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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「キミだから」とかいう少女漫画のお決まり台詞でBL

作者: 二馬いちご

 俺は男で、好きになったのも男で、おかしいんじゃないかと悩んだこともあった。

 でも気持ちを墓場まで持っていくことはできなかった。

 理解ある友人の協力もあり、俺は放課後二人だけの教室でそいつに告白した。


「────悪い、俺、お前のことそういう対象として見れない」


 当然のようにフラれた。

 わかっていたことだった。

 でも、悲しくて、悔しくて、あきらめきれなくて、


「俺が女だったら付き合ってた?」


 すがるようにそいつにそう言った。


 ら、


「……いや無理だな。だってお前、もやしじゃん。お前が女になっても良くてスレンダー、悪けりゃガリ女だろ。俺、肉付きの良い巨乳が好きなんだよね。あとちょっと高圧的なほうがいい。巨乳の年上高飛車女を組み敷きたいから、同級生のひ弱ガリ女なお前とは付き合えない」


 くそみたいな答えが返ってきた。


 いや、ある意味誠実だけど。


 何も言えない俺にそいつは「話はそれだけ? じゃあ俺約束があるから帰るわ」と言って、教室出ていった。


 失恋、という言葉より、敗北、という言葉のほうが脳裏に浮かんだ。


「────ハア」

「……あー、話は終わったみたいだな」


 窓際の壁にもたれかかりため息をつく俺に声がかかる。

 今回の告白をセッティングしてくれた理解ある友人だ。

 爽やか体育会系の人気者で、俺の性癖を知っても厭わないでくれるいい奴。


「どうだった?」

「フラれた」

「そっか……」


 友人は俺の隣に立ち、静かにそう言う。


 ハア。


 協力してくれた友人の手前、吹っ切れた表情で笑って明るく「いやー、だめだったわ。わかってたことだけどな。相談乗ってもらったりお前にも迷惑かけたな」って言えたらよかったんだけど、だけど、……ダメだ、わかっててもなんでも、俺はあいつと付き合いたかった。

 告白して、その先も成功させたかった。

 あいつと────。


「っ────」


 やばい、泣きそうだ。


 友人に見られないよう顔をそらす。

 そんな俺を見て友人は、


「……俺、本当はうまくいきっこないって知ってたんだ」


 と、告げた。


 発言の意図がわからなくて、涙をこらえながら友人を見る。

 友人は無言でチョイチョイと窓の下を指さす。


 そこには俺の好きな奴が女子生徒と帰ってる姿があった。

 女子生徒に対し、俺の好きな奴は俺には見せたことない優しい笑顔を浮かべている。

 誰がどう見ても二人は付き合ってる。


「────なんだよ、それ」


 前髪をくしゃりとかき揚げ、吐き捨てるように言う。


 なんだよ。

 どういうことだよ。

 だってお前言ってたじゃん。

 巨乳の年上高飛車女が好きだって。



 その女、ゆるふわ年下貧乳じゃねえか!



「────女の子の方さ、部活のマネージャーなんだけど入部理由があいつに一目ぼれしたからなんだよ。一度好みのタイプじゃないってんでフラれてるんだけど、あきらめずに頑張ってあそこまでいったんだ」


 友人が言う。


「つまり、俺は男だから駄目だったってことかよ」


「じゃなくて、マネージャーの努力の結果、マネージャーにだけ年とか胸とか関係なくなったんだ。あいつにとってマネージャーは特別なんだよ。わかるだろ、好きになったらタイプとかせ……その、いろいろ関係なくなるって!」


「……」


 やけにマネージャーをかまうんだな。

 当然か。

 大切なチームメンバーの一人と、かわいい後輩マネージャーが、セイジョウなお付き合いしてるんだから。


 ……クソッ。

 なんだよこれ。

 結局お前も理解あるふりして、俺のこと、陰で、どうせ────。

 クソッ。


「帰るっ」

「待っ────」


 泣き顔見られまいとその場を離れようとした俺は腕をつかまれ、


「あ……」

「────好きだ」



 キスをされた。



 …………。

 …………。

 …………。



 キスをされた。



「……」


 運動部につかまれてるから力の弱い俺は腕を振りほどけないとか関係なく、ただその場に立ち尽くす。


 り、理解が追い付かない。


 ただキスをされたことだけはわかる。


 わかりたくないがわかる。


 でも、わからない。


 硬直している俺に友人が言った。


「こんな風に言うつもりはなかったんだけど、あーもう、好きだ。それだけは伝えたかった」


 顔を真っ赤にし見たこともない表情をしている友人に俺は言った。


「お前、ホモかよ」


 俺が言うなというセリフだった。

 友人は、あー、とか、うー、とか考え込んだ後、


「違う」


 と言いやがった。


「いや、違うくないだろ! だってお前、俺にキスしたじゃん!」

「したよ。お前が好きだからな!」

「じゃあホモじゃねえか!」

「違う! 俺が今まで付き合ったの全員女だったろ。俺の恋愛対象は女なんだよ! でもお前が好きなんだよ!」

「どう意味だ⁉」

「だから、お前限定でタイプとか性別とか関係なくなったんだ!」


 友人は言い切る。

 俺を好きだと言い切る。

 涙はいつの間にか引っ込んでいった。


「────で、答えは?」


「いや、あの、気持ちは嬉しいけど、────付き合ってもないのにいきなりキスしてくるような奴はちょっと……」


 友人の手の早さは正直ドン引きだ。


「そこは悪かった。次は気をつける」

「いや、次とかねえし!」

「他は? どこか気をつけてほしいところとかある?」

「気をつけるも何も……。いいか、俺は男ならだれでもいいわけじゃねーんだぞ!」

「俺だって誰でもいいわけじゃない。お前だから好きなんだよ!」


 ぐわあ、なんなんだよ、そのカウンター!

 ちくしょー、ヘテロの分際で。

 どうせ、やっぱり女が良いってなるんだろ。


 どうせ、どうせ。


「…………わかった」


 俺は静かにため息をつく。


「俺はお前みたいな体育会系陽キャリア充なんて嫌いだけど、どうしてもっていうなら付き合ってやる」

「おお……、お前付き合うと性格変わるタイプだったのか。────これからよろしくな」

「っ」


 何、嬉しそうに笑ってんだよ!

 友人から嫌いって言われてんだぞ、傷つけよ!


 あ、いや、恋人になった、のか?


 とにかく傷ついたり失望したりしろよ!

 俺だったら、何だこいつ、ってなって関係切るぞ。普段のお前もそうだろ。

 なんでこいつはあっさり受け入れてんだよ。

 こんな俺を……。


 ……え、俺だからか?

 …………え、え、まじ俺だから受け入れられてるのか?

 こいつ、まじで、俺限定で、タイプも性別も関係なくなってんのか?



 ────俺のことが好きだから。



「────っ、帰る!」


 顔赤いのバレたくなくて教室を飛び出した。


「あ、待てよ。一緒に帰ろうぜ」

「うるせー、俺はべたべたしない主義なんだよ!」

「まじか、俺は恋人とイチャイチャすんの好きだからそこは変わってもらう」


「誰が変わるか、バーカ!」


変わらない(変わる)

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