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Carnival  作者: ハル
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マイナーパーティーの出会い

 王都の南門はそれなりに賑わっており、出入りするプレイヤーで溢れていた。

 数人ごとの塊があちこちにいるおかげで、この場は待ち合わせ場所としては明らかに不適切だ。まして相手の顔も名前も知らないとなれば、尚更だろう。


「このどっかにいるんだよな?その例の三人組パーティーとやらは」

「ぐぬぬ……。僕よりも目立つなんて許せないぞ。タクト、やはり僕らだけでボスに挑まないか!?」

「いやいや、ここまで来て何言ってんだ……」


 コーダとシュヴァルツにも連絡をつけ、俺たちは待ち合わせ場所にやってきたんだけども。

 シュヴァルツはどうやら、噂になるほどのことを成し遂げた彼らをすでにライバル視してるらしい。レベルもまだまだシュヴァルツのが上だし、情けないとは思わなくもない。が、これこそがシュヴァルツたるものなのは間違いなかった。

 というかあれほどのことを成し遂げたのなら、シュヴァルツ単体で考えれば相手にもならないのではないか。なんて口が裂けても言えない。


「お、約束時間前に来たんやな。偉い偉い」


 突如、背後から降りかかる声。

 そこには一時間前と違わぬ、怪しい姿の【情報屋】が立っていた。


「あんたが例の【情報屋】?なんか胡散臭そうだなぁ」


 さすがはコーダ。正直な感想に恐れ入る。本人は大して気にしちゃいないようだけどな。


「ハハッ、よく言われるわ。んじゃ、こっち来てな。あそこに三人がおるやろ」


 さして離れてもいない、南門の隠れた一角に、三人組のプレイヤーが憮然とした面持ちで立っていた。

 あれが、俺たちと同じマイナースタイルの三人なのか。

 【情報屋】に誘われるまま、俺たちはそこへと連れられ相立った。


「うんうん。互いに五分前には来るなんて、ワイは感激や。時間を守る人らは好きやで。今後もお得意様としてよろしくしたいくらいやな」

「……お前が一番時間にルーズそうに見えるけどな」


 それは、耳に通るとても透明な声音だった。

 綺麗な声。こんな声が歌を歌ったら、さぞ聞いてる側は心地が良いのは間違いないな。

 そんなことを頭の片隅に考えながら、声の主である男を見る。

 空色の髪を逆立たせており、眼光が鋭い。見た目からして威圧感を与える人物でもあった。年齢的にはきっと同年代なのだと思われる。

 装備も鎧を着込んでおり、背中に小さな盾を背負ってるのでタンク系のスタイルなんだろうか。

 俺が彼を見ている間、彼もまた俺のことを見ていた。まるで見定めるような視線で。


「言ったやろ。ワイのモットーは信用第一。こう見えても時間にはうるさいんやで」

「あんたのことなんて、どうでもいいの。話進めてくれない?」

「堪忍なぁ……。女の子からそんなん言われたら傷つくわぁ」


 ジロリと、これまたきつい視線を送るのは空色の髪の男の隣に立つ、この場では唯一の女の子だった。

 第一印象じゃライアよりも気が強そうだな。隣のコーダも同じことを思ってるのが分かって、なんとなく苦笑した。


「ま、時間も惜しいし、そんじゃお互いに自己紹介からしよか」


 後は若い者同士で。そんなニュアンスで【情報屋】は一歩後ろに下がって口を閉じていた。

 まあ【情報屋】のことは気にしても仕方ないよな。

 改めて男の方を見ると、その視線は自然と交わされる。

 睨まれている、とまでは思わないが、一部からは絶対に誤解されるような視線だ。

 真っ直ぐとその視線を俺は返し、男の切れ長の目を見ながらも名乗っていく。


「俺はタクト。歌使いのスタイルをしてる。マイナーだってのは……ここじゃどうでもいいか?」


 互いにマイナー同士なのはあらかじめ分かっているんだ。俺がそう言うと、男は軽く笑いながら、その雰囲気を和らげた。


「レインだ。盾剣使い。……よろしくな」


 認められたってことでいいんだろうか。手を差し伸べてくれたレインに、俺もまた手を出して交わした。

 なんだろう。めっちゃ嬉しい。気分が高揚している。それが素直な今の俺の気持ちだった。

 俺たちの後に続くようにコーダとシュヴァルツ含め、四人がそれぞれ名乗っていくのを聞きながら、俺はレインから視線を外さなかった。


「俺はコーダ。ミュージシャンのスタイルだ。よろしくな」

「僕はシュヴァルツ、【貴公子】と呼んでくれ!華麗なる魔法剣士でもある!」

「アリアよ。弩使い。私はよろしくするつもりはないわ」

「……シン。アイテム使い」


 それぞれが挨拶を交わして互いに顔を見合わせていた。

 若干一名、不穏な言葉が聞こえたのは気のせいではないんだろう。

 アリアと名乗った紅一点。

 茶髪のツインお団子ヘアだ。軽装で腰に弓、いや弩と言ってたか。ボウガンと似たような武器を差している。レインと同じく眼光は鋭く、どう見ても俺たちを歓迎しているようには見えない。

 そして残るもう一人のシン。

 レインがすでに硬派であまり喋らないのは察したが、それに輪をかけて口数が少なかった。

 どこか幼げに感じる少年で、断トツで背は一番低い。髪は黒のショートヘアだが、若干それはボサボサしている。二人とは反対に目はダルそうに垂れており、顔からはやる気が微塵にも感じられなかった。装備も白衣を着ており、どこか研究者風なものを匂わせている。

 アイテム使いって言ってたから回復担当なんだろうか?

