ライバル関係
海都セントラルは王都ほどでもないが、そこそこに大きい都だ。
岬の上に建てられており、縦長に様々な施設や家屋が並び立っている。活気があるその都の何よりも目立つのは岬の先の下に築き上げられた港だろう。リフトで港と行き来でき、そこには幾つもの船が滞在していた。
一面に煌めく海はレーゲ海と呼ばれ、そこはまさに文字通り荒れ狂う波が流れている。
ここから遥か南には薄らと島のようなものが見えるが、そこへは誰一人辿り着いたこともない。ましてプレイヤーは海の先へ出ることすら出来ないようだった。
奇特なプレイヤーが≪泳ぐ≫スキルを手に入れ、海に出たものの、大して進めずに死に戻りしてきたことがあるのだとか。
海都のある陽だまりの岬からはそれぞれ東西にマップが伸びているが、ここからは他の都へとは辿り着くことは出来ない。
心安らぐ景色を後にしながら、冒険者たちは王都へ戻ることが当たり前のような風景でもあった。
「ここが海都……」
新たに目にする都に、俺はワクワクとドキドキが止まらなかった。
「ふーん、なかなか綺麗でいいとこじゃない」
「おっ、お前でもそんな情緒ある言葉が出てくるんだな」
「死にたいの?」
結局最後までこの二人は変わらなかったな。
「ここで終わりだな」
レインがそれだけの言葉を残し、俺たちは初めて出会った時のように向かい合った。
ここまでの目的を達成した以上、一緒のパーティーはここまでという意味だろう。
「ありがとな、レイン」
「俺の言葉だ」
互いに握手を交わしながら、別れを惜しむように少しの言葉を交わす。
そしてここで別れだと思った矢先、俺たちの前に第三者が現れた。
「あれ?もしかしてタクトくん?」
横から現れた四人のパーティーと思わしき人たち。
先頭に立つ青髪の優しい雰囲気を纏った魔道士然の男。
忘れるはずもない。初めてパーティーを組んだトオルさんたちだ。
「トオルさん!?」
「おぉ!マジかよ、タクトじゃねぇか!」
俺の言葉に真っ先に反応したのは後ろから顔を出したカナメさんだった。グイナスさんもアヤナさんもいて、彼らが変わらずに四人で行動しているのを知って俺はどこか嬉しい気持ちになる。
「久しぶりね、タクトくん」
「……元気でやってるようだな」
何よりも、彼らが俺のことを忘れていなかったことが嬉しかった。
俺が自然とトオルさんたちに向いて挨拶を交わすことで、一緒にいたみんなもトオルさんたちを向いた。その名に心当たりがあったのだろう。誰もが驚くように彼らを見ていた。
「おい、タクト!トオルってあのトオルなのか!?」
「ふーん、こいつがあのトオルなのね……」
あれ、トオルさんってそんなに有名人なのか?いや、確かに凄い人だけども。
みんなの視線を浴びて、恐縮するようにトオルさんは恥ずかしそうに笑っていた。
そんなとこも変わってはいないんだな。
「あんた、トオルか」
「君は?」
「すまん、俺はレインだ」
どこか意味ありげに、レインがトオルの前に出て彼と向き合っていた。
そういえば、この二人はどちらも街道のオークで記録を更新したのか。レインですら、何か思うこともあるのだろうか。
「レイン?それってあれだろ、オークを三人で倒したって奴ら!」
「あぁ!僕たちを上回ったって人だね。おめでとう……って言ってもいいのかな」
カナメさんの言葉にトオルさんも知っていたのか、思い出すようにレインにさんに向かった。
「くっそ、まさか俺らの記録を破るやつが現れるなんてな」
「何言ってるんだよ、カナメ。いいことじゃないか」
「そうよ、別に私たちはそれに拘ってるわけじゃないんだし」
「けどよ……」
「気にしすぎだ」
やっぱりトオルさんたちは変わらない。記録を超えられたことを気にするのがカナメさんだけってのも、らしくて俺は笑ってしまった。
「おい、何笑ってんだよ、タクト!」
「すみません、カナメさんらしいなって」
「お前……言うようになったじゃねぇか、この!」
「ちょっ、痛いですって!」
じゃれるように俺に軽い攻撃を加えるカナメさんを押しやりながら、みんなが俺たちを見ていた。
そういや、お互いを知っているのは俺だけなのか。
レインとトオルさんが互いに挨拶を交わしていたものの、俺は改めてお互いを紹介し合った。
隠していたわけじゃないけど、コーダは俺がトオルさんと知り合いだったことを少し責めていた。意外とコーダってミーハーな部分があるんだよな。
「けど、良かったよ。タクトくんがいい仲間に恵まれて」
