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Carnival  作者: ハル
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郊野のボスと脱皮

 それから幾度かのピンチを乗り越えつつ、ようやくボスのHPが半分に到達して一度目のトリガーが発動しようとしていた。

 ツインスネイクのトリガーは脱皮だ。

 身体が真っ白い光に覆われるように輝き、少しずつその体皮が剥がれていく。


「特に変わっちゃいねぇけどな」


 あくまでも見た目の話だ。

 当然強さはパワーアップしてるだろう。

 脱皮を終えてボスが最初に取った行動は、


「魔法だ!」


 赤いモヤを包み始めるボス。火魔法の詠唱の証拠だ。

 唐突の魔法に対抗する時間もなかった。

 ボスの詠唱はすぐに終わり、火の玉がそれぞれ俺とレインに向かって降り注ぐ。

 さすがに魔法を受け流せるわけはない。

 防御の姿勢を取りながら耐えようとするが、魔法が当たる直前に俺へとシンが何かを投げた。


「くっ……危なっ!」


 分散されたおかげか、どうにか瀕死で耐えることはできたようだ。

 レインですら半分近くのダメージを負っている。

 にしても、シンが俺に投げたのはいったい何だったのか。

 ステータスを素早く見ると、そこには火属性耐性の文字が浮かび上がっているのが見えた。


「まさか……」

「ん」


 シンが俺を見て頷きながらも、HPポーションと一緒に同じものをレインにも投げていた。


「レジストポーション(火)だ」


 レインが説明するようにアイテムの名だけ告げる。

 レジストポーション、か。それがあって瀕死ってことは、なかったら死んでたのか……。

 危機をシンに救われたという事だ。

 素直に感謝し、俺はボスに向き直りながらコーダに視線を向けた。


「コーダ!シンクロを!」


 後方で戦っているコーダは俺の声が聞こえて、頷いた。


「戦意のパッション!」

「精神の歌!」


 魔法対策にシンクロで精神の歌を掛け直した。幾らでも保険は必要だろう。


「この僕も忘れるなよ!……マジックガード!」


 アピールするようにシュヴァルツが≪回復魔法≫のスキルを俺とレインに掛けていく。

 ホント、地味に役立ってるんだよな、シュヴァルツの≪回復魔法≫。

 さて、これで一通りの対策は十分だろう。それでも俺が死ぬような魔法を放ってきたらもう諦めるしかない。


「第二ラウンドだな」


 ボスの攻撃は更に多彩になっている。

 背後への攻撃も増し、コーダやシュヴァルツをどうやら苦しめているようだ。

 俺もまた攻撃頻度を増やしてきた頭に苦戦を強いられる。


「何とか被弾せずにすんでるけど、さすがに長いな……」


 徐々に集中力が切れつつあるんだよな。

 よくよく考えれば、最初からずっとボスの前に立つのは初めてだ。このプレッシャーをずっと感じながら戦うタンクの凄さを改めて思い知る。


「もう終わりか?」


 少しだけこっちに視線をやるレインが挑発するように口角を上げていた。

 何言ってんだか。

 疲れたなんて甘いことを言ってるわけにもいかない。

 自らタンクをやると言ったんだ。その責任は最後まで果たそうじゃないか。


「まだまだ、これからだ!」

「そうか。期待している」


 その言葉が奮い立たせるように、俺は再び集中するようにボスへと視線を向ける。

 それからボスは頭突きや噛み付きを頻繁に繰り返し、一つずつ見極めて受け流す。

 途中、再び≪火魔法≫の詠唱を始めたボス。

 先ほどよりも少し長い詠唱の後に放たれたのは、ロケット型の炎であり、それは弧を描くように俺たちではなく後方へと複数飛んでいく。

 トラッキングファイア。追尾魔法だ。滞在時間も長く、何かに当たるまで消えることはそうそうない。

 三つの炎がそれぞれコーダ、シュヴァルツ、アリアへと向かう。

 まず初めに一つ目の炎がコーダへ向かい、為す術なくそれを身に喰らう。俺と同じようにシンがレジストポーションを間に挟み込み、何とかギリギリで耐えることに成功していた。