 三人でボスを倒したって言うんだからそれなりに役割は出来ているはずだ。

 恐らくは盾剣使いのレインがタンク、弩使いのアリアがアタッカー、アイテム使いのシンがヒーラーなんだろう。もちろんそれ以外にも役割はこなしているかもしれないが。


「感動やなぁ。こうしてマイナースタイル同士が出会う場面ってのは」


 茶化すような声に一瞬イラっとしたのは俺だけではないだろう。

 まあ引き合わせた【情報屋】がいないと話も進まない。


「で、どうや?互いの目的はブローテン郊野のボスの討伐。目的も一致してるし、パーティー的な相性も悪くないと思うんやけど?」


 確かにそうだよな。俺たちは支援が二人にアタッカーが一人。相手が予想通りならバランス的には問題ないはずだ。彼らが俺たちを信じてくれるならの話でもあるけど。


「そうだな……。だが、肝心のタンクがそっちからは出せるのか?」

「タンク?あんたがそうなんじゃないのか?」

「はぁ!?アンタたち、ボスの情報何も知らないで来たわけ!?」


 俺たちを代表するようなコーダの疑問に、アリアは怒り心頭だ。

 しかしその言葉通り、俺たちはボスの情報は大して集めていなかった。これはもうプレイスタイルの違いとしか言えないが、初対面の相手とパーティーを組むならさすがに申し訳ないな。


「すまん、こいつの言うことは気にするな。件のボスはタンクが二人いないと攻略できない。そうじゃなきゃ俺たちはパーティーを探しはしない」

「ダブルタンクか……。その一人はレインが?」

「あぁ。だが、もう一人はアリアとシンには無理だ。そっちから出せないなら……」

「なら、俺がやるよ」


 正直、自信はないけどな。

 でもコーダとシュヴァルツにはもっと無理だ。なら、消去法でも俺しかいない。

 いや、俺別にタンクじゃないけどね?


「はぁ?アンタ、歌使いって言ったじゃん!支援スタイルでしょ?タンクなんて出来るわけないじゃない」

「これが、タクトなら出来ちゃうんだよなー!」

「コーダ、ハードル上げんな……」


 アリアの疑問は最もだし、多分俺自身が一番心配でもある。

 けど、やるっきゃないよな。これを逃したらいつパーティーに恵まれるかも分からないし。

 そして何より、俺はこいつと一緒に肩を並べて戦ってみたいと思ったんだ。

 レイン。同じマイナースタイルだという彼に予感にも似たような感覚が俺を襲う。

 きっと、こいつとは長い付き合いになるんじゃないかと。


「いいだろう。やってみないことには始まらないからな」


 どうやら彼らの決定権はレインにあるようだ。

 レインが頷けば、アリアは顔では不満を現しつつも何も言うことはなかった。

 シンに至ってはここまで無言。何を考えているのかも分からないようにボーっとしているくらいだった。


「なら、改めてよろしくな、レイン」

「こちらこそ、タクト」


 それは俺たちマイナースタイル同士のパーティーが結成された瞬間だった。


「カーッ!感動やわ、君ら!ワイの働き甲斐もあったってもんや!」

「そうか?」

「そんなつれないこと言わんといて。そんじゃまあ、ワイの仕事はここまで。あとは君らで頑張るんやぞ!」

「言われなくても分かってるわよ!」

「そんじゃ、最後に君らに選別や」


 茶化すような【情報屋】に俺たちは呆れる一方でもあった。けれど彼が徐に出したカードの神秘さに俺たちは揃って押し黙る。

 【情報屋】はその複数のカードから無造作に一枚を引き取り、それを俺たちに向けた。

 女性と見える天使のような姿が描かれた一枚のカード。


「正位置の世界。こりゃ、君らの戦いも安泰やな。安心して臨んでかまへんよ」


 【情報屋】――ジョーカーは、そう言って不敵に笑った。


キャラ紹介 ジョーカー

性別:男

身長:172cm

レベル:28

スタイル:情報屋

スキル:≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪認識阻害≫


【情報屋】の名として有名なプレイヤー。素顔、素性が一切謎に包まれており、ちゃんとしたジョーカーのことを知る人物は誰一人としていない。

けれど【情報屋】が持ってくる情報は正確無比で、それに頼るプレイヤーは攻略組も含めてかなりの人数に及ぶ。

お気に入りの相手には、カードを使ってタロット占いの未来を示すこともある。

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