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Carnival  作者: ハル
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初戦闘

 さて、昼飯は何にするか。

 フリスタと現実のゲーム時間は同じである。ゲーム内で一時間経てば、当然現実でも一時間経過する。また空腹度や眠気はVR機器によって現実とリンクしている。これはゲームに没頭しすぎないように、空腹や眠気を感じたら素直にログアウトしろってことだ。

 双子のチャンとチャムに歌を聞かせていたら、いつの間にか昼時になっていて俺の腹は空腹を訴えたてきた。なのでこうしてログアウトして今自宅のキッチンに立っている。

 ローラさんの頼みは思わぬことでクエスト発生し、いつでもいいから彼女の前で歌を何度も披露するだけでいいらしい。何て簡単なことだと思いつつ、彼女の背景が気になるのも事実だ。

 何か思いつめているようだったし、出来れば頻繁に通ったほうがいいのかな。それにこのクエストを終わらせない限り、俺も始まりの街から出られないし。

 その辺りは今考えても仕方ないか。とにかく昼飯を食べてからまたログインしよう。そしたら今度こそ初めてのモンスターとの戦闘だ。

 広い家に今いるのは俺一人だけ。確かパンが余ってたから適当にサンドイッチでