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雅な春の。  作者: 七海 咲飛
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第1部

 高校二年生になったばかりの四月。考え事に耽るのには丁度いい、心地良い暖かさである。教室の窓からみえる桜が、花を落とすのを惜しむかのように少しずつ、少しずつ散っていく。眺めていた視線は、教室の扉が開かれる音によって、前に戻された。立っていた者も、パラパラと自分の席に戻っていく。

「ホームルームを始める。出席取るぞー。青山ー……」

 二十代後半の担任の声は若く、まだまだ威厳は感じられない。教室でも教師というよりは、歳の離れた兄のような、そんな存在。みんな慕っている。

 名簿を持つ手が、キラリと光った。

 あぁ、指輪...

 左手の薬指は、先生が誰かのモノであると主張するように光っている。その指輪は、誰もが知る婚姻の証。その小さな輪を、ボーッと眺めていた。

「……瀬ー、高瀬ー」

 自分の名前が呼ばれていたことに気付き、慌てて返事をする。

「あっ、はい……」

「暖かくなってきたからって、ぼーとしてちゃだめだぞー」

 先生は笑って手元の名簿に出席のチェックをつけている。こっちを見る周囲の視線から逃れるために、私はまた窓の外を眺めるふりをした。


「高瀬、ちょっといいか」

 ホームルームを終えた先生が、私を前に呼んだ。仕方なく席を立ち、先生に近付く。

「ノート、集めるの頼んでもいいか」

 このクラスの国語は、担任の安達先生が受け持っている。先生はご丁寧に、毎回小テストをノートに貼り付けて赤ペンでメッセージをくれるのである。おそらく今回は、クラス替えをしたばかりの私達が最初の授業で行った、一年生の復習テストの返却だろう。休み時間や放課後を削って準備室にノートを運ぶのは正直面倒だった。

「えぇー」

 思わず心の中を声に出してしまい、慌てて口に手を当てた。

「おいおい、そんなに露骨に嫌がらなくてもいいだろ」

 先生は私を見て笑っている。きっとわかっているのだ、私は先生の頼みを断らないことを。

「……放課後でいいですか、昼休みは予定あるので」

「ああ、全然構わないよ。ありがとうな」

 少し機嫌を悪そうにしてみたのに、先生は嬉しそうにしている。大人のくせに、私の調子を狂わせるのが得意だ。


 高一の時、先生は私のクラスの国語をもっていた。担任ではなかったけど、みんな歳が近くて優しい先生が大好きだった。クラスの人気者も、物静かな子も、ちょっと素行の悪い奴も。友達も少なく、自信を持って人に言える特技のない私も、例外ではなかった。

 毎回くれる先生の赤ペンでの一言に返事をする。それにまた先生が返して。こんな風にノートを使っていた生徒なんて、私くらいのものだろう。そのやりとりが楽しみで、頼まれるノート運びも心が高鳴っていた。

 しかしその思いは、職員室の机の上にあった一枚の写真によって、あっけなく終わりを迎えたのだった。



「あぁ……雅、私もう、だめかもしれない。生きてるのが辛い」

 昼休みに屋上で雅とお弁当を食べるのはいつものことなのに、この所気分は憂鬱である。今まで恋なんて経験がなかったから、こんな思いも知らなかったし、知らない方が楽だったかもしれないとさえ感じていた。

 手に持ったお弁当を見つめながら失恋の悲しみに浸っていると、

「ちょっと……春、少しくらいご飯食べなよ。昼休み終わっちゃうから」

 私は開いただけのお弁当の卵焼きを箸でつつきながら、

「だって私、初めて人を好きになったんだよ? それがこんな、こんな最後って…」

「いや、相手が既婚だって時点で普通はある程度覚悟しておくものでしょうよ。先生と奥さんの間に赤ちゃんが産まれたって聞いたのは確かにびっくりしたけど」

 雅はジュースを飲みほして、ふーっと息を吐いた。



 先生を好きになったのは、まだ先生がクラス担任ではなかった去年の夏頃だった。その時はもう薬指に指輪もしていたし、授業中に幸せそうに奥さんの話をしていたから、まさか好きになるなんて自分でも思ってもみなかった。恋は凄い。恋というものを知らない私でさえ、はっきりと自覚できるものだったから。



