祝賀会
車で揺られること五分。到着した場所は、一家の駐車場というには広すぎる、庭だった。
案内されたのは部屋ではなく、パーティーホールだった。広いのは覚悟していたが、まさかここまでとは思っていなかった。
テーブルには、豪華な料理が並べられていた。
それらが醸し出す香りが鼻腔をくすぐり、食欲を湧き立たせる。
「まずは、アルバート君の紹介からね」
会場が拍手に包まれる。集まった生徒会員と各部活の部長らの中に、見知った顔もある。
「生徒会執行部・執行官、アルバート・レーザスです」
皆の反応から、名前は知ってくれていることがわかった。
「何かあれば、食べながら聞いてね。それじゃあ、アルバート君が神の恩恵を授かったのを祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
会食が始まった。
今まで食べたことのない料理が並んでいる。とりあえず、少しずつ食べていくことに決めた。
シャンパンを、勧められるままに受け取る。一般の飲食店で、アリシアの制服を着たまま飲むのは控えているが、法律的には何ら問題ない。
「アルバート君。改めて、おめでとう」
「ありがとうございます」
レーナ先輩だ。私服姿は初めて見るが、しっかりとブランドモノを着こなしている。さすがはお嬢様といったところだ。
「どう?美味しい」
「めちゃくちゃ美味いです」
一気に飲み干し、料理を頬張る。
「お酒強いの?」
「強いと思います」
一年前に飲めるようになったが、勉強に明け暮れていたため殆ど飲んでいない。だか親が酒豪なので少なくとも弱くはないとは思う。
先輩は他の人に呼ばれ、去って行った。
二人組が近づいてきた。
「アルバート君、おめでとう」
「おめでとう」
ケース先輩とハンナ先輩だ。ハンナ先輩はすでに頰を赤く染めている。
「これは……?」
先輩から、小包を差し出された。
「私たちからのささやかなお祝い。開けてみて」
早速包みを開けると、皮のパスケースが姿を現した。
「学生証用だ」
早速、鞄に裸のまま入れていた学生証を取り出し、貰ったケースに収めた。
驚くほど格好いい。
「ありがとうございます」
そのまま二人と話しながら、料理、シャンパンに舌鼓をうつ。
しばらくすると、一人、また一人とやってきて俺を中心にグループが出来つつあった。こんなことは、生まれて初めてだ。
各学科の授業や部活動の苦労話、子供時代など、様々な話題で盛り上がり、会も中盤に差し掛かった。
「この機会にぃ、生徒会執行部のぉ現状報告をしますぅ」
会長は酔って呂律が回っていない。他のほとんどの先輩達も同様、とても人前で話せる状態ではない。
見かねたレーナ先輩が、俺の手を引いて壇上へ走る。
「アルバート君、代わりに話して」
先輩は会長の介抱に回った。
「生徒会長代理、アルバートです。現在の時点での決定事項を説明します―」
そのまま、今日の会議までに決まったことを淡々と紹介していった。
しかし、会場にいるほとんどは聞いていない。
「―以上です」
一礼し、壇上から降りた。
その時、端末が振動した。父からだ。
『例の資料を家に置いておく』
とのことだ。
例の資料とは、共同研究する際の注意事項と定員、それらの能力適正などだ。
とりあえず、それは帰ってから目を通すとして、今は目の前の酔っ払いをどうにかしなければならない。
「アルバート君!明日、開けておいてね!」
頰を赤らめながら会長が体を寄せてきた。心理操作魔法を使っているが、少し体が火照る感覚があるぐらいで、ほとんど効いていない。
というか、酔ったらここまで面倒なのかこの人。
会長を振り払い、安全地帯へ。酒が飲めないもしくは弱い人たちで出来上がったコミュニティに加わる。
そこにいたハンナ先輩が、俺を見つけるやいなや近づいてきた。
「アルバート君、一ついいか?」
酔いは覚めたらしく、いつもの凛とした声音に戻っていた。
俺は、どうぞ、と促す。
「そこまでの力があるのに、兼部してまで強くなりたい理由はなんなのだ?」
まさか、ハンナ先輩に聞かれるとは思っていなかった。非常に答えにくい。しかし、言っておかなければならない。
「誰にも負けたくないからです。特に、先輩の弟には」
「ああ、やっぱり……」
「知ってたのですか?」
「弟が友達と電話しているのを聞き、そうではないかと……」
「あの日のことですか。まあ、今はあまり気にしてないので、大丈夫です」
しかし、先輩は頭を下げた。
「申し訳ない」
「先輩は悪くないですから」
顔を上げてもらう。先輩の謝る姿など見たくない。見たいのは上目遣いだけだ。
少し間をおいて、先輩が話し始めた。
「弟がああなったのは、私のせいだ」
先輩がアリシアに入学したことで周りから比べられるようになったらしい。その結果、できない人間には価値がないと思うようになってしまったという。
「先輩は悪くないでしょう」
「そうなのか?」
先輩は弱気な顔になっている。
これが多分、先輩の本当の顔なのだろう。
周りに期待される中で育った結果生まれたのが、凛とした姿の先輩だ。
「だから責任を感じる必要はないと思います」
「ありがとう……アルバート君、一つお願いしてもいいかな?」
あぁ……やっぱり断れない。
「……はい」
はっと凛とした姿に戻り、目を閉じた。
「弟を、完膚無きまでに叩きのめしてほしい」
「姉の要望なら、仕方ないですね」
「そんなこと言って、初めからそのつもりだっただろう?」
その言葉に、俺はにやりと笑う。言われるまでもない。
「当然です」
そう言いながら、手のひらで火花を散らしてみせた。
「楽しみにしてる」
「俺も、楽しみです」
先輩は笑った。この笑顔は特別なものだと考えると、少しドキッとしてしまうのは仕方がないことだろう。
そのまま会は終わりに差し掛かり、最後にケーキが振る舞われた。
帰り際にマルクスにノートを渡し、別々の車に乗り込んだ。
マンションに到着。
「アルバート君、明日、九時に迎えにくるね」
ウインドウを下げ、レーナ先輩は言う。
「何のためにですか?」
「アルバート君へのプレゼントよ」
「わかりました」
断るのは失礼なので、ありがたく頂いておく。その分、生徒会に貢献すればいいだろう。
「じゃあ、ばいばい」
「ありがとうございました」
車が発進し、どんどんと遠のいていく。
角を曲がったところまで見送り、マンションへと入った。
会の後というのは、何故だか少し寂しい感じがする。経験したことがないから、そうなのかもしれない。




