#4 決断
病院に大矢裕子が見舞いに来た。アンテナショップが間もなくオープンするという報告をしに来たのだ。現場は深山が引き継いで、概ね翔太の最初のプランで進められたそうだ。そして、悪性の脳腫瘍があることは事務所を通じて聞いていると裕子は言った。
「残念です。高村さんと仕事をするのを楽しみにしていたんですけど…」
「僕もです。また何か機会があれば宜しくお願いします」
「こちらこそ」
裕子が部屋を出る時、鞠花とすれ違った。その瞬間、お互い振り向いて相手を見て驚いた表情をした。しかし、裕子はそのまま病室を出て行った。
「高村さん、今の人って?」
「うん。僕が最初に鞠花ちゃんを見て似ている人が居るって言った人」
「きれいな人ですね…」
「おっ! 自分で認めたか」
「あっ、いや、違うんです。雰囲気というかなんか洗練されたイメージというか、私なんかとは全然違うくて…」
こんな風におどおどした鞠花も可愛い。翔太はそんな鞠花が愛おしい。だからこそ必死で支えてくれる鞠花の姿を見ているのがかえって辛い。自分の命はあとどれくらい持つのだろう…。
「どこも違わないよ。鞠花ちゃんもキレイだよ」
「冗談はやめてください」
顔を赤くしながら鞠花は検温と問診を終えると病室を後にした。
「冗談なんかじゃないんだけどね…」
鞠花が居なくなって翔太は呟いた。その目には小さな光の粒が溢れそうになっていた。
翔太が入院して半年。つまり、余命あと半年。翔太には次第に焦りが出て来ていた。このままここで息絶えるのを待つくらいなら、いっそ、好きなことをやって最後の時間を過ごしたい。そんなことを考えていると、鞠花が病室に飛び込んできた。
「高村さん! 聞いてください」
「どうしたの? そんなに慌てて。彼氏でもできたの?」
「そんなんじゃありませんよ。腫瘍が小さくなっているんですよ。このまま治療を続けていたら完治するかも知れないって!」
「本当に?」
翔太は苦笑した。いよいよなんだな…。そう思った。
「デートですよ! 治ったらデートです」
「そうだね。さて、最初はどこに行こうかな…」
そんな話で暫く盛り上がった。そして、嬉しそうに出て行く鞠花の後姿を見送った。
「全く大袈裟なんだから。あんなんじゃすぐに嘘だってばれるのに…」
鞠花があまりにもはしゃいでいたので、それは逆に自分の余命がもう残りわずかなのだろうと翔太は悟った。だったら、鞠花の顔をこのまま見ているのはあまりにも辛すぎる。
そから数日後、翔太は治療をやめて退院したいと申し出た。
「星川君から聞いていませんか? 腫瘍は小さくなっているんですよ。もうひと頑張りなんですよ」
藤ヶ谷は何とか説得しようとしているようだが、翔太にも翔太の考えがある。
「自分の身体は自分がいちばん解っていますから」
「何を言うんですか! 医者を信じてもらえないのなら、治るものも治らなくなりますよ」
「もう決めたことですから」
そう言って翔太は強引に退院を決意した。




