほど。店員が気を使うわけだ。

「そうそう。生徒会長にもなるとね〜」

「レーナの方が貰ってるでしょう」

「あれ?そうだっけ?」


二人のやりとりがおかしい。

「あの……他にもいるんですか?」

「いるよ、シュヴァルトは戦闘着メーカーがスポンサーだし、生徒会以外でも部長クラスになると契約してる人も多いと思うよ」

エレナ先輩が頷く。

「あとは……アルバート君の知っている人だと……ハンナとケース君でしょうか」

「あの二人もですか!?」

「うん。確か杖だけで四、五本は貰ってるよ。その割にはハンナ、オシャレしないからなぁ。ずっと制服かジャージだし」

ハンナ先輩の話題に、二人は笑う。


「でも、アルバート君はオシャレだよね」

「ブランド物は買えませんが、それなりに気を使ってるので」

「そうなんだ」

「お金は、心配しなくても入ってくると思うわ」

首を傾げていると。

「アルバート君にもスポンサーが付くってこと。今日はそのために良い物を買ったんだから」

それでもピンとこない。

「説明するわね」

エレナ先輩が話し始めた。


 俺が何かしらの功績。例えば部活動の大会で表彰されれば、企業は目をつける。その時に、既にブランド物を身につけていれば、そのブランドからのスポンサー契約の依頼が来やすいのだという。

 とりわけ俺は、爆炎系魔法しか使えない。そのため、道具の性能が良いように見えやすい。企業にとっては優良な広告塔に成り得るわけだ。

 さらに、企業は本格的にサポートしてくれる。例えばシュヴァルト先輩には栄養士が付いている。

 

 つまり、今回の買い物は、先行投資というわけだ。


確かに、初めから自社の商品を買ってくれている人広告塔になってもらう方が、広報の社員も気持ちがいいだろう。

それに、この二人のお墨付きとなれば尚更だ。


 買い物を済ませ、すぐにモールを後にした。




その夜、もらった杖を眺めながら、スポンサー契約の話を思い出した。


最近、自己評価と他者評価の差を感じる。それは多分、良い人に出会えているからだろう。


 もし本当に、俺が本当の意味で目立つようになれば、俺やその周りにに敵意を向ける人間も増えるだろう。


そうなった時、果たして俺は、周りを守れるのだろうか。それともまた、失ってしまうのだろうか。


 物思いに耽っていたその時、携帯端末が振動した。


『明日、楽しみにしています』

と、ハンナ先輩から。

『任せといてください』

と返信した。


守れるかどうかはわからない。けれど、その時、それが期待されるなら、それに応えないという選択肢は毛頭ない。


今はただ、想像以上に膨らんだ期待を裏切らないように、もがくだけだ。


更新が遅れてしまい、申し訳ありません。



今後ともよろしくおねがいします。

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