「雅はさ、綺麗でカッコよくて、スタイルもよくて友達も沢山いて、彼氏もいて……私に無いものいっぱい持ってるなんてずるいよ。一個くらい分けてくれたって罰は当たらないと思うよ?」

 チラリと隣の雅を見ると、口元が笑っているようだった。

「あ、今笑った?全然笑い事じゃないよ!」

「だって、あまりにも春が可愛くって」

 落ち込んでいたはずだったのに、雅と話すと自然といつもの自分に戻れていて、楽しかった。この高校で唯一、親友と呼べる存在である。

「あ、それと春。私、とっくに彼氏と別れたから」

「え? ちょっと、聞いてない私!」

 初めて聞く親友からの情報に戸惑いを隠せず、お弁当をひっくり返しそうになっているのを余所に

「だって、言ってないもん」

 人の気も知らないで、本人はケラケラと笑っている。雅はいつもそうだ。大事なことを言わなかったり、他人事かのようにこんなにもあっさりと言ったりする。どんな時も余裕があるのは、出会った頃から変わっていない。綺麗で背が高くて、いつも周りには人が沢山いたりする様な人種の人間には、恋人ができたとか別れたとか、そんなことはいちいち友人に報告するほど大した話ではないのだろうか。

「あ、そういえば新しいクラスで友達、ちゃんとできたの?」

 その言葉に、ギクッとしてしまう。

「えーっと…まだほら、クラス替えして一ヶ月くらいだし? ここから本気出すっていうか……なんというか」

 一人もできていません、なんて言えない。

「春のことだから、教室では静かーにしてるんでしょ? 一年の時みたいに。休み時間も移動教室も一人で、二人組になる時余っちゃったりして」

 雅は冗談めかして笑いながら話していたが、言われたことが全くその通りで、何も言い返せなかった。まさかとは思うけど、教室の様子とか見られたりしてないよね?うん、まさかね。

 去年は同じクラスだった雅は、二年のクラス替えで別々になってしまい、引っ込み思案な私は友達一人作れずにいた。一年の時は、たまたま放課後の教室で居合わせた雅に声をかけてもらい仲良くなって一緒にいたけれど、二年になると一年の時のグループがある程度維持されるものだから、新しいクラスで知らない誰かと親しくなるのは難しいものである。

「寂しかったら、いつでもおいでよ?」

 そう言って、優しく頭を撫でてくれる。なんだかんだ言っても優しい所に、いつも救われている。しっかり者で面倒見がいいのが私の親友、神田雅なのだ。


*     *     *


 教室に戻ると、相変わらず一人ぼっちになってしまう。窓側の一番後ろの席になったことが唯一の救いであった。季節を感じることもできるし、他のクラスの体育の授業を眺めることもできるから、友達がいなくとも寂しくなんてない。寂しくなんて…ない。

 

 ホームルームの後、私の机にクラス全員のノートが次々と集められていくのを見守る。去年から他の生徒よりも積極的に関わっていた私に、先生はよく手伝いをお願いする。今までは嬉しかった事なのに、失恋した今ではもはや苦行であった。

