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Carnival  作者: ハル
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勝利の先に待つものは

 どことなく一際スリムになったツインスネイク。

 いや、気のせいか。

 けれどその姿を前に何かの違和感を感じた。いったいなんだ。

 そして動き始めるボスを前に、ようやくそれが分かった。


「気を付けろ、レイン!」


 俺が今まで対峙していた頭、それが俺でなくレインを向いていたのだ。

 二つの頭が同時にレインに向けて鋭い牙を光らせる。


「シールド!」


 ≪盾術≫と同じ効果を持つシールド。それがレインの身を覆い防御姿勢を取るものの、その攻撃はレインのHPを軽く半分近く削っていく。

 強い!これまでで一番の攻撃だ。

 それからというものの、攻撃は苛烈さを増し、双頭は常にレインに向けて攻撃の手を緩めない。

 きっとトリガーによって、対象が一人に絞られたのだろう。攻撃が二倍にも増したと同じ意味であり、俺は楽になったがそれ以上にレインはきつそうだ。

 少なくとも攻撃をする余地はなさそうだった。


「大丈夫か、レイン!?」

「むしろチャンスだ」


 さすがと言うべきか。不敵に笑うその姿には恐れ入ったよ。

 その意味するところは、アタックの合図なんだろう。

 シンに合図をすることにより、ボスへ数回目のアシッドポーションが投げられる。


「鼓舞!」


 ≪鼓舞≫は攻撃力だけでなく防御力も増加する。それによりレインも幾分楽になり、ある程度攻撃のチャンスも生まれていた。


「連突!」

「精密射撃!」

「アクアセイバー!」

「哀愁のエレジー!」

「発勁!」


 それぞれ持てる力を全力で繰り出しつつも、ステータスも上がっていたボスのHPは最初ほど削れてはいない。

 力を振り絞るようにボスの攻撃も激しさを増し、時折≪火魔法≫のフレイムランスもレインを襲う。もちろん尻尾からの後衛への攻撃も忘れていない。

 そしてブレス攻撃が嫌がらせのように発せられた。

 状態異常に掛かるものの、HPの回復に必死なシンはキュアポーションを投げれない状況だ。


「シュヴァルツ、サポートを!」


 シンがポーションを投げ続けるが、それだけではもはや足りない域に達していた。しかも麻痺したことにより、レインの防御が薄くダメージが増えているのだ。

 シュヴァルツはリカバーを唱えた後も、そのままヒールをレインに入れ続ける。例え微弱だろうがシュヴァルツの≪回復魔法≫が少しでもレインのHPを抑えるのに役立てればいい。

 ボスのHPが僅かとはいえ、レインが倒れれば間違いなくなし崩しで全滅するだろう。断言して俺ではあの猛攻を塞ぎきれはしない。

 俺とコーダとアリアで全力で攻撃していき、これはもうどちらかが先に倒れるかの状態だった。

 そして数分の後、


「連突!!」


 止めを差したのは、突如と攻勢に反転したレインの一撃だった。


「おまっ!」


 倒れ行くツインスネイクを横目にレインを見ると、涼しい顔でボスを見下ろしていた。

 レインのHPはもはや赤色、ギリギリだったというのに。よく攻撃したよ、ホント。

 胆力の違いなんだろうか。俺には到底真似できそうにない。

 とはいえ、今は勝利を噛み締める場面だ。


「よっしゃー!勝てた勝てた!」

「被弾しまくったくせによく言うわよ」

「悪かったな!」

「なぁに、その言い方。反省してんの?」

「うっせーな!てめぇこそ、そんなつんけんした言い方しか出来ないのかよ。友達とかいないんじゃねぇの?」

「はぁ!?余計なお世話よ!」


 まったく、あいつらは……。

 短い時間の中だというのに、もはやあれが通常運転になってるじゃんか。これじゃ喜びも半減だろうが。

 二人の関係に頭を悩ませるが、どうやら他の誰もそんなことを気にしてはいないみたいだ。

 レインは興味なさげにどうやら自分のステータスでも確認しているようだったし、シュヴァルツはシンに向かって何やら興奮気味に話しかけていた。多分、最後の≪回復魔法≫がシンを手助けしたことを褒めてもらいたいんだろう。そんなニュアンスの言葉が聞こえてきた。

