奇想天外と前言撤回
想像以上のその攻撃に唖然としているシュヴァルツさんに、俺も動揺してしまった。
本人はおかしそうに剣を見ているが、それに力が隠されているわけでもないだろう。
本人にしても文字通りの予想以上だということだったのか。
「あ、危ないです……!」
あ、まずい。
そのシャーナさんの声に、俺は意識がシュヴァルツさんの方に向いていたのを悔やんだ。
気づいた時には二体のトゥースバットはそれぞれ俺とシュヴァルツさんに攻撃を仕掛けていた。
特徴的ともいえるその牙を光らせて、肉食獣かのように獰猛に噛みにくる。想像以上の素早さもあり避ける間もなく、俺たちはものの見事にそれを喰らう。
「くっ……!」
ダメージがでかい。俺が四割近く、シュヴァルツさんも三割近いダメージだ。レベルから考えても、シュヴァルツさんは確実に防御力は高くはないと見る。
装備を更新したとしても、これだもんな。やはり攻撃は喰らわないに限る。
今のは集中を乱した俺のミスだけども。
「回復します!……ヒール!」
シャーナさんがすかさずに俺にヒールを施し、HPはほとんどもとに戻る。そのままシュヴァルツさんの回復に移ろうとしたのだが、同時に彼の声が響く。
「ヒール!……この蝙蝠、僕の身体を傷つけるとは……許せん!」
あれ?空耳か?
シャーナさんも狐につままれたような顔で、ポカンとしていた。
シュヴァルツさんのHPは一割と少しくらい回復していた。
空耳なんかじゃない。
確かに今、この人は≪回復魔法≫を使ったはずだ。
え。てことは、≪火魔法≫だけじゃなく、≪回復魔法≫もあるってこと?しかも全然回復してないし、下手したらポーションよりも少ない。まだ回復量だけで言えば、確実にライアの方が上だろ。
いったい、この人は何なんだ……。
「呆けるなよ、少年!まだ戦いは終わっていない!」
しかも叱られた。いや、確かに集中できてなかったかもしれないが……。
だけどこの気持ちだけは、誰かに理解してほしくて仕方がなかった。
思わず、コーダとライアの方を見ると、エッジさんを含めた彼らはヒュージマウスとの戦いに夢中でこっちのことはあまり見ていなかったようだ。
ならばと、残る一人のシャーナさんに縋るように視線を向けた。
「……え、えっと……」
ちょっと戸惑ったような顔だったが、それは確かに俺の気持ちを汲み取ってくれたものなのは分かった。
あぁ、良かった。なんか彼女とはちょっと仲良くなれる気がしてきたぞ。
「はぁ……、まあ今はそんなこと考えている場合じゃないよな」
トゥースバット二体のうち、一体はすでに残りHPも少ないが、残りはほとんど全快だ。シュヴァルツさんは本気で俺たちで倒すつもりらしく、必死に攻撃を繰り返していた。
さて、俺も参加するか。
まずは一体を倒すべく、弱いなりにも≪体術≫を仕掛けていく。
同時に背後からはシャーナさんの声が聞こえてきた。
「さ、サポートします……!……ウィークネス!プアー!」
彼女の魔法が発動すると共に、HPの高いほうのトゥースバットにエフェクトが掛かる。
今のは……。
「≪弱体魔法≫です……!今ので、そのモンスターのSTRとVITを下げました……!」
「ほぅ。なかなかやるじゃないか、お嬢さん!」
なるほどな。そんなスキルもあるのか。さしずめ≪付与魔法≫の反対ってことか。
モンスターが弱体すればするほど、こちらとしては戦いやすくなる。正直助かるスキルだ。
それからは何事もなく、モンスターの殲滅は終わった。結果的には同時にエッジさんとコーダとライアでヒュージマウスを二体、俺とシュヴァルツさんとシャーナさんでトゥースバット二体を倒したようなものだった。
「で、あんたのあのスキルはいったい何なんだ?」
あれから何度かの戦闘を終えた後、勇むようにコーダが直接にとシュヴァルツさんに尋ねた。
フリスタでは他人のスキルの詮索に関しては基本的にマナー違反である。本人が自ら語らないということは、話したくない。そう取られるのが普通だった。
だからこそ、俺はここまで気にはなっても聞きはしなかった。観察して探ろうとはしたが。
それを何の遠慮もなく、コーダはやってのけたのだ。さすがだ。
そしてそれ以上に称賛を送りたいのは、シュヴァルツさんだろう。いや、もはや称賛でもないが。
「スキル?何のことだい?」
「いやいや、とぼけんなって。散々使ってただろ。見せびらかすように」
「……ハハハッ!なるほど、気になるのだな!?この僕の未知なるスキルを!!」
あれ?これってまさか。
「いいだろう!ならば教えて差し上げよう!!……このまま聞かれなかったら僕はショックだったぞ……」
あ、聞いて欲しかったのか、むしろ。
分かりにくいわ!!