 二つの山になったノートの一方に手を伸ばすと、誰かが横からもう一方の山を手に取った。

「手伝うよ、高瀬さん」

 机の隣に立っていたのは、同じクラスの男子生徒だった。

「あ、ありがとう。えっと……」

 同じクラスの男の子の名前も憶えてないなんて、最低だ、私。

「菅原。菅原優也。やっぱ覚えてもらえてなかったか」

 菅原君は頭を掻きながら、苦笑いを浮かべている。

「ごめんね、菅原君。私、このクラスに友達とかあまりいないから……」

 『あなただけではない』と伝えたいのに、上手く言葉が出てこない。

「今日覚えてくれたらそれでいいから」

 菅原君は察したかのようにそう言ってニコッと笑った。その笑顔に、ホッと胸を撫で下ろす。嫌な思いはさせずに済んだみたいだ。

「これ、準備室に運べばいいの?」

「うん、そうだよ」

 ノートを持ち上げようとすると、菅原君は私の山から半分くらいを自分の山に乗せた。

「あ、ありがとう」

「いーえ」 

 さり気無い優しさに驚いていると、何でもないというようにスタスタと歩き出す彼に置いて行かれそうになって、慌てて後に続いた。

 準備室に向かう途中、無言になりそうなのに気を使ってか、菅原君が私に話しかけてくれる。

「高瀬さんはさ、クラスで友達とか作ったりしないの?わいわいするの、苦手?」

「ううん、友達は欲しいよ。でも人見知りだから、なかなか」

 こんな話、したってしょうがないのに。菅原君はクラスでも人気者タイプ。いるだけで友達が寄ってくるような…そう、雅みたいな。いつも誰か一緒にいて、グループでは中心にいて。私とは正反対な人だから。名前は覚えていなかったけど、毎日クラスにいればそれくらい解ってくるものだ。

「一年の頃は神田さんと仲良かったもんなぁ。今年はクラス、離れちゃったみたいけど」

「えっ……何でそれ……」

 菅原君とは一年の時のクラスは一緒じゃなかったはずなのに、私と雅を知っていたことに驚いた。

「なんていうか、目立つから。高瀬さんと神田さん」

 私達は二人でそんなに派手な学校生活を送っていたのだろうか。一生懸命思い出そうとしても、そんな記憶は全くない。見られているなんて気にしたこともなかった。確かに雅は目立つから、おまけのような私のことも覚えててくれたのかな。そんなことより、変な事していなかっただろうか、去年の私。

 色々と気になることがあったが、準備室に着いてしまった。

「手伝ってくれてありがとう。一人よりずっと楽だった」

「お礼なんていらないよ、これくらい。また何かあったら頼って。それと……」

 菅原君は私の前に恥ずかしそうに手を差出し、

「良かったら、俺を高瀬さんのクラスメイト、友達第一号にしてくれませんか?」

 突然の出来事に戸惑うも、手伝いをしてくれた上に、クラスに友達のいない私に『友達になって欲しい』と言ってくれた菅原君を拒む理由は、一つも無かった。嘘のなさそうな、爽やかな笑顔が眩しい。

「は、はい! 喜んで…」

 こんな返事で良かったのだろうか。不自然ではないか?堅苦しくはないか?慣れないことに心配になりながら、恐る恐るだが、差し出された手を取ってみる。

「そう言ってもらえて安心した。教室でもよろしくな」

 また明日ねと準備室を後にする菅原君を手を振って見送った後、一気に体の力が抜けていく感じがした。

「できちゃった、友達……」

 予想だにしなかった出来事に、笑みがこぼれる。今日はなんて良い日だ。先生とのことで落ち込んでいたのが嘘のように、私の心は晴れていた。



 昇降口には雅が待っていた。背が高くすらっとした体つきで、壁に寄り掛かる姿がとてつもなく似合っている。

「お待たせ!」

 私が駆け寄ると、身長差のある私の顔をスッと覗き込んできた。

「あれ、何かご機嫌じゃない?連絡くれた時はそんな風には感じなかったけど」

 分かりやすいからなのか、彼女が私の変化にすぐに気付くのはいつもの事である。彼女には、きっと何も隠せないだろう。

 通い慣れた道を並んで歩き出す。雅と親しくなってから、昼休みのお弁当は一緒に食べることが常となっていたが、二人で下校するのは私の部活が休みの時くらい。それは二年になっても変わらない。歩きながら、先程の出来事について話し始めた。