「ありがとうございます。きっとあの時トオルさんが誘ってくれたから、今があるんだと俺は思ってますよ。本当にみなさんには感謝してますから」
「何言ってるんだ。全部タクトくんが頑張ってきたからじゃないか。もっと自分に自信をもちなよ」
「敵いませんね……トオルさんには」
何を言っても、この人は優しくて力強い言葉を返してくれる。そんなトオルさんに救われた人はきっと大勢いるんだろう。
「タクト、どうも僕に対する態度と違くないか?僕だって尊敬される立場にあるはずだぞ」
「おいおい、シュヴァルツは今は黙ってろって」
なぜか対抗心を燃やすようにシュヴァルツが不服げに言っているが、きっと本心ではないと思いたい。【ナルシー】のことも知っているだろうに、トオルさんの言葉はユニークな人で片付けてしまったのだから、本当に人が出来ている。
そしてそれに喜ぶシュヴァルツ。ブレない、さすがだ。
「そういえば、タクトくん。来週末にPvPのイベントがあるって知ってる?」
「あぁ、そんなイベントをやるってことは聞きましたよ」
けれど、PvPと言われても正直俺にはピンと来ない。スタイル的にも、タイマンなんてしようが、勝敗は目に見えている。それに俺たち正式組とベータ組ではどうあがいてもレベル差は歴然だ。
「さっきその詳細が公式に出たんだけど、公平を期すようにレベルが30と20でそれぞれ設定された二つの部があるみたいなんだよ。タクトくんは支援スタイルだから厳しいかもしれないけど、お祭り感覚でいいと思うし出てみたらどうだい?」
トオルさんはそう言ってくれるが、正直今すぐにどうとは言えないよな。少なくとも今ここにいるメンツの誰一人勝てる気はしない。ギリ言えば、シンが相手ならなんとかなるかもしれないが、無尽蔵のポーションと俺の弱っちい攻撃じゃジリ貧だろうしな……。
「少し考えますね。まだレベルも20になってないですし」
「大丈夫だって。この辺りでレべル上げしてりゃ、一週間もありゃ20なんて楽勝だって」
「まあ、そうかもしれませんが……」
確かに20までは行くだろうが、やっぱり俺が対人戦をしている図は浮かばない。
むしろレベル30の部に知り合いが多数いるだろうし、そっちの観戦の方が正直気になったりもするのだが、まあ本当に現時点じゃまだ分かんないよな。
「俺は出る。タクトも前向きに考えてみろよ」
「レイン……」
まさかレインにまで言われるとは。
「へぇ、レインつったか。お前も出るんなら、楽しみだな。な、トオル」
「そうだね。記録はどうでもいいけど、あれを三人で倒したっていう実力は確かに気になるかな」
「お生憎だけど、あんたたちなんて私たちは興味ないのよ」
おい、アリア。お前は誰にでもそんな態度なのか。
一瞬焦ったが、さすがはトオルさんたち。年上の態度でやんわりと受け答えをするに留めていた。
それにレインも今回ばかりはさすがに止めの声を出したようだ。
「アリア、いい加減にしろ」
「う……悪かったわ」
リーダーであるレインには逆らえないのか、途端に潮らしくなって下がるアリア。
女心はよくわからん。
「連れがすまない」
「僕らは気にしてないよ」
「そうか……。それよりも、PvPは俺も出る。立ち塞がる者は誰だろうと容赦はしないつもりだ」
「ふふっ、宣戦布告のつもりかな。もちろん僕らだって出るからには負けるつもりはないけどね」
トオルさんとレインか。魔道士と近接じゃどうにも魔道士のが不利な気はするけど、トオルさんならきっと何とかしてしまうんじゃないんだろうか。
この二人の試合が見れるのだとしたら、それはもう俺にとったら目玉の一つに違いないだろう。
海都に着いた途端、トオルさんに再会し、イベントのことも知り得た今、俺には今まで以上にいろんな未来が広がっていくのが見える。
トオルさんたちはすでに海都を出て山都を目指すようで、それに触発されるようにレインたちはすぐにレベル上げへと旅立った。
そして残された俺たちはあくまでもマイペースだ。
海都への到達の目的を果たした以上、一度コーダたちとは別れてそれぞれが自由に行動することになった。
まずはもちろん、海都の散策からだろう。
その日はそれだけで終わるほどに、海都の魅力に魅せられたのだった。
スキル紹介 弩術
――≪弩術≫ 技能スキル
弩を扱うことで使うことの出来る攻撃スキル
レベル1 ショット
レベル5 リアクトショット
レベル10 フットショット
レベル15 精密射撃
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適正スキル ≪弩≫




