会長の策略
本校舎の最上階、学園の象徴である時計台の真下に生徒会室は位置する。
「「失礼します」」
一息つき、三回のノックの後、恐る恐るドアを開けた。
Uの字に並んだ長机の上座に会長が、その右隣に先輩が座っている。
「アルバート君、久しぶりね」
「お久しぶりです」
目が合うと微笑んだので、会釈をした。そういえば先輩、今朝は大丈夫だっただろうか。
「アリシアさんの席はそこの真ん中です」
「アルバート君は私の隣ね」
こんなに席が空いているのに、どうして俺は先輩の隣なのだろうか。などと考えながらも、言われた通りに先輩の隣へ。俺の左斜め前にリーエルが座る。
しばらく待っているとミーナがやってきた。俺がいることを不思議に思っていないのが、逆に不思議だ。
ミーナはリーエルの二つ左に座った。
こちらを見たミーナがニヤリと笑った。その意味に気づき、天を仰いだ。
この流れはつまり、そういうことだ。
「やっと気づいた?」
先輩が嬉しそうに笑う。
半ば諦めながら、一応聞く。
「強制できるんですか?」
「執行官の欠員補充制度を適用しました」
会長がしてやったりな顔で言った。そんなドヤ顔で言われてもという、俺の指摘に、会長は少し照れた。
しかし、新たな疑問が生まれる。
「この前来た時は欠員はいませんでしたよね?」
俺の疑問に、待ってましたとばかりに会長が笑う。
「この前、私がそこに座っていたでしょう?そして、今はここ。私、副会長になったの」
嬉しそうに、そしてなぜか誇らしげに先輩が説明を始めた。
「はあ……それでどうしたんですか?」
「アルバート君が委員長だって確認がとれて、すぐにエレナに言いに行ったの。そしたら副会長を一人増やして無理やり欠員を作ろうって話になって」
真面目そうな会長でも、結構強引なことするんだな。
しかし、それだとカルロスになった可能性もあるし、そもそも立候補しない可能性もあった。
「俺が委員長にならない可能性や、降りる可能性があったのでは?」
「その可能性はありませんでした。実際、あなた自身も降りる気は無かったでしょう?」
確かに、降りる気は無かった。しかし、どうしてこちらの動きが分かっていたかのように事を進められたのだろうか。
心理操作系の魔法に対してある程度は耐性があるはずだ。実際、会長の地獄の勧誘にも耐えたわけだ。
にっと、ミーナが笑う。なるほど、そういうことか。
「ミーナさん、アリシア先生に協力してもらいました」
「ミーナお前!」
ミーナは笑いながらも、若干の申し訳なさを手を合わせて表す。
「あなたのことは、あの日の夜にミーナさんから聞きました。そして、なんとしても引き込みたかった私は、彼女と先生にお願いして委員長になるように誘導してもらえるようお願いしました」
ということは、あの時の違和感は。
「まさかあなたも、幼馴染から心理操作系の魔法を使われるとは思ってないでしょう」
俺は頭を抱えた。
「あなたはミーナさんにだけは心を許している。だから直接折ることは難しくても、曲げることぐらいはできます」
まさかな。
「そして、先生には委員長の重要な部分の説明をしないでいてもらいました。他に立候補者が出てきた場合は絶対にあなたが勝つ多数決をしてもらう予定でしたが……その必要もなかったらしいですね」
全て会長の思うがままだったということだ。
「そして最後に、レーナによる勧誘です。もちろんレーナは知っていましたが、あなたと話をしたがっていたのは嘘ではありません。そこだけは勘違いしないでください」
全て委員長を降りるという選択肢を消すためのダミーだったってことか。
これは完全に俺の負けだ。というより、会長の策略が凄すぎる。
「はぁ……さすがにミーナは疑ってなかったわ」
会長を全面的に警戒していたし、先輩の勧誘には気をつけていた。けど、ミーナはな完全にノーマークだった。
「アルバート、ごめん」
「そんな深刻な顔して謝るな。後でなんか奢ってくれればそれで許す」
「私も、騙すような真似してごめんね」
あの先輩が少し申し訳なさそうな顔をしている。
「私からも謝ります。利用してすみませんでした」
「でもね、アルバート君。エレナがここまでするってことは、凄いことなんだよ?」
「ここまで難航するとは思いませんでした」
「それにしても、エレナのあんな顔久し振りに見た。やっぱり、悔しかったんだよね?」
そう言って、先輩は会長の真似を始めた。
「レーナ、やめてよ」
会長が取り乱している。この二人は相当仲がいいのだろう。
悔しかったというのは、おそらく心理操作系の魔法が通じなかなかったことだろうが、深くは聞かないでおこう。
「では、昼食にしましょうか」
会長に促され、集まった五人で昼食をとった。
そして、生徒会執行部の面々が集まり、一回目の会議が始まった。
正面にいるのは、今朝更衣室であった奴だ。俺はそいつにずっと睨まれている。
「自己紹介も終わったので、本題に入ります。今日決めるのは、六月に行われる最初の学校行事、芸術祭についてです」
場所はこの街の国際音楽ホール。いくらこの学校の大聖堂といえど、全校生徒三千人と、その保護者全員を収容することはできないため、今年から外部でやることになった。
俺たち執行官の仕事は館内警備、危険が多い外の警備は先生達と、ホールの警備員が行うらしい。
俺は意見することなく、ただ睨まれ続けながら会議を乗り切った。
十七時をの鐘を響かせる時計台を、夕日が照らしている。
俺は、家とは逆の方向へ向かっていた。今日は一年生の歓迎会をするのだという。参加するのは一年は全員、二年は予定が合わず、メイエルン先輩、ルーン先輩の二人、三年はエレナ会長、先輩、ハーバード先輩の三人だ。
俺が後ろからついて行く中、一年の一人、ジークがミーナに話しかけた。ちなみに、ジークは魔導兵科だ。
そして、もう一人の一年であるマルクスは俺のところに来た。ジーグと違って、同じ年には見えない顔だ。
「何か用か?」
「お願いがあります」
「俺にお願いしてもいいことは無いと思うが、なんだ?」
「魔導工学のことについて、教えてくれませんか?」
真剣な眼差しから放たれた内容に呆気にとられる。
「魔法学科の奴が何言ってんだ?」
白の制服を纏っておきながら、皮肉だろうか。
「僕、本当は魔導工学科志望だったんです。でも、両親が許してくれなくて」
そういえば、セレグマフ一族は一流貴族だったな。
「ああ、そういうことか」
「ダメですか?」
子供に教えを請われているようで、どうも断りづらい。
「俺も忙しい。お前は俺に何ができる?」
タダで教えるほど俺もお人好しじゃないし、何より忙しい。教えるなら、交換条件でだ。
「セグレマフの魔法を教えられます」
さらりと言ったことに、思わず突っ込む。
「いや、さすがにそれはマズイだろ」
家の魔法というのは、家の資産と等価、その魔法により貴族としての威厳が保たれているといっても過言ではない。そんなものを俺が使っていたら、大問題になる。
「アルバート君は独自の詠唱を使えると聞いています。それで唱えるならバレません」
こいつなかなか悪いな。確かに、俺の魔法は魔法陣も独特だし、変換さえできればオリジナルで押し通せる。
「わかった。なら詠唱文じゃなくて、魔法陣を見せろ。それから俺が詠唱を考える」
これなら俺が技を見て盗んだといえばごまかせる。同じ魔法だが、俺のオリジナルになる。
「ありがとうございます」
「俺には時間がないから本を貸す。ある程度は自分でなんとかしてくれ。わからなければここにメッセージを送ってくれ」
「嬉しいです」
「魔法の方は、そのうち教えてくれ」
「はい!」
互いの利害関係が一致。友達とは言えないが、また一つ連絡先が増えた。
そこからの歓迎会は先輩から会長のいろいろな話を聞いたり、また会長から先輩の話を聞いた。ミーナは相変わらずジークに絡まれており、俺はマルクスに基本的な事を教えたりもした。些細なことにも驚くから、教えていて楽しい。
三時間ほどで会は終わった。様々なことを話し、正直に言えば、楽しかった。
人との関わりも悪くないと、初めて思ったのかもしれない。




