茨の道
翌朝、俺はリビングで目覚めた。身体中が痛む……トレーニングの途中で眠ってしまっていたらしい。
時刻は午前6時。家を出た。
薄暗い道を駆け抜け、学校へと向かった。
まだ開いていない門の右、守衛室にいる警備員に学生証を提示し、校内へ。
職員室には数人の教職員の姿があり、そのうちの一人に声をかけた。室内演習場使用の旨を伝えると、解錠を任された。ということは、俺が一番ということか。
教室から本校舎をまたいだ先にある、室内演習場。その大きさは観客席を含めれば第一グラウンドに匹敵する。
強固な結界で守られているこの演習場は、並の攻撃では壊れない。故に使用するのは、魔導兵科の生徒と、魔法の威力が上がる二、三年だ。
中に入ると芝のコートが俺を出迎える。その広さと、そこを覆う強固な結界に圧倒される。多分、今の俺の力では壊せない。
しかし、一人で使うには、少し広過ぎる。
この施設最大の特徴は、さまざまな環境下で幻影魔法による相手と戦えることだ。
例えば、心理操作系の魔法に干渉されながらであったり、ランダムでさまざまな魔法が放たれながらなどだ。
更衣を済ませ、まずは走る。
初めてだが、思ったよりマット質の芝は走りにくい。
いつもの時間に演習場に到着した。
「シュヴァルトさん、誰かいますよ」
まだ6時過ぎだというのに、気合いが入っている奴もいるもんだ。
「どうします?」
「少し場所を譲ってもらえるように交渉するしかないか」
一年だろうし、わかってくれるだろう。
中にいたのは、アルバートだった。
「一人っすよ」
「ああ。半分使わせてもらっても大丈夫だろう」
こちらに気がついてはいるだろうが、黙々と走り続けている。
俺たちはまず、アップを始めた。軽い走り込みの後、ストレッチ。そして軽いトレーニングで体を興す。
「あの子、まだ走ってますよ」
俺たちがここに来たときから、すでに15分は経っている。ずっと同じペース。それも、一切の魔法を使わずに、だ。
「あんなに体力あっても意味ないのに、何してるんだろ。先輩は知ってますか?」
「あとで知り合いに聞いてみる」
俺にも理解できない。だが、何かあるはずだ。
ようやく走り終わったようだ。
「俺、交渉してくるっす」
時計の長針はゆっくりと進み、ようやく半周した。人の気配は感じていたが、あの中の一人は見たことがある。あの目つきは間違いない。
金髪の一人が近づいてきた。退けとでも言いに来たのかと思っていたが、半分だけ使わせろとのことだ。
快く受け入れた。占有するほど俺も傲慢ではないし、多分昨日までは向こうが使っていたのだから当然だ。
一度水分を補給し、制御室に向かい環境の調整を行う。
対象を第一コートのみに切り替える。
隔壁の強さ[最大] セット[10]
時間(分)[3]間隔(分)[2]
敵数[1] 仕様[全魔法・Ⅱ]
心理干渉[70%] 衝撃[有]
このぐらいだろう。
コートに戻ってみてわかるが、心理干渉70はやはり
影響を感じる。頭を締め付けられ、思考が阻害されている感覚だ。
目の前に文字と、人影が出現した。
《3》…《2》…《1》…《開始》
「フラン!」
前方に速攻魔法。敵に攻撃を与えつつ、反動を生かして敵の初撃を躱す。
体勢が悪い。着地でバランスを崩す。
すかさず敵は第二、三撃を放つ。右か、左か……頭が働かない。
「っっ!」
反応が遅れ、一方が足元に着弾。体勢を崩された。
「っフラン!」
空中で放ち、強引に第三撃を避け、地面に転がる。
すぐに立ち上がり、反撃……。
「フラ…ぐぁっ!」
敵の追撃の爆炎魔法が直撃。熱くはなかったが、衝撃で動けない。
《残2:45 敗北》
「あぁー!」
わずか15秒で負けた。
ここの使い方を調べたのか、自分のコートの準備を慣れた手つきで終わらせた。
「始まりましたね」
「こちらも始めるか」
「俺、セットしてきます」
「ついでに見てきてくれ」
いよいよ、始まった。
攻撃しつつ回避、判断はいいが体勢が悪い。
「それでは遅い」
……敵の追撃が直撃。15秒足らずでやられたが、今のは仕方がないだろう、体勢を崩しながら、あの身のこなしができるのはなかなかだ。
「どうだ?」
「全魔法・Ⅱ、70でした。あ、やっぱり負けてる」
「なんなんだあいつ」
俺でも魔法を絞って80が限界なのに、全魔法でそれは無謀すぎるだろう。
「めちゃくちゃ悔しがってますよ」
「笑っているが、お前より強いぞ」
「マジすか……なら俺も頑張ります」
負けて当然なのに悔しがっている。あれに本気で勝とうとしている。録画までして、間違いなくバカだ。
2戦目は動きは完璧だったが、単純に手数で負けた。
「痛くないんすかね」
「衝撃設定有りか?」
「はい」
あの攻撃が痛くない?そんなわけがない。
あいつはその後も負けては悔しがり、立ち上がった。
普通なら設定を落とせと言いに行くところだが、俺はなぜかできなかった。
それがその日から毎日続くことになるとは、その時は思っていなかった。
なかなか面白い奴だ。