「言っただろう。僕のスタイルは魔法剣士だと。それに相応しいスキルと言えば一つに決まっているじゃないか……≪魔法剣≫さ!」
「≪魔法剣≫……?」
まあ、確かに魔法剣士のスキルと言われればその通りだとは思うが。
それでも俺からすれば聞いたことのないスキルだし、他のみんなも同様だった。まあシュヴァルツさんを除けば俺たちは全員正式組だし、そこまでの知識をまだ得てはいないのもあるだろうけど。
だが名前からして、それは魔法剣士というスタイルだからこそのスキルとしか思えなかった。
「そうさ。≪魔法剣≫、これこそ僕の存在を象徴するスキルでもある!」
「ちなみにその効果は?」
「決まっているだろう!魔法属性を帯びた剣での攻撃さ!」
いや、まんまだろそれ。
「それって普通の剣術や魔法よりも強いのか?」
「さっきまでその威力を見ていたじゃないか。むしろ両方を合わせた以上に強いさ!有効な属性でないのに、あの威力だからな!」
「まじかよ。普通に強ぇのか!すげーな、【ナルシー!】」
「【ナルシー】ではない!【貴公子】だ!」
なるほどな。なんとなくだが、≪魔法剣≫の仕組みが分かってきた。仮にダメージは≪剣術・片手≫と≪火魔法≫を合わせたとしても、シュヴァルツさんの≪火魔法≫は大したダメージはない。その理由は杖の有無だが、≪魔法剣≫となるとそれがなくなる分基礎ダメージが上がるんだろう。STRとINTにステータスを振っていると聞いたし、ダメージとしてかなり大きくなるのは当然なのかもしれない。
この人ながら、とんでもない切り札があったもんだ。
ここぞとばかりにライアも話に参加していく。
「でもそんな強いスキルがあっても、このクエストをクリアできるわけじゃないのね」
「そりゃまあ、ボスは一人じゃ倒せないもんな。パーティーに入れてもらえなかったんだろ」
「……おい、君!その言い方はないじゃないか!」
「え?だってそうなんだろ?気にすんなよ、俺たちだって同じようなもんなんだから」
「ぐぅ……なんてやつだ……」
……さすがにシュヴァルツさんが可哀想か。面と向かってこんなこと言われればな。
少し同情していると、シャーナさんが次のモンスターを見つけて報告した。
「……いました!この先に三体です」
「三体なら楽に勝てそうね。このまま行きましょ」
ある程度この場所での戦闘には慣れつつある。
誰もがそう思っているだろうと、特に作戦を立てることもなくその先へ進もうとする俺たち。
だが、そこに珍しい人から待ったが掛かる。
「ま、待ってくれ!……まだMPが回復していないんだ」
え?
そこまで連戦を繰り返していたわけではない。音を上げないということは、俺たちですらまだ余裕があるというのに。
そしてシュヴァルツさんが放った言葉には衝撃をもたらされた。
「≪魔法剣≫は消費MPが多すぎるんだ!さっきまでの戦闘でもうほとんど0に近い!」
「……あれほど、連発してたくせに?」
「そ、それは……君たちが全然突っ込んでくれないから……つい……」
前言撤回。
どこまでいっても、この人はどうしようもなかった。
キャラクター紹介 シュヴァルツ
性別:男
身長:175cm
レベル:20
スタイル:魔法剣士
スキル:≪剣術・片手≫≪片手剣≫≪力増加≫≪火魔法≫≪魔力増加≫≪魔法剣≫≪回復魔法≫≪氷魔法≫≪猛攻≫≪見識≫
【ナルシー】という名の二つ名で有名なベータ組のプレイヤー。
しかしその性格からだんだんと他人に相手にされなくなり、パーティーすら入れてもらえなくなった。おかげでボスはおろか、レベルすら停滞していた。
正式組が一斉に王都にやってきたとこでチャンスを伺いつつ、タクトが犠牲になった。
自称【貴公子】