「実はね、クラスで友達ができたの」

「え、ほんと!? 良かったじゃん!」

 雅は自分の事のように喜んでくれる。雅にこうして良い報告が出来て、本当に良かった。

「これからは春の浮かない顔、見なくて済むんだね」

「ご心配おかけしました」

 二人でクスクスと笑い合う。落ち込んでいたって、こうして友達の存在によって笑顔になれるのだから、大切にしていきたい。

 比較的学校に近い位置にある私の家には、楽しい話をしているとあっという間に到着してしまった。通学路として私の家の前の道を通る雅が、いつも家まで送ってくれる形になってしまい、ちょっと申し訳ない。

「あ、そうだ、これ。でも、今の春には必要ないかな」

 雅が鞄から何かを取り出した。チケットが二枚。

「映画のチケット。最近落ち込んでたし、出かけたら元気になれるかなって思ったんだけど」

 チケットには、前に私が観たいと言っていた作品の題名が書かれていた。

「これ……どうして?」

 以前、一緒に買い物に出かけた時に通りがかった映画館の前に貼られたポスターを見て、公開されたら観に行きたいと思っていたものだ。だけど、口に出した記憶はない。不思議に思いチケットを見つめていると、

「ずっと見てたから、春。ほんと分かりやすい」

 そう言って笑いながら、雅は手にしていたチケットを鞄に戻そうとしている。

「元気出たみたいだし、これはもう……」

「そんなぁ~」

 腕にギュッとしがみ付き、戻されかけたチケットを悲しい目で追いかける。そんな私を見て、雅はペットを可愛がる飼い主のようによしよしと頭を撫でた。からかってごめんと、チケットを一枚こちらに渡す。綺麗で、優しくて、気が利いて、周りの人から慕われて。

『私もこんな風になれたらいいのに』

 そんな風に思ったのはこれが初めてではない。

「じゃあ、また明日。春」

「うん、また明日」


 雅と別れた後も、映画が楽しみで仕方なかった。二人で休日に出かけるのも久しぶりだ。今日は木曜日。明日の学校が終われば、もう週末だ。


*     *     *


 朝の教室はいつもと変わりなく、ぱらぱらと生徒が登校してくる。昨日観たテレビの事、彼氏彼女との事、最近悩んでる事、様々な話題で盛り上がっている。去年までは雅とそんな風に話せていたのにと思うと、やっぱりちょっと寂しかった。机に肘をつきながら、目の前の楽しそうな光景を眺めていると、後ろから声をかけられた。

「おはよう、高瀬さん」

「お、おはよう。菅原君」

 昨日と変わらぬ笑顔で、爽やかに挨拶してきたのは菅原君だった。クラスでこうして挨拶を交わすのは久しぶりで、嬉しさが込み上げる。

「あれ、菅原、お前いつの間に高瀬さんと挨拶交わす仲になったんだよ! 聞いてねーぞ!」

 菅原君は後から来た集団の中の一人の男子生徒に詰め寄られている。

「うるせーな、いつだっていいだろ」

「はぁ? よくねぇよ、俺のことも紹介しろって」

 突然の事に状況が掴めずにいると、

「あーはいはい、もう行くよ寺島。朝からうるさい」

「いでででででで、こら三上やめろっ」

 その寺島という男子生徒は一緒にいた女子生徒に耳を引っ張られて行ってしまった。何だったんだ、今の。

「ごめんな、びっくりさせて」

 菅原君は苦笑いをしながら、先程の男子生徒に見えないように小さな紙を出した。

「じゃあ、また後で」

 私がそれを受け取るとニコッと笑顔を見せ、友達の方へ戻っていった。

 紙を開くと、菅原優也の名前とともに英数字が羅列されていた。

「これ、連絡先……だよね」

 自然と顔が緩む。制服のポケットから携帯を取り出し登録を済ませ、メッセージを送る。

「た……か……せ……です、と」

 まだそこまで親しくもないし、何て送ればいいのかわからないからとりあえずシンプルにしてみた。手に握った携帯をしまう間もなく、画面に新着メッセージ受信の文字が現れる。私に連絡してくる人なんてここ最近では家族か雅くらいしかいなかったし、ちょっとドキドキしながら開いた。

