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Carnival  作者: ハル
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停滞と勝機

 二つ目の北のボス部屋は大正解だった。

 ボス部屋に入った途端に部屋の明るさが弱まり、ただでさえ薄暗い場所がもっと暗く成り果てる。

 そして吹き抜ける冷たい風。無意識に悪寒を感じていた。


「不気味だな……」

「地下水路のボスよね……。また虫とかじゃなきゃいいけど」


 みんなが固唾を呑んで見守っていると、次第にボスの姿が薄らと現れる。

 フラリ、フラリと周囲を軽やかに飛び回って、やがて俺たちの前に降り立った。


「ば、ばばば、馬鹿な……!」

「まじか」

「虫よりは……平気かな」

「わ、私は……無理、かも……」

「まあ予想外っちゃ予想外だな」


 俺以外のみんながボスの姿にそれぞれ一言放った。

 さすがに俺も驚いたし、まさか地下水路でこんなモンスターが出てくるなんてな。


「……幽霊、だよな」


 宙に浮く白い布を被ったような塊。身体は透けていて、目や口はしっかりとあるが不気味な様相だ。口からは大きな舌を出してブラブラと揺らしている。姿は大きく、俺たちの何倍もの姿だ。


「ライア、頼む」


 ≪見識≫スキルを持つライアにボスの情報を共有させるように頼む。まあ名前からしてもうある程度は分かりきっていたが。


「えっと……嘆きのゴースト。レベル23、アンデッド種族の闇属性ね」


 ま、そうだろうな。

 にしても幽霊とか。俺は別に平気だけど、コックローチ同様にシュヴァルツさんとシャーナさんの顔は若干青ざめている。大丈夫なのか。


「で、どう戦うんだ?とりあえずタクトとエッジさんのダブルタンクで行くか?」


 これはあらかじめ決めていたことだ。パーティー内で少なくともタンクとしてボスを引き付けられる俺とエッジさんが主にボスの前で相手をする。もちろんメインは受け流しがある俺が引き受けるつもりだが、ボスの行動が分からない以上保険が必要だからこそエッジさんにもお願いしている。最悪一番レベルの高いシュヴァルツさんにも引き受けてもらうことになるだろう。

 そういう意味じゃ、トリプルタンクというか、むしろタンクという存在は俺たちの間にはなかった。


「そうだな。とりあえずそれで行こう。ボスの攻撃次第でもあるけどな。もうやってみるしかないだろ」

「そうよね。それじゃあ支援かけて行きましょうか」


 ライアの合図に俺たちは行動を開始する。


「魅力の踊り!ステップダンス!」

「戦意のパッション!」

「守りの歌!魔攻の歌!精神の歌!」


 シンクロさせながら、支援を掛けていく。現状では覚えているスキルにもバラつきがあり、使用する数にも差があった。

 俺たちは改めて自分たちのスキルについて公開して話し合うと、実はコーダの戦意のパッションが、STRの上がる基本値が一番高いのが分かった。その分一発の消費MPは俺の≪歌≫よりも高い。逆にライアには新しく高揚の踊りを覚えたのだが、これはSTRとINTを二つ上げれるのだが、基本値としては俺の≪歌≫よりも低く最初としては出番はないと見ている。戦闘状況によってはどうなるかも分からないが、一つのスキルで二つのステータスが上がるのは便利なのは間違いない。


「それじゃあ、行こう!」


 俺は駆けだして、浮かぶゴーストに向かい発勁、そして強パンチ、強キックを叩き込む。

 ボスは浮いていると言っても僅かの距離だけなので、攻撃が届かないということはない。俺の攻撃は三発とも当たるのだが……。


「なんだこれ……」


 当たった感触がしなかった。どこかすかした音が鳴り、俺の拳は不完全燃焼気味に持て余していた。

 ダメージは僅かだが入っている。もともと僅かなダメージであるが、それを更に極限に減らした蚊ほどのダメージだ。

 当のゴーストはのほほんと嘲笑うかのように浮かび上がり、特徴的ともいえる舌を震わせて動かす。

 あ、これは攻撃だな。

 瞬間的に悟って受け流しを発動しつつ、ゴーストの舌は俺を舐めるように動かしてきた。


「気持ち悪……」


 ダメージはなかったが、舐められた感触だけは残った。

 反撃とばかりに何発か叩き込むものの、やっぱり感触はさっきと同じだ。


「大丈夫か、タクト!」


 手応えのなさにエッジさんも隣に並んで攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃でもボスへのダメージはほんの僅かでしかなかった。


「まじかよ……」


 俺だけじゃない。エッジさんの攻撃も大して効いていない。

 単純に考えられるのは、やっぱりボスの特性か。アンデッド種族、もしくはゴーストという特殊性か。


「ならば、僕がやろう!……幽霊なんて、僕は信じていないからな!!……クイックアタック、二連撃!……フレイムランス!!」


 シュヴァルツさんがお得意のコンボを叩き込み、そして≪火魔法≫を放つ。最初に見たこの優雅な流れは、絶対に独自で練習したと俺は睨んでいる。

 そんな一連の動作に俺たちは注目していたが、明らかな事実が浮き彫りになった。


「嘘でしょ!?シュヴァルツさんの剣より魔法のがダメージが高いわよ!?」


 そうだ。ここまで散々馬鹿にされてきた彼の魔法が≪剣術・片手≫よりも大きなダメージを出していたのだ。正確に言うならば、≪火魔法≫のダメージ自体はここまでのモンスターへのダメージと変わっていない。むしろ≪剣術・片手≫のダメージが著しく落ちているのだ。


