新たな仲間と情報屋
「え?お前等のパーティー【ナルシー】がいるの??」
「歌使いってやっぱり弱いんだな」
「知ってるか?お前たち、一部で評判になってるんだよ。からかい半分で来ただけだって」
「さすがにこの構成じゃあなぁ……」
「なんだよ、トオルに会えると思ったのに」
「俺たちレベル30近いけど、それでもいいか?」
どれもが、この数時間で募集に引っ掛かってきたプレイヤーたちの言葉だった。
「そんな顔しないの。プレイヤーとして有名になることは嬉しいことじゃないの」
目の前で呑気な顔で二葉さんはそう言うが、その結果がこれなら俺は全力で遠慮したかった。
マイルームを手に入れ、本格的に海都を目指そうとした俺たちだったが、意外や意外、酒場へ出した募集への反応が今までより遥かに多かったのだ。
コーダからの情報によると、何でも俺という歌使いのスタイルのプレイヤー情報が掲示板に上げられていたらしい。
それを見てなのか、冷やかし半分に来るプレイヤーが多すぎなのだ。
おかげで俺のストレスは高まる一方だ。
歌使いが珍しくて悪かったな!
もちろん言われるのは俺だけじゃない。ミュージシャンスタイルのコーダもそうだし、一部で有名なシュヴァルツでさえそうだった。
……そう、なぜか俺たちのパーティーには、シュヴァルツが参加しているのだ。
深く考えることなかれ。
俺とコーダが海都へと行こうと動くのを見計らうかのように、シュヴァルツから連絡が入ったのだ。
――少年、まさかとは思うが、この僕を差し置いて海都へ向かおうだなんて思っていないよな?
――…………
――あ、いや……違うんだ。こんなことを言うつもりではなく、何というか……僕も一緒に海都へ連れっていってくれないか!?僕らは一蓮托生!そうだろう!?
とまあ、押しに圧され、ライアがいなくなったこともあってか、俺たちはシュヴァルツをパーティーに加えることになっていた。少しばかり同情があったのも否めない。
とはいえ、何だかんだで互いに呼び捨てにするくらいには俺たちの間も親交を深めていたりはするんだけども。
「しかし、どうするかな……」
冷やかし半分なら幾らでも来そうだが、肝心の海都へと行くメンツはやはり簡単に集まりそうもない。
レベル的には少し高い方なので、何も六人パーティーに拘る必要はないんだが、そもそもの前提に俺たちのスタイルに理解を示してくれることが大事なんだよな。
そういう意味じゃトオルさんたちやカインたちは、良すぎるほどの出会いだったんだろう。もちろん両者にも一応連絡したが、すでに海都へ到達済みであった。
エッジさんには断られているし、シャーナさんに至ってはフレンド登録していないから連絡のしようがない。最もライアがいない時点でお察しではある。
「何や兄さん、お困りかいな?」
途方に暮れるように酒場で一杯、もちろんノンアルコール、を呑んでいると、俺に向かって声が掛かってきた。
関西弁?という割には何か似非っぽいが。
キャスケット帽を目元まで深く被り、タートルネックニットに加え、口元が隠れるように灰色のマフラーを覆っている。
一見して素顔が分からない男だった。むしろ鼻先ぐらいしか分からない程度なのだが、なぜか男の目が光るように俺を射抜くのだけは分かった。
「……あんた、誰ですか?」
「おっと、堪忍な。ワイの名はジョーカーや。よろしくしてな、歌使いくん」
ピリッと俺たちの間に空気が流れた気がした。
そう思ったのは多分俺だけなんだろう。
少なくとも、俺はこの男を知らないが、男は俺を知ってるのは明白だ。
「……」
「ハハッ、そんな警戒せんといて。ワイはただ困ってるであろう君に情報を持ってきただけや」
「情報……?」
「そうや。ワイは【情報屋】としてそれなりに有名でな。ベータ組である身としては、正式組の君の力になりたいねん」
【情報屋】……有名なプレイヤーなのだろうか。
とりあえず怪しさしかないんだが。
「おっと、今ワイのこと怪しいと思ったろ?安心せい、ワイのモットーは信用第一。この身は清廉潔白やで」
「……なら、帽子とマフラー取ってもらってもいいですか?」
「えぇ……!ワイの素顔がそんなに気になるんかい?けど、残念。そこに至るにはワイのお得意様になってもらわんとな」
「じゃあいいです」
話にならない。というか絶対半分以上遊ばれている気がする。
飲みかけのグラスを空にして、俺は立ち上がって歩き出した。もちろんその方向は酒場の外だ。
「ちょい待ち待ち!君、ブローテン郊野のボスを倒すパーティー探してるんやろ!?」
その言葉に俺は足を止める。
なんで、そんなことを知っているのか。ただのプレイヤーの目的まで把握してるのが【情報屋】だとでも?
