#2 運命の出会い
翔太は最初の診察で問診を受けた際、ここ数日に頭痛が出始めたということを話した。更に、たまに腕がしびれるとこもあるということも話していた。今回の検査入院はその時の結果を踏まえて、脳梗塞や脳出血の疑いがあるかも知れないということで詳しく検査をするのだと説明された。ところが、入院している間にも症状がみるみる悪化していった。歩行に支障が出てきたため、車椅子が与えられた。その症状を受けて神経学的検査が行われた。それからMRI。
「もしかしたら、脳に腫瘍があるかも知れませんね」
「腫瘍ですか? ということは癌なんですか?」
「まあ、腫瘍と言ってもいろいろありますから。取り敢えず検査をしましょう。但し、検体を採取するために手術をする必要がありますけどね」
手術と聞いて翔太は驚いた。
「手術ですか!」
「ご心配なく。そんなにたいそうなものではないですから」
たいそうなものではないと言われても、手術は手術だ。これまで病気といった病気をしてこなかった翔太にとってはまさに青天の霹靂。
「はぁ…。そうですか…。それはどうしてもやらなきゃならないんですよね?」
「はい。どうしてもです」
翔太はこうして手術を受けることになった。
手術で採取した検体の病理検査の結果が出たのを受けて翔太は病室を移されることになった。看護師長の間宮に車椅子を押してもらい、内科病棟から脳神経外科病棟へ移された。
「検査の結果、腫瘍が見つかったのでもう少し入院してもらいますよ。放射線などの治療を行いますので」
「そうなんですか? 入院はあとどのくらいになるでしょうか? 仕事のこともありますから、長引くようなら仕事の引き継ぎとかもしておかなければなりませんし」
「そうですね。今のところ何とも言えませんけど、それなりの準備はしておくに越したことはないかも知れませんね。後程、担当医と看護師が参りますので、それまで安静にしておいてくださいね」
間宮はそう言って病室を後にした。腫瘍と聞いて多少のショックはあったものの、間宮の話しぶりがさほど切迫していなかったので、それほど重い症状ではないだろうと翔太は安心した。そして、アンテナショップの仕事は事情を話して深山に引き継いでもらった。
病室を移った翔太のところに担当医も藤ヶ谷と看護師がやって来た。
「高村さん、新しい病室はどうですか? 主治医をさせて頂く藤ヶ谷です。こちらは担当看護師の星川です」
医師が彼女を紹介すると、彼女は医師の後ろからひょっこりと顔を出して微笑んだ。
「担当看護師の星川鞠花です。今日から高村さまの担当をさせて頂きます。宜しくお願い致します。何か気になることがあったら、遠慮なくナースコールをしてくださいね」
鞠花の顔を見た翔太は驚いた。大矢裕子にそっくりだったかだ。そんな翔太の表情を見て医師の藤ヶ谷が言った。
「星川君は実習生の頃から優秀でベテラン看護師にも引けを取らない実力があります。若くてもどうかご安心を」
「あ、いや、そういう事じゃなくて、彼女、知り合いにそっくりだったので驚いて…」
「えっ! そうなんですか? もしかして彼女さんですか?」
「こら! 余計なことを聞くんじゃない」
鞠花は藤ヶ谷に窘められペロッと舌を出した。その仕草がまた大矢裕子にそっくりだった。翔太は思わず吹き出してしまった。
「失礼しました。こんなヤツですけど、宜しくお願いします」
「お願いします」
二人そろって頭を下げた。そして、二人は病室を後にした。病室を出た後で鞠花は再び、ひょっこりと顔だけを出して翔太に向かって手を振った。翔太もつられて手を振り返した。
「なんか、それほど大袈裟でもなさそうだ。これなら早く退院できそうだな」
翔太は復帰に向けて悲観することなく治療に専念できると思った。