 そして二つ目と三つ目がそれぞれシュヴァルツ、アリアに当たりそうになるのだが、そこで俺は二人のポテンシャルを垣間見てしまった。


「目には目を、火には火を!フレイムソード!!」


 シュヴァルツが炎に覆われた剣を掲げ、それを振ることでなんと炎を相殺してしまったのだ。そして得意げにドヤ顔をするあいつ。

 アリアはアリアで上空から炎が当たりそうになる寸でのところで、何かのスキルを放っていた。


「リアクトショット!」


 その攻撃はボス本体へと当たるのだが、同時にアリアは数メートル離れた後方へと跳躍していた。アリアに直撃しようとしていた炎は空振りに終わり、更に追尾しようと曲がろうとするが、距離が足りずにそのまま地面へと衝突するに終わっていた。


「何だよそれ、喰らったの俺だけじゃねぇか」

「ださっ」

「んだと!」


 いやいや、普通どうにか出来ないから。

 しかし、魔法もスキルによっては避けたり相殺することも出来るのか。あきらかに凄技だとは思うけど。特にそれをやってのけたシュヴァルツが意外過ぎる意外だ。


「すげーな、あいつら」


 俺には出来ない芸当であるが、まあそれはそれ。

 魔法を放った後ももちろんボスの攻撃は緩まない。次は俺たちの番だった。

 ボスの動きが少し変わる。これは、多分あれだ。何度も見た。

 息を吸いだす。どう見てもまたブレスだろう。

 ボスが息を吸いだした瞬間には俺は横へ動き出していた。正確に言うならば直前にだ。

 そしてブレスが吐き出される時にはその範囲から逃れることに成功する。


「よしっと」


 ついでに攻撃のチャンスでもあり、カウンターに続けて発勁と打ち込む。

 今回のブレスは黄と緑が合わさった二色であり、それを喰らったレインが毒と麻痺、両方の状態異常に掛かる。無論、即座にシンが回復するようにアイテムを投げていた。


「さっすが、タクトだな」

「むむっ、僕よりも目立つなよ!」

「私には今のが有り得ないと思うんだけど……」


 今回はたまたま上手く行っただけだ。それにここまで何度も喰らったからな。俺からすればようやく成功したって感じだ。なにせ、息を吸いだす予備動作からブレス攻撃まで一秒にも満たない時間だからだ。最もようやく観察して予備動作に次ぐ予備動作があるのを発見できたのだが。

 どのみち状態異常に掛かろうとも、シンがすぐに回復してくれるので、喰らったとしてもさして問題はないのかもしれない。

 だけどシンは最初から一番慌ただしく動いてるし、少しでも負担を軽くしたいのは当然の思いだろう。

 新たなボスの攻撃にもだんだんと慣れ、気付けばそのHPも二割へと到達する。

 ようやく最後のトリガー、レッドゾーンだ。

 二度目の脱皮を始めるボスを前に、俺たちは固唾を飲んで見守っていた。


キャラ紹介 シン

性別:男

身長:162cm

レベル:18

スタイル:アイテム使い

スキル:≪調薬≫≪生産≫≪器用さ増加≫≪運増加≫≪隠密≫≪投擲≫≪アイテムアップ≫≪鍛冶≫≪見識≫≪状態異常耐性≫


マイナースタイルの一つだが、フリスタ全体でも弱いという認識は決してない。ただ金が幾らでも消えていくことが問題であり、むしろロマンスタイルともいえる。

元は生産プレイヤーであり、始まりの街で延々とポーションを作っていたので、低級のものはストックは結構あったりする。レインがスカウトしたことによって、アイテム使いへと変貌してパーティーに加わった。使用した分の金額の内訳は彼らしか知ることはない。


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