『登録ありがとう!』

 案外そっけない返信に拍子抜けしてしまう。そうか、相手は男子だった。女子同士のそれとは違って当たり前だ。昨日までとあまり変わらない日常が、友達一人できたぐらいのことで舞い上がっていた自分を現実に引き戻す。菅原君にとって私は大勢の中の一人でしかないのだから、当然といえば当然か。


 私やっぱり寂しいよ、雅。


*     *     *


 約束の時間の少し前、待ち合わせ場所の駅付近に到着した。休日は大体、制服で部活に行くか、部屋着のまま家でゴロゴロしているかのどちらか。久々に着た私服が変じゃないかと心配になり、大きなショーウィンドウの前で確かめ、少し乱れた前髪を触った。

「よし!」

 数分前に雅から、先に着いて待ってるとメッセージが届いていた。探すにも、休日で人の多い中だと見つけにくい。辺りをキョロキョロと見回すも、なかなか見つけられずにいた。


「ねぇ、あの人超綺麗じゃない?」

「ほんと、モデルさんみたい」

 二人組の女の子達が見ていた先にふと目をやると、見知った姿があった。

「あ……」

 私と目が合った彼女は、こちらに笑顔で手を振っている。周りの人が雅を目で追っているのに気付いていないのか、彼女にとってはそんなのどうだっていいのか、一直線に私の所へやってきた。

「お、お待たせ……」

 雅に向かっていた視線が一気に私に集まり、恥ずかしさで少し俯いてしまう。待ち合わせはいつもこんな感じで、隣に並んでいいものかと毎回思わされる。

「ぜーんぜん、待ってないよ! 行こっか」

 スタスタと歩き出す姿はとても綺麗で、高校生には見えない大人な雰囲気を醸し出している。ついつい見とれてしまった私は、置いて行かれないように、小走りで少し前を行く雅の横に並んだ。


 映画館はショッピングモールの最上階に入っている。最近いくつか上映が開始された作品があったためか、沢山のお客さんがいた。今日観に来たものも先週公開となったばかりで、残りの席はそんなに多くはなかった。

「やっぱり人気だね、ここでいい?」

 指差された席を確認する。少し後ろの方ではあったものの、悪くない位置だろう。

「うん、ありがと」

 雅から発行されたチケットを片方受け取り、飲み物を購入するためレジに並ぼうとしていた時だった。

「あれ、高瀬さん?」

 自分の名前を呼ばれ驚き振り返ると、爽やかな表情の男の子がジュース片手に立っていた。

「菅原君!」

 普段はサッカー部の練習で忙しいはずの菅原君は、見慣れぬ私服姿をしていた。休日の映画館なのだから当たり前であるはずだが、いつもと違った光景が新鮮である。雅が気を利かせて『買ってくるね』と前へ進んでくれたので、ごめんねとポーズで伝えてから列を外れた。

「びっくりした、学校の外で会うなんて」

「私も。制服じゃないの新鮮だね」

 菅原君は自分の服をちらっと見た後、人差し指で頬を掻きながら照れたように笑った。

「俺は全然……高瀬さんの方が、いつもと雰囲気違うから。上手く言えないけど…」

 そう言われて、何だか急に恥ずかしくなった。いつも目立たないタイプの人間がちょっと可愛めの服で外出しているのって、傍から見たら結構痛いのだろうか……

「じゃ、じゃあ、そろそろ映画始まっちゃうから、行くね……また学校で」

 少し痛んだ心を隠すように服の胸の部分をギュッと掴みながら、菅原君に手を振ってそそくさと雅のもとへ戻った。

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