ますます胡散臭そうにもう一度だけジョーカーと名乗った【情報屋】の顔を見た。
最もやはりその素顔は鼻先しか分からない。
シャープな鼻だな。……どうでもいいだろ。
「今日一日酒場に募集出してるやろ?そんな三人パーティーの君らにおススメしたい三人パーティーがおるんや」
「三人パーティー……?」
なんだろう。デジャブを感じる、というかアレンさんにカインたちを紹介してもらった時と似ている。
俺が少し興味を持ったのをいいことに、【情報屋】の目はさらに光った。
「そうや。マイナースタイルと呼ばれる歌使い、ミュージシャンに加え、あの【ナルシー】を取り込んだ君らと、同じくマイナースタイルの三人組。そいつらもブローテン郊野のボスを倒すためにパーティーを探しているんや。気が合うと思うんやけど?」
騙されるかのように、確かに俺はその言葉に興味を持ったし、耳を傾けていた。俺たちを知っていることなどどうでもよく、同じマイナースタイル三人組というのが本当ならば。
「けど、今日何度も酒場の募集を見たけど、俺たちと同様な募集はなかったはず。それに同じ目的なら俺の募集を見て連絡してきてもいいはずだ。それをしないってことは……その人たちは俺たちとパーティーを組みたくないんじゃないか?」
同じマイナースタイルとはいえ、仮に彼らが俺と同じ支援スタイルならさすがにボスどころの話じゃない。
「あぁ、それなら安心せい。そいつらは大の酒場嫌いでな。基本的には三人の固定パーティーなんやけど、今回のボスに至ってはそれが無理そうだから地味にパーティーを探してるんや。だけど酒場は使いたくないってんで、難航してるみたいやから君らを互いに紹介したいんや」
「酒場嫌い……?それに固定パーティーって」
「噂聞かへん?レベル9の三人だけで街道のオークを倒したって話」
「は?三人だけで?レベル9で!?」
そんなの可能なのか?
俺たちもレベルはもう少し高かったとはいえ、三人で挑みはしたが……。まあ確かに思ったよりはいけたし対策をして、スタイルがちゃんとしていれば或いは……。けど俺たちと同じマイナースタイルって言ってたし、それってつまり普通に物凄いことだよな。
「ま、つい最近のことやから、まだそんなに広まってはいないんやけどね。レベルも君らよりは低いだろうし」
てことはスタートが少し遅かったのか?それでも凄いことには変わりない。
パーティー云々は置いておくとして、純粋にその三人に興味が湧いた。
同時にそんな話を出した目の前の男にも不信感が募りはしたが。
「ハハハ、そんなにワイのこと信用ないんか?」
「信用も何も、いきなり現れてこんなこと言われてもな……」
「まあまあ。騙されたと思って会うだけ会ってみいひん?」
気軽にそう言い放つ【情報屋】にもう俺は何も言わなかった。
この人が胡散臭いどうのよりも、純粋にその三人に会ってみたいという想いが強かったからだ。
「分かりました。本当に紹介してくれるっていうんなら……」
「なら決定やな!ほんなら一時間後に王都の南門に集合な。互いに紹介やから三人揃って来るんやぞ」
「一時間後……分かりました」
コーダもシュヴァルツもログインしてるので問題はないだろう。時間も場所も勝手に決められたが、無理な範囲じゃないから問題はない。
にしても、なぜか面白そうにニヤニヤと笑う【情報屋】の方が気になった。
「ワイの注目株の二人が組んだら、はてさて、何が起こるんか楽しみやなぁ」
「注目株?……俺が?」
「そりゃそうや。マイナースタイルを貫くその姿勢。ワイはめっちゃ好感持ってるんやで。もう一人もそう。是非とも仲良くなってもらいたいんや」
その心は、きっと単純に面白そうだと考えているんだろう。
なぜかそれだけはハッキリと伝わってきた。
キャラ紹介 二葉
性別:女
身長:173cm
システムNPCの一人で酒場担当。長身且つグラマラスな体型をしており、自分を魅せることを理解している。ウブな冒険者をからかうことが何よりも大好きな悪戯好きな一面がある。
全ての都に酒場があり、当然彼女も全ての酒場に二十四時間滞在している。一番忙しく、冒険者と頻繁に出会うのも彼女だけ。




