不発と安定
残念ながら東のボス部屋はもぬけの殻だった。何もなかったので、次は北を目指すことにする。
近くのレストエリアで一度完全に回復してから、改めてダンジョンの捜索を開始する俺たち。
ここまででもそれなりに時間が掛かったというのに、これで北ともう一つもダメだとしたら、それはもう確かにかなりの時間を浪費するだけだ。
次で当たりますように、と全員が願いながらも進んでいく。
シュヴァルツさんの≪魔法剣≫の威力は絶大であるものの、結局燃費の悪さから軽々しい使用は控えるようになった。本人にもそれについては自覚があるらしく、仕方ないと言いつつも、そうは見えずに今度は魔法スキルを連発する姿が目に入るわけだけども。
そして本当にこの人はアホだったらしく、≪火魔法≫だけでなくなんと≪氷魔法≫すら取得していたのだ。もちろん理由なんてここまで来たら一つしかない。
火と氷の反する属性が物語の主人公のように格好いいからだと。
もちろんどっちも威力は知れてしまっているのだが。それを考えると、レベルを踏まえてもシュヴァルツさんはこのパーティーのエースには為り得なかった。
その実力を如何に発揮したのは生産プレイヤーであるはずのエッジさんだった。
もともとポテンシャルが高い人なのは知っていたけども、さすがに想像を超える動きをするのだこの人は。
≪罠≫によってモンスターを複数足止めすることで、それだけで俺たちの大きな助けとなるし断然戦いやすくなっている。雑魚モンスター戦に関しては本当にタンクいらずの活躍だと言ってもいい。それでいてタンク並みの立ち回りさえするのだから恐れ入る。
ステータスは生産プレイヤーにとって重要なDEXとLUKを重点的に上げているはずなのに、俺たちよりも遥かに強いのだ。まあ俺もSTRは上げてないし、そういう意味では同レベルのはずだが、その差が大きく開かれるのは何よりもエッジさんの武器にあった。
エッジさんが装備しているのは解体包丁。なんでもこれは<団欒>の店主ゲンゾウさんに認められたことにより、彼から受け取ったものらしい。性能は同レベルの武器よりも遥かに良いとのこと。生産だけでなく、戦闘にも抜群で、短剣扱いのそれは≪剣術・短剣≫の効果を遥かに高めているのだ。
それに加えて≪弱体魔法≫を持つシャーナさんのおかげもあり、もはや雑魚モンスターとの戦闘は見るからに安定化していく。すでにモンスターの数が多くても、そのまま目的地へと近い道を進んでいるくらいだ。
「いました……。モンスター6体です」
シャーナさんの声に、警戒しながら戦闘準備をしていく。
すぐに現れたのは情報通りの六体のモンスター。
コックローチが二体、ヒュージマウスが一体、トゥースバットが一体、ポイズンマッシュが二体。
「四種類にポイズンマッシュが二体か。……ちょっと厄介だな」
「何言ってんだ、楽勝だろ楽勝!」
「この僕がいる限り、勝てない戦などないのだよ」
全く、こいつらは……。
「どうするの、タクト?」
いつの間にか作戦を立てるのも俺の役目になってしまっている。当然のようにみんな俺の方を向いてきた。
「そうだな……まず数を減らしたいから、エッジさんはポイズンマッシュを≪罠≫で足止めお願いします。俺はヒュージマウスとトゥースバット二体をなんとか持つから、三人でコックローチを殲滅。シャーナさんは順番に≪弱体魔法≫をお願いします」
「了解だ」
「わ、分かりました」
全員が頷き、支援を掛け終ってからまず俺とエッジさんが動き出して、僅か後に四人も行動を開始する。
「とりあえずこれを設置してっと……」
エッジさんがポイズンマッシュの進行方向に合わせて≪罠≫を設置する。そこを見事にポイズンマッシュ二体が通過していく。その瞬間に地面から吹き上がるガス。
「ちっ、一体だけか」
ポイズンマッシュの一体は眠りについていた。≪罠≫スキルの睡眠ガスだ。
≪罠≫は優秀なスキルでもあるが、もちろん欠点も存在する。レベル差やステータスによってレジストされる可能性があるのだ。完全に信頼するには信用度が少しだけ欠けてしまう。
それでもパーティーに毒をまき散らすポイズンマッシュを一体無効化しただけでも上出来だ。
さて、俺もやるべきことをやらないとな。
「発勁!」
≪体術≫の新たなスキル発勁を叩き込む。壮絶なエフェクトは強パンチより遥かに高いダメージを叩き出す、ように見えて大して変わりはしない。さすが俺のSTR。