「つまり、これって物理耐性ってことか?魔法しか効かないってこと!?」


 そう考えたコーダの意見に、俺たちは揃って絶望した。

 なにせこのパーティーで魔法攻撃が出来るのはシュヴァルツさんだけなのだ。しかも客観的に見て弱すぎる魔法だ。


「おいおい、こりゃ詰みか……?」


 そんなの長期戦に次ぐ長期戦でしかない。まず確実にMPが持たないだろう。


「どうすんの、これ!」


 ひとまず攻撃は続けるものの、有効打は得られない。まさかこんなボスだったとはな。

 意外も意外だ。ここまで来たのならどうしようもないが、かと言って簡単にあきらめるわけにもいかないだろう。

 ボスは飄々としながらも、ちょこちょことおちょくるように攻撃をしてくるし。


「とりあえず、攻撃し続けるしかないだろ」

「状態異常はどう?はぐれオークの時みたいに毒でも効けば……」

「やってみる価値はあるな!」


 ライアの提案に同じ≪剣術・短剣≫を持つエッジさんが真っ先に頷く。

 それに合わせて、シャーナさんが≪弱体魔法≫も掛けていき、二人同時にヴァイパーファングを放った。


「……まあ、そう簡単には掛からないよな」


 何度か仕掛けるものの、ゴーストは毒にはならない。それでも諦めずに二人は仕掛けていく。はぐれオークだって耐性は高かったのかそう簡単に毒にはならなかったしな。というか、仮にもボスなんだから、そうそう状態異常になんて掛かりはしないんだろう。


「状態異常ね……なら、俺もやるぜ!……情熱のマーチ!哀愁のエレジー!」


 コーダも同じように≪演奏≫スキルを仕掛ける。属性攻撃であるそれには、状態異常も低確率ながら含まれる。それに賭けての攻撃だった。

 だが、それが勝機に繋がるとは誰も思わなかっただろう。


「待った!コーダの攻撃がかなり効いてる!!」


 かなり、と言うと語弊があるかもしれないが、それでも確かにその攻撃は今までの誰よりも大きかった。もちろんシュヴァルツさんの魔法よりもだ。

 コーダの≪演奏≫は属性攻撃ながらも物理扱いである。それでいて、ダメージが大きかった。その意味は、もう一つしかない。


「あぁ。なるほどな……」

「物理耐性ではなく……無属性耐性というわけだな」


 物理と魔法、そして属性。ややこしいがそれは全て異なるものだ。

 通常、全ての通常攻撃は属性としては無属性にあたる。だから俺たちの攻撃が大して効かず、シュヴァルツさんの≪火魔法≫が普通にダメージが通り、それ以上にコーダの≪演奏≫スキルの属性ダメージが高いダメージを通ったのだ。

 つまりはこのゴーストに対しては、属性ダメージで攻めろってことか。

 それが分かったとしても、結局属性ダメージを与えられるのはシュヴァルツさんに続き、コーダだけしかいない。それだけじゃ何も変わりはしないだろう。

 そう思うのは当たり前だったが、ここで不敵に笑う人物がいた。


「なるほどな。ここでも僕の出番というわけだ!」


 不安でしかない言葉だけどな。


「僕が≪火魔法≫のスキルを上げていたことに感謝するんだな……!」

「そっか……それなら……」


 情報をあまり仕入れない俺には果たして何の意味か分からなかったが、その一言にみんなは理解したようだった。


「エンチャント!」


 赤いモヤを発しながら、シュヴァルツさんの武器が赤く光るようになった。

 これは、いったい……。


「エンチャントという魔法スキルだ。武器、もしくは防具に対応の属性を与える。つまり、今彼の武器には火属性が宿ってるってことだ」


 詳しい説明がエッジさんの口から放たれる。

 なるほど!確かにそれなら、問題ないはずだ。現に調子に乗ったシュヴァルツさんの攻撃はダメージが通るようになったのだから。

 まあその前に俺たちにも掛けて欲しいんだけどな……。


「すみません……。私が≪光魔法≫を取ってないばかりに……」


 見かねたシャーナさんが謝罪する。シュヴァルツさん一人では全員にエンチャントが回るのも時間が掛かる。それにヒーラーであるシャーナさんは≪光魔法≫を持っていてもおかしくはなかったが、彼女はそれがなかった。それに対して少しだけ負い目があるんだろう。

 最も、そんなことを気にするやつは俺たちの中にはいないはずだ。

 それ以上に彼女の≪弱体魔法≫と≪索敵≫には助けられてもいたし。確かに≪光魔法≫のエンチャントがあれば弱点も点けるのだから最善だったかもしれないが、それがないのなら考えるのも無駄なのだから。


ダンジョン紹介 バランタイン地下水路


昔はきちんと整備されていた地下水路は、年月が経つにつれ、魔物が徘徊するようになっていた。気付いた時には時遅し。繁殖が進む前に、冒険者は今日も駆除に勤しむこととなる。

ワンフロアのマップだが、範囲はとても広く、出入口は王都の中に七カ所ある。


出現モンスター:コックローチ、ヒュージマウス、トゥースバット、ポイズンマッシュ、【BOSS】嘆きのゴースト


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