マイルームと少女
一見すると、それは小さなあばら家のようだった。
というか、どう見てもそうとしか見えない。
居住エリアの中に建てられる逆の意味で目立つ建物。周囲には一般的な家屋が並んでいるというのに、この建物だけが異質に見える。
「本当にここに担当者がいるのか……?」
「二葉さんが言ってたんだ!間違いなんてあるわけ……ない、よな……?」
隣に並ぶコーダも同じように訝しげに見ているだけだった。
酒場でクエストの報告をした後、店主の二葉さんからここでマイルームが手に入ると教えられて来たのだ。
なのに辿り着いた場所がこんなボロボロの家だなんて。
場所は間違っているわけではない。何度も確認した。
「まあ、入って見るっきゃないだろ」
「そうだな……」
些か不安は拭えないが。
けどここでジッとしてるわけにもいかないもんな。
意を決して俺たちは扉を開く。
すると、唐突にに扉の奥から眩いほどの光が溢れ出す。
「なっ!?」
反射的に目を閉じて腕で顔を隠すように俯いた。
しかし僅か一瞬でその光は消え、恐る恐ると目を開いていく。
その視界に映るものは……
「……は?」
煌びやかに輝く明るいシャンデリア。磨かれた銀色の甲冑の飾り。美しいと言わざるを得ない絵画の数々。床にひしめく豪華な赤いカーペット。何よりも見渡すほどに広い部屋、といよりも建物だ。二つの螺旋階段に奥へと続くと思われる扉の数々。
どう見ても、西洋を思わせる城でしかない。
開いた口が塞がらないように、呆然と辺りを見回していた。
ボロっちいあばら家、だったよな?
「何を呆けておる。そんなアホ面の冒険者もなかなかいないぞ」
唐突に降りかかる声。いったい誰だ。
声は正面の奥からだった。よくよく見れば、そこには玉座とも言うべきものがあり、そこに足を組んで優雅に佇む少女がいた。
そして今気づいたが、隣にいるはずのコーダの姿が見えなかった。
「コーダ……?おい、コーダ!?」
あばら家の中が城だったことだけで頭が追い付かないというのに、ここに来てコーダがいないとなると、俺の頭はもうパニックでしかない。
そんな俺の姿を嘲笑うように、面白がった少女の声が再び聞こえてくる。
「安心せい、お主の仲間は別の妾が担当している」
は?別の妾?
いったい何を言ってるんだ。
よく分からないまま、声の主に近づくべく歩き出す。
「君はいったい……。それにここは……」
「妾の名は六実。ここは妾の部屋。お主らで言うとこのマイルームじゃ」
素直に返事が返ってきたことには僅かに驚いた。
そして少女の姿をよく見た時にはもっと驚いた。
姿は小学低学年ぐらいの少女でありながら、その服装はまるで姫を思わせるものだった。マイルームとは言ったが、まさにここは彼女の城なのではないだろうか。
そして、何よりも彼女の顔が、二人のNPCを思わせたからだ。
「まさか君は……」
「そうじゃ。妾は一姉と二姉の妹にあたる。所謂システムNPCじゃ」
どこか誇らしげに見えるその姿は年相応にも見えるんだがな。
しかしそうか。一姉と二姉というのは一花さんと二葉さんのことで間違いないだろう。そして目の前の六実と名乗った少女もまた、二人と同じシステムNPCの一人ということか。
何せ顔がみんなそっくりだもんな。それなのに服装や話し方で雰囲気がガラッと変わるんだから大したもんである。
「えっと、つまりコーダはここじゃない、別の君と一緒にいるってこと?」
「うむ。ここはパーソナルスペースであり、お主以外誰も入ることは出来ない。して、そんなことよりも妾に用があったのではないか?」
「あぁ……うん。えっと、マイルームが欲しくてここを二葉さんに教えてもらったんだけど、ここでいいんだよな?」
「左様じゃ。妾はマイルームやギルドホームを担当しておる。お主の希望はマイルームじゃな。どれどれ……うむ、資格は満たしておるようじゃな」
何かの書面を確認するように六実……さんと呼べばいいのか?ともかく、彼女はいきなりそれに判を押して渡してきた。
「それがマイルーム入室証じゃ。それを持ってれば、居住エリアにあるポータルを潜ればお主だけのマイルームへと行けるはずじゃ。ちなみに失くしたら再発行に手数料掛かるから気を付けるんじゃな。さあ用は終わりじゃな?帰った帰った、妾はこう見えて忙しいんじゃ」
「え?それだけ……?」
「何じゃ?他に何がある?あぁ、一つ付け加えるならマイルームの拡張には妾への上納金が必要じゃからな。次の話はそれからだ。後は冒険者なら冒険者らしく、情報を自分で集めるんじゃな」
「ちょっ、六実さん!?」
「六実さん、じゃと!?妾を呼ぶときは六実様じゃ!それ以外には反応せん!出直して参れ!!」
えぇ……。
何と言っていいのか。よく分からないまま、俺の視界はここへ来た時と逆に暗転し、そしてその後には、最初にいたあばら家の前に立っていた。
「何だったんだ……」
夢だったと言われても否定出来ないくらいの時間だったともいえよう。
けれど手には確かにマイルーム入室証とやらを握りしめていた。
……なんつーか、二人よりもすげー濃い人だったな……六実様。
「タクト……お前も戻って来たか……」
「コーダ?」
背後からはげんなりとした顔のコーダが声を掛けてきた。
こいつもまた、俺と同じように手にはマイルーム入室証を持っていた。
ひとまず俺と同じ気持ちになったであろうことは理解できた。むしろ俺以上か。
「何がシステムNPCだ。俺は二葉さん以外認めねぇ!」
「……そうかよ」
まあ今出会った彼女に思う事があるのは同意だけども。
ひとまずは、マイルームを手に入れたってことでいいんだよな?
マイルームは文字通り、何もない部屋だった。
六畳一間のワンルーム。家具も何もなし。これじゃ寛げる空間と呼ぶには早すぎるよな。
拡張にしろ、家具の配置にしろ、結局は先立つものは金なのだということを思い知った気がする。
真核が売れたら、とりあえず最低限の家具を揃えるところからだな…….
とりあえず目的は達成したってことで、今日は自分のステータスを確認して落ちるか。
レベル:17
HP 260/260
MP 710/710
STR 17
INT 17
DEX 17
VIT 17
MND 17
AGI 57+10
LUK 17
CHM 102+17
BP:0
≪歌Lv22≫≪声量Lv24≫≪魅力増加Lv17≫≪体術Lv17≫≪音楽Lv23≫≪瞑想Lv15≫≪祝福の賛歌≫≪柔術Lv13≫≪下剋上Lv3≫≪シンクロ・舞曲Lv6≫
SP:8
こんな感じだな。
全体的に上がっているが、やっぱり≪下剋上≫と≪シンクロ・舞曲≫はなかなか上がり辛い。戦闘で少しずつ上がるとはいえ、やっぱり対応した行動を取らないといけないからな。
それに≪シンクロ・舞曲≫は他のスキルよりも上がりにくい感じがする。まあこれに関してはコーダたちとパーティーを組んでいれば、自ずと上がっていくだろ。
思いの外上がったのはやっぱ、≪柔術≫だよな。ほとんど受け流しをしてたんだから当たり前っちゃ当たり前だが。
Lv13になったことで新しいスキルを二つ覚えてるんだが……どうにもなぁ。
――心の構え ≪柔術≫スキル
精神にゆとりを持ち、心を集中させる。消費MP0
――受け身 ≪柔術≫スキル
即座に態勢を整えて、ダメージを和らげる。小カット。消費MP1
使い続けることにより、半パッシブ化となる。
正直どっちも微妙なんだよな。
心の構えなんて何回か発動させても、ぶっちゃけ何の変化もなかったし。いったい何のスキルなんだと思っている。隠れた効果があるのか果たして……まあLv5で覚えるからあまり意味はないんだろう。
受け身もダメージを喰らう前提だし、ただでさえHPの低く柔い俺がダメージをカットさせたとしても、雀の涙だ。まあ慣れていくまでは一応使っていくつもりではある。
どのみち受け流しに関してはこれから先も世話になるに違いないので、≪柔術≫自体はやはり俺にとって神スキルでしかない。
スキルはこれで十個揃いはしたが、SPは少し余裕もあるし、幾つかサブとして取るのもありだ。一つだけ取ろうと決めているスキルがあるが、それを取るのは海都に着いてからだな。
後は≪歌≫の効果を引き上げるなにか、もしくは関連したものがあればいいんだが……。おいおいと考えていくしかない。
まずは次の目的である海都への到達だ。
ライアが抜けてコーダと二人。レベル的には問題ないから、あとはパーティーメンバーを探すだけだろう。
……頑張るしかないな。
キャラ紹介 六実
性別:女
身長:121cm
システムNPCの一人でホーム担当。少女の外見ながらも、口調は年寄りくさい。
彼女がいる城はマイホームの一つであり、その可能性を示唆しているものである。メイドや執事も存在しており、彼らからは当然のように六実様と呼ばれていた。




