そして始まる学園生活
月曜日の朝、一週間の始まりに対する気だるさを感じるのは、いつの時代の人間も同じだろう。
顔を洗い、眠気を払いのける。
ちょうど焼けた朝食のトーストをホットミルクで流し込み、歯を磨く。そして、コートに袖を通し、家を出る。
春の日差しは去年も今年も変わらない。変わっているのは背丈と、制服だけだ。
今日から本当の意味での学園生活が始まる。
といっても、一時間目から体育だから気分は上がらない。聞いた話だと、担当がハゲの時間は相当キツイらしい。
「体育と魔法学だけって……ミーナも大変だな」
自分の時間割りと見比べ、思わず同情する。
「でしょ?魔法学は好きだからいいけど、体育多いのは嫌だ」
「まあ、頑張れ」
俺が言えた義理ではないが、この場合この言葉しかない。
「アルバートも大変になるから、人のこと気にしてる場合じゃないよ」
言葉の意味がよくわからん。どう考えてもミーナの方が大変だろう。
「どういうことだ?」
「いや、やっぱりなんでもない」
これは絶対に何か隠してる。聞いても吐かないだろうし、ここは諦めるしかない。
教室には既に体操服に着替えている生徒もいた。
体操服は、ダークグレーを基調としたジャージ質の生地に、胸より上は黒い布で当て布がされている。左胸には校章と、メーカーのエンブレム。
このメーカーは確か、軍用着を手がけているところだ。
対魔法繊維の当て布をしている段階でこれは、体操服というより戦闘服だろう。
自らも着替えるために、第一グラウンドの脇にある更衣室に向かった。
このグラウンドを見るたびに度肝を抜かれる。広いだけでなく、美しい。それを生み出すのは、長さが揃えられた天然芝である。この状態を維持するのにどれだけの魔法がかけられているのか、想像もつかない。
更衣室はかなり広い。他学年の生徒がいるにもかかわらず、狭いと感じるどころか、広すぎると感じるほど。
「誰かと思えば君じゃないですか。のこのこと負けに来たのですか」
あいつだ。面倒だから無視しておこう。
「怖くて顔も合わせられないようですね。アリシアさんと組めるのが、今から楽しみです」
そう言い残し、去って行った。訳がわからん。
着替え終えたところにまた誰かが来た。眼鏡をかけた青眼の男。体操着であるため学年がわからない。
「あなたがアルバートさんですか」
俺のことを知っているということは、おそらく生徒会関係者だ。
見下した話し方が気に触る。
「そうですが。何か用ですか?」
「会長からの勧誘を断ったらしいですね」
「だから何ですか?あなたに関係ないでしょう」
「失礼、まだ聞いていないようなら、僕からは何も言えませんね。ではまた後ほど」
次から次へと、ストレスが溜まる一方だ。
更衣室を出たところに、先輩がいた。それで思い出したが、体育で略式詠唱を使う。朝礼まであまり時間はないが、こればかりは伝えなければならい。
「おはようございます、先輩」
先輩は驚いた様子で振り返った。
「あ、アルバート君!体操服、似合ってるね。それで、どうしたの?」
「今日、あの詠唱使います」
「わざわざ言いにきてくれたんだ。ありがとう……あと……」
「時間やばいんでまた後でお願いします」
先輩が何か話そうとしたがもう時間がない。予鈴がなったため、教室へと走った。
朝礼にはなんとか間に合った。出席確認を終え、いよいよ体育が始まる。月曜日のこの時間、俺たちには、第一から第三まであるグラウンドの中で、最も校舎に近い第一グラウンド、その半分が割り当てられている。
担当は男のオルド先生、ミルナ先生は女だ。男の先生はもう一人いて、そっちがハゲている方だ。オルド先生は普通にイケメンだ。
軽く体を慣らし、リーエルと戦術の最終確認を行う。
「一戦目、アルバート、アリシア、カルロス、ナッカ。同じくジャック、ミラ、メイス、レヴォーグ、準備しろ」
オルド先生の指示のもと、所定の場所へ向かった。
「準備はいいな?」
その言葉で、芝生の上に、四人を取り囲む陣が浮かび上がった。
「そこから出たら失格よ」
も、ミルナ先生。
「それと、その壁は魔法障壁だ。思う存分暴れてくれて構わん」
それを聞いて安心した。
対峙するカルロスは余裕の表情だ。
「安心しろアルバート。すぐに終わるさ」
「今のうちに降参しろよ」
一応、警告はしておく。我ながら実に良心的だと思う。
「それはこちらの言葉です」
まあ、こうなるのはわかってたが。
「準備できたか?」
リーエルが頷いたのを確認し、手を伸ばす。そして掌を相手に向けた。
互いが臨戦態勢に入る。
「始め!」
心の中で、戦いのゴングが鳴った。