続けてもう一体にも強パンチと強キックを浴びせ、二体のヘイトを俺に向ける。後はしばらく、≪柔術≫によって受け流し続ければいい。保険とばかりに、程なくしてシャーナさんの≪弱体魔法≫が掛かれば、万が一があっても俺の生存には安全が掛かった。
「よしっ!コックローチは終わったぜ!」
「醜い……醜い存在め!!」
「ふぅ……」
程なくして、三人の戦闘が終わる。次のターゲットはエッジさんが相手をしているポイズンマッシュだ。
眠りの時間もそう長いわけではない。二体に接近されて攻撃されている以上、新しい≪罠≫を張ることも不可能だ。それもまた、≪罠≫の欠点の一つ。故に主に≪罠≫に関係するステータスDEXを上げる弓使いが、≪罠≫を多くとる傾向にあるらしい。
それでもエッジさんの様子はまだまだ余裕があった。毒の胞子を浴びて、度々毒状態に陥るも、そこはシャーナさんのカバーですぐに解除されている。
「やってやるよ!」
四人は攻撃していく。コーダのスキルは全体攻撃が多いため、こういう戦いでは発動するにはリスクが高い。全部のモンスターのヘイトを受け持ってくれるちゃんとしたタンクがいれば、別なんだろうけどな。それでもコーダのギター捌きは確実に上手く、どうやらステータスもCHMに依存しているらしいのでダメージも何気に高かったりしている。
シュヴァルツさんは相変わらず≪剣術・片手≫の合間に弱い魔法を挟んでいる。もはや染みついた彼なりの戦い方なんだろう。止めるという選択肢はきっとないはずだ。
ライアとエッジさんは同じ短剣で攻撃を繰り返す。やはり武器性能に差がありすぎるのか、どう見てもエッジさんの方がダメージはでかい。ライアも素早く動いているが、さすがに追いつくことはできないでいた。
順調にダメージを与えていると、ポイズンマッシュたちは身体を大きく震わせる。
「毒胞子だ!」
注意を促しても、もう遅い。二体は自分の身体から毒胞子を周囲に大量に振りまく。
俺が戦っている場所までは届かないものの、二体を取り囲んでいた四人は簡単に状態異常毒に陥る。
「えっと……順番に解毒します!……リカバー!」
毒を治すリカバーは単体魔法だ。CTも少しあるので、すぐに四人を治すのは難しい。だが、ここでまさかシュヴァルツさんの≪回復魔法≫が役に立つとは思わなかったはずだ。
「僕もいるぞ!……リカバー!」
いやほんとまさかだよな。
おかげでそれぞれ二人分で済んだのだから、良かったんだけどさ。毒は放っておけばほくほど危なくなるし、すぐに解除できるならそれに越したことはない。
そこからはポイズンマッシュを倒すのに時間は掛からなかった。
残るはヒュージマウスとトゥースバット。ここまでの間に俺も合間に攻撃をしていたから、トゥースバットの方のHPは残り僅かでもある。
受け流しのコツも掴めているし、ここまでの戦闘からこの二体の行動も分かりきっていた。
二体相手でも、この程度のモンスターなら無傷で相手を出来るということだ。
「少年、僕より目立ってはだめだからな!」
わけの分からぬ注意を貰いながらも、そのままモンスターは簡単に殲滅された。
途中調子に乗ったシュヴァルツさんがヒュージマウスからの攻撃を喰らったが、シャーナさんのおかげで事なきを得たくらいだ。それもあまり反省の色が見えないのだから、さすがとしか言いようがない。
「よし、終わったな。次行こうぜ、次」
少し時間は掛かるものの、やっぱり戦闘は安定してきているんだろう。疲れた様子も見当たらず、意気揚々と先に進んでいく。
一人を除いて。
「……どうかしたか、ライア?」
「えっ?……ううん、何でもない」
立ち止まって翳りを落としていたライアがいた。
何かあったのか心配になるも、ライアはすぐに笑みを取り戻して陽気に歩き出す。
なんだ?女子は分かんねぇな……。
俺は深く考えようともしなかった。
スキル紹介 弱体魔法
――弱体魔法 魔法スキル
対象相手に様々な弱体効果を与える。
レベル1 ウィークネス
レベル5 プアー
レベル10 フール
レベル15 イルネス
レベル20 クラムジー
レベル25 ディレイ
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適正武器 杖




