人との付き合い方
今朝も昨日と同じ時刻に学校に到着した。職員室で鍵を受け取り、演習場へ。
昨日と同じように更衣し、走った。
昨日の疲れは全く感じない。それどころか、むしろ昨日より調子がいい。
魔力にもデトックスが存在するのだろうか。もしそうなら、医学の新たな発見だ。
などと余計なことを考える余裕を残し、30分間のアップを終えた。
スポーツドリンクを一口のみ、汗を拭く。そして、息を整えシュヴァルト先輩の元へ。
先輩の顔を見て少し驚く。
少しつり気味の、彫りの深い目の奥に燃えるように赤く輝く眼球。そして何より特徴的なのが、右眼の上にできた傷あと。
俺は今まで、人の顔をよく見たことがなかったのだろう。髪の色と背丈、身に纏う雰囲気、魔力の感じでその人だと判断していた。
人の顔色だや機嫌を気にして生きてきた結果、それが知らぬ間に癖になっていたのだろう
先輩はこんな顔をしていたのか。この前の感じは睨まれていたのではなく、この雰囲気と彫りの深さがあったからだろう。
「お前から話しかけてきて、なぜ驚いている」
「あっ、すみません」
「それで、何の用だ」
俺は先輩の目を見て、事情を説明した。
断られると思っていたが、
「入部してくれ。それなら好きに使わせてやる」
予想外の返答に拍子抜けした。
「入部……ですか?」
「ああ。新人戦に全員参加させてやるためにはあと一人必要なんだ。お前は生徒会やら工学部やらで忙しいだろうし、自主練でも、大会だけの参加だけでもいい」
こちらとしてはこれ以上ない条件だが、問題は他にある。
「それで他の部員は大丈夫なんですか?」
「そういうこと気にするんだな。大丈夫だ、俺が何とかする」
人は見かけによらないな。と、笑っている。
「なら、入部します」
「助かる。よろしくな」
「はい」
差し出された手を、固く握る。
俺は、この人のことを誤解していたようだ。人は見かけによらないものだなと、改めて実感させられた。
そうと決まればやることは一つ。
練習を早めに切り上げ、職員室へ。
部活動担当の教員に二枚の入部届けを貰い、その場で記入する。
一方は部員として、そしてもう一方はマネジャーとして。
今までの自分なら考えられない行動であるが、なぜか気分が高揚している。
「お願いします」
紙を渡す時、自然と出た言葉に自らが驚いた。
自分の中で、何かが変わり始めているのは確かだ。
昨日より早く教室へ向かった。奥に一人、本を読むリーエルの姿があった。彼女のオーラは独特だ。どこか、女神ティアーナの加護と似たものを感じる。
読書に集中する彼女に配慮し、声はかけずに席に着いた。
これから、今後の予定を練る。
明日の午前は生徒会。午後からは久しぶりに工学部に顔を出し、自らの作業をする。
問題は日曜日だ。ここをどう使うかが一番の悩みの種だ。もちろん、予定などない。
休息に使うか、自宅でのトレーニングに励むか、ここ二日の戦闘データの解析をするのか。
どちらにせよ家から出るつもりはない。
「ふぅ〜っ。えっ!?」
「おはよう」
伸びをしながら驚くリーエルに向かい、声をかけた。
「あ……来てたのですか」
少し頰を赤らめている。そんな姿を見るのは初めでで、少し新鮮だ。
「なあ、リーエル」
「はいっ」
俺は真っ直ぐに目を見つめた。初めてその目鼻立ちを認知した。髪の色と同じ赤い瞳が、そっぽを向いた。
お嬢様という感じの、噂通りの美少女。ただ、贅沢を言うようだが俺の好みではない。オーラで大体は分かっていたことなので、そこまで驚かない。
ミーナを見ているせいか、同世代の美少女というものに異性としての感情がまるで湧かない。どちらかといえば、先輩の方が好みだ。
そして、一度逸らされてた目が、再び合った。リーエルの顔は赤い。
「あの……何でしょうか?」
「急だけど、兼部することにした」
「えっ……。そうですか、わかりました」
少しがっかりした様子のリーエルに、
「告白かと思ったか?」
と問いかけた。
図星を突かれたリーエルの顔がどんどんと赤くなる。
「目を見られて、その声のトーンで名前を呼ばれたら覚悟しますよ!」
目に涙を浮かべ、顔を真っ赤にして言い訳をする姿は、確かにかわいい。可愛いのだが、俺は先輩の方が好みだ。これは譲れない。
「それより、初めて目を見てくれましたね」
「人と話すときは目を見てっていうだろ?」
「私が何度も合わせようとしていたのに、一向に合わせようとしなかった人がよく言えますよ……」
その言葉に、笑いがこみ上げた。
そこから始まった驚きの連続はとても楽しかった。目が細い奴もいれば、でかい奴もいる。雰囲気通りのやつもいるし、雰囲気とまるで顔が違う奴もいる。
驚きと発見で一日があっという間に過ぎていった。




