ひとときの別れ
地下水路のボスを倒した俺たちはその場で歓喜の声を上げていた。
生憎と俺はユニークスキルの反動で強制的に沈黙状態だったのだが。それでも心の中ではみんなと同様に声を上げている。
いろいろと問題点も多いが、今度こそ犠牲もなしにボスを倒せたことは俺の中ではとても大きなことだったから。
最後の≪祝福の賛歌≫についていろんな質問攻めにあいながらも、出来る限りの範囲で答えていれば沈黙の解除もすぐだ。
最も、三人ともそんなに踏み込んだことを聞いてくる人ではない。シュヴァルツさんでさえそわそわしつつも、それよりも自分がこれまでにないダメージを叩き出していたことに喜んでいるようだった。
「やったな、タクト!」
「あぁ!コーダにライアもお疲れ」
「う、うん……」
最初にこのクエストを受けた俺たち三人は互いに労い合う。
けれど、どう考えても喜ぶ場面なのに、なぜかライアの笑顔には翳りがあった。
途中から確かに様子がおかしかったよな。何かあるんだろうか。
尋ねるべきか迷うも、その前にシュヴァルツさんからの問いかけが発生する。
「それで、このドロップ分配はどうするんだ?」
ボスのドロップ品は全てレアアイテム扱いだ。サイコロ方式にしてあるので、欲しい人で回せばいいんじゃないか。
そう考えてドロップ品を確認すると、一つのものに目が止まる。
「ゴーストの真核……。まさかこんなレアが出るなんてな……」
ダンジョンボスが低確率で落とすアイテムに、名前を冠した核というアイテムがある。
いろんな用途に使え、主に生産の素材やクエストに使う。一日に討伐出来る上限もあり、それなりの値段が付くのだが、さらに極めて低い確率で、核の十個分となる真核というアイテムがあるのだ。
まさかそんな代物を偶然にも落とすなんてな。聞いた話じゃそれを狙おうとギルド単位で動いても、何日かかるか分からないと言ってたぐらいなのに。
これがビギナーズラックなのか、はたまた逆物欲センサーなのか……。
「これめっちゃ高値で売れるんだろ!?俺たち一気に金持ちになるんじゃね!?」
「そうだな。ボスにも当たり外れはあるが、まあ安いことはないだろう。一人数万Gにはなるだろうな」
核ともなれば、サイコロでは決められない。一番アイテムの相場に詳しい生産プレイヤーであるエッジさんが分析すると、俺たちは俄に盛り上がった。
ここまでコツコツ貯めても、俺の所持金はようやく一万Gに届くところだ。それもトオルさんたちと共にした鉱山ダンジョンでもグレイターバットの核を落としていたからに他ならない。
それが一気に数倍にも上がるんだからそりゃテンション上がるだろって。
「どうする?みんなが良けりゃ俺が預かるよ。多分ギルドの誰かが欲しがるだろ」
「ホントですか!?」
エッジさん自らの提案は願ってもない話だ。誰も異論があるはずもない。
さすがにそんな高価なものをいきなりマーケットにも出したくないしな。
一番重大なこともすんなり決め、他の素材も順当にみんなでサイコロを振ってすぐに終わった。
さて、後は帰ってクエストの報告に行くだけだ。
ボスが倒れた場には転移陣も出てるし、外まではすぐだろう。
結局タイミングも計れず、ライアに声を掛けることは出来なかった。
暗くてジメジメした地下水路と比べれば、外の光は眩しく、そしてとても気持ちがいいものだった。誰もが光を浴びようと伸びをしながら、寛いだ顔を見せるほどに。
「それじゃあみなさん、今日は本当にありがとうございました」
そして今回のパーティーはここまで。
無事に目的達成も出来たし、気持ちも晴れやかだ。
エッジさん、シャーナさん、そしてシュヴァルツさんにもきちんと向き合って礼を述べる。
何だかんだで、三人には本当に助けてもらった。彼らがいなければ、ボスの討伐もダンジョンの進行も難しかったのだから。
エッジさんとはこの先も付き合いはあるだろうけど、シャーナさんとシュヴァルツさんはどうなるか分からないしな。シュヴァルツさんはともかく、シャーナさんなんて男とパーティーを組むことさえ大変だっただろうに。
まあ初めよりかは幾分打ち解けられたとは思っているけど……。
「こちらこそ、ありがとうございました……!ライアちゃんも、誘ってくれてありがとう!ほんの少しだけ男の人にも慣れた気がするし……」
恥ずかしそうにうつむいてそう言う彼女だったが、少しずつ後ろに歩幅がずれていることには気付いているのか。まあ前途多難ではありそうか……。
コーダがその言葉に食いつけば、早速ライアの後ろに隠れようとしてるし。
「この僕がいたんだ。初めから成功するのは決まっていたことだよ!【貴公子】と呼ばれたこの僕と出会えた幸運に感謝するがいい、少年!」
「ハハッ……そうですね。これでも本当に感謝してますよ」
こっちもブレない人であったが、俺の言葉も嘘ではない。本性を少し知れたからこそ、そう思えるんだろうか。
礼を言われ慣れてないのか、少しドギマギしてるしな。知れば知るほど、面白味がある人だよな。そう思う俺はきっと変わってるんだろうけど。
「エッジさんもありがとうございました。やっぱり俺の見立ては間違ってなかったですね」
「いやいや、俺なんかよりタクトのがよっぽど凄かったからな?俺はアシストで精一杯だよ。それにやっぱ料理をしてる方が性に合ってる」
そのアシストがいい意味でヤバすぎたんですけどね。
どことなく兄貴と同じ匂いを感じたぐらいだし。
でもまあ、確かにエッジさんは戦闘よりも料理の方が似合っている。次にご馳走になるのが楽しみなくらいだ。
最も不吉な言葉は残していくが……。
「地下水路のモンスターの素材も結構集まったしな。ヤツを調理したらどんな料理が出来上がるのか……楽しみだ」
俺もそれはちょっと遠慮したい。そんな前衛的な調理人なんてフリスタじゃエッジさんくらいだろうに……。
その言葉に他のみんなも冷や汗を垂らしていたくらいだから。
何はともあれ、最後にみんなで挨拶を交わして俺たちは別れを告げた。
余談だが、シュヴァルツさんからはしつこいくらいにフレンド申請をされ、シャーナさんからは断られた。もちろん男全員。
「んじゃ、俺たちも行くか」
コーダとライアを含めて残った俺たち三人だったが、ひとまずの行き先は同じだ。
クエストの報告をして、そのままマイルームを手に入れにいく。
三人で歩きながら、今日の反省点を出したり談笑しながらも、楽しい時間は過ぎていく。
けれどそれも一瞬で、何かを決心したようにライアが立ち止まって真剣な面持ちをしていた。
「ライア?」
やっぱり様子が変だ。
何かを思うようにライアが口を開く。
「マイルームを手に入れたら、次の目的は海都まで行くことだったわよね?」
「そーだな。つってもブローテン郊野のボスはゴーストよりもレベル低いって話だぜ。さすがに次も行けるだろ。ま、またパーティーが集まるかは分かんねぇけどな」
「いや、笑いごとじゃねぇって」
むしろそこが俺たちにとって一番の鬼門だろうが。
楽観的というか、コーダは相変わらずだ。
「うん……。それなんだけど、勝手で悪いけど私次は一人で行くことにするわ」
「は?」
「えっ?」
突然のライアの言葉に、俺とコーダは揃って目を向けた。
冗談、じゃないよな。
それならそんな思いつめたような顔をしてるわけがない。
俺たちはすでに海都まで一緒に行こうって約束している。そもそも地下水路のボスに拘らなければすでに辿り着いてもおかしくはないくらいだ。正式組のほとんども海都に辿りているくらいだから。
もちろんだからってそれが絶対なわけでもないけど。
まさかライアがそんなことを言うなんて。ってのが俺の本心だ。
「いろいろ考えてたの。私たちは同じ支援スタイルだけど、タクトは前に出てタンクみたいに動けるし、コーダは私たちよりも首抜けてダメージが大きいでしょ。それに比べて私が出来ることって何なんだろうって」
「ライア……」
「支援も三人いたら分担するし、中途半端じゃない?回復出来るって言ってもアイテムで補える範囲。短剣での攻撃だって弱いし、エッジさんと比べても私のダメージなんて低すぎだったわ。それじゃあ≪シンクロ・舞曲≫のため?それも違うわよね」
あぁ、そうか。
ライアの言いたいことがようやく分かってきた。
それは俺が初めに感じていたものと同じだ。
「私が私であるためのもの。それを掴めるまで、二人とは一緒にいられない。それが私が出した結論なの」
「けどよ、そんなの俺たちが気にするわけないだろ」
「分かってるわよ、そんなの。でも私が自分で許せないの。パーティーだって二人がいる時以外で組んだこともないの。いつまでも甘えるわけにはいかないわ」
「……分かった」
「タクト!?」
コーダは能天気だからな。あんまりライアの言葉にピンと来ないんだろう。
俺はライアの気持ちを尊重したい。そうするべきだと思った。
「分かってやれよ。それにみつけられたら、戻ってくるんだろ?」
「当たり前でしょ。私たちは運命共同体なんだから」
「……何だよ、二人だけで分かっちゃって。ま、いいけどさ。そんならライアが戻った時を楽しみにするか!」
ったく、こいつは。
コーダのそんな性格に救われるように、俺たちは笑いあった。
そしてライアは一人去っていく。
きっと再会する頃には、見違えて強くなってるんだろう。
そう願って――
ボス情報 嘆きのゴースト
レベル:23
種族:アンデッド
属性:闇
スキル:≪舌≫≪体当たり≫≪猛攻≫≪剣術・片手≫≪片手剣≫≪バースト≫≪幽体≫≪浮遊≫≪変化≫
その昔、地下水路に迷い込み野垂れ死んだ武者の成れの果て。一人寂しい男は仲間が欲しいために、今日も地下水路に降り立つ冒険者の前に姿を現す。
稀な移動型のボスであり、四つの部屋を一定周期で移動している。無属性耐性など初見殺しが多いが、対策をしっかりしていけば、適正レベルなら苦も無く倒せる相手である。
しかし地下水路の場所や移動型の理由から、最も人気のないボスのひとつ。