 俺が言えたことじゃないけど、なんかおかしなパーティーだったな。


「お疲れ、レイン」

「あぁ。そっちこそ」


 相変わらず余計な言葉もない簡素な言い方だったし、表情も笑顔も感情もないような顔だ。けれど、そこには確かに労いの感情が隠れていた。


「凄かったな、盾剣使いってのは。まあさすがに最後の一撃には肝が抜けそうだったけどな」

「チャンスは逃さない性質なんでな。……それに、凄いのはお前だろう」

「俺?」

「本当にダブルタンクをやってのけたんだ。支援スタイルなのにな」

「つっても、最後のやつは絶対俺じゃ無理だったぞ。一瞬で死んでたって」

「……どうだか」


 そう言ってもらえたのは普通に嬉しかった。

 欲を言うならば、タンクの腕前なんかじゃなく、≪歌≫を褒めてほしいんだけどな。ま、それはこの先のことだろう。

 CHMや≪音学≫のおかげで、基本値の5%よりも少し上がっているのは確実だ。だいたいだが、今で10%くらいは上がっているはず。


「それで、レインたちはこれからどうするんだ?」


 俺たちの目的はここのボスの討伐だ。目的は達成した以上、パーティーを組んでいる理由はない。俺としてはもう少し一緒に親睦を深めたいんだが……、どう見てもそんな奴らではないし。

 コーダとアリアも険悪だし、シンも話しかけても反応は薄い。そしてそれ以上にレインが人付き合いを煩わしいと思っていそうだ。

 正直、ここで解散なんだろうという前提のもとそう言ったのだが、返答はまさかの予想外でもあった。


「海都へ行く。お前たちもだろ?」


 さも当然のように言うその言葉は、そこまで一緒だという意味なんだろうか。多分そうだ。きっと。

 俺の都合のいいように受け取っていいんだよな?


「じゃ、そこまで一緒でいいよな」

「断る理由がない」


 俺たちだけで勝手に話を進めながら、他のメンツを放っておきながらボスフィールドの先へと抜けた。

 もちろんみんなすぐに後を追ってきたけど。


「ちょっと、レイン!早くパーティー解散してよ!」

「そうだぜ、タクト!この女と一緒にいることなんてないって!」


 何も聞こえていないようにアリアを無視するレインに倣い、コーダには悪いが俺も同じく聞こえなかったことにした。

 嫌なら離れときゃいいのに、と思うのはきっと俺だけじゃないはずだ。

 結局二人ともまだまだ喧嘩を止めることなく、争っているわけなのだが。


「む、この匂いは……」


 ボスフィールドの林を抜けた先は、緑一面だったブローテン郊野から一変、青色が目に映る。

 真っ先にシュヴァルツが反応したそれは、潮風の匂いだった。

 生い茂る草々よりも、空に浮かぶ雄大な青空、そして遠く先に見える海が俺の気持ちを逸らせる。

 陽だまりの岬。それがここのフィールドの名を差していた。

 そしてここから遠目に見える、岬の上に建つ大きな都。

 それこそが、海都セントラル。

 冒険者たちを誘うように、潮の匂いと海の波音が俺たちを支配する。

 そこへと辿り着くまで、もう後僅かだった。


スキル紹介 盾剣術


――≪盾剣術≫ 技能スキル

盾剣を使うことで扱うことの出来る攻撃スキル

レベル1 ファント

レベル5 バッシュ

レベル10 シールド

レベル15 連突

適正スキル ≪盾剣≫


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