爆炎の宴
俺は昨日、戦闘のいろはを学んだ。
今の俺たちのように、前衛・後衛の布陣をとる相手に対して繰り出すのは、速攻の雷撃魔法。前衛を一定時間行動不能にし、二対一で後衛を叩く。
それに対するこちらの定石は、前衛が障壁魔法を展開することだ。
開始と同時、敵二人は定石通り一小節で魔法を展開。
「ルーディス」
「雷鳴よ!」
「雷よ!」
「精霊よ……」
それに対し、俺たちは詠唱を開始。敵が魔法を完成させるなか、こちらは起動するのみ。
「我が名の下に命ずる……」
敵の電撃が迫る。
「もらった!」
「アプト!っ!」
電撃の一つが直撃、意識を失う。
「なっ!」
直後、起動後から俺の体を覆い始めていた魔力が炸裂し、もう一方の電撃と相殺される。
自らの魔法による自爆で意識を取り戻し、そのまま地面に倒れ込んだ。
「痛ってぇ……頼むぞリーエル!」
リーエルは頷いた。
「主よ、其の力を以って、我らを守る盾を……」
「雷鳴よ!」
「展開せよ!」
慌てたカルロスはもう一度雷撃を撃ち込むが、俺の前で魔法の盾に阻まれる。
「我が電撃を以って、かの盾を打ち砕け!」
先ほどよりも強力な電撃が迫るが、俺には届かない。
リーエルの盾は、その程度では壊せない。
体の砂を払い、もう一度手を突き出した。
「よくやった。この勝負、もらったな」
俺の言葉に、リーエルは少しはにかみ、頷いた。言葉はないが、やってやれという目をしている。
「ルーディス・ロール…」
俺の周りの空気が光を帯び、俺にまとわり始める。
「ラ・デーラ・ラウディス……」
その光は腕に集まり、幾重にも魔法陣を展開していく。
「フラン……」
それは熱を帯び、ほのかに紅く色づき、渦を巻く。
―波動は大気を揺らす。
「メイド・アド・メイド……」
幾重にも束なる魔法陣は赤く染まり、渦は炎を纏い燃え盛る。
―その衝撃は地を鳴らす
「…………レイド…………」
渦は束なり矛となる。
――波は伝播し、教室の窓を揺らしていた。
「アルバート君、やり過ぎ……」
強烈な頭痛とめまいがレーナを襲う。前よりも不規則で、強力な魔力反応に、彼の成長を実感する。
「先生……保健室に行ってきてもいいですか……?」
彼女は限界を迎えた。
廊下から見える第一グラウンド。そこにいる一人の男子生徒は、とても楽しそうだった。
「待っ……てくれ……」
カルロスの表情は絶望に満ちていた。彼は目の前で展開されていく魔法にただ恐怖していた。
シャルは泣いていた。俺は撃たないと伝えている。だが、それがわかっていても、自らに向けられた矛先に死を覚え、体の震えは止まらないのだろう。
異変を感じたオルドはその状況に目を疑った。
「アルバート、辞めろ!」
しかしその声は、ミルナが展開する魔法障壁によって阻まれる。
「ミルナ、しっかりしろ」
あのミルナが、呆然と立ち尽くしている。
「彼を、甘く見過ぎていた」
障壁が消え、オルドが手を掲げた。これは、続行不能の判断だ。
「二人を引っ張り出せ」
生徒数人で我を忘れている二人をそこから引っ張り出した。
俺は突き出した右手を、空に掲げた。そもそも当てる気はない。
「……アプト!」
解き放たれた矛は、天へと駆け昇る。
数十秒後。遥か上空で炸裂。その衝撃は雲を裂いた。
あの高度なら、地上には影響しない。
一息つき、振り返る。リーエルがすぐ後ろにいた。
「アルバート君、やり過ぎですよ」
「悪い」
「私より、彼女に言ってあげてください」
リーエルが向く先、シャルが数人の女子生徒に慰められていた。
俺が近づくと、そいつらはすぐに離れていった。
「シャル、悪かった」
「アルバート君は、悪くないよ……」
「いや、俺のせいだ。許してくれ」
「もちろんです……」
これは、いろいろとやらかしたな。
俺は勝ったが、その代償は大きい。クラスの奴らからの印象は最悪だ。右手を動かすたびに警戒される。
そして周りを見渡せば、グラウンドのもう半分を使っていた生徒も集まっていた。
俺は、試合に勝って勝負に負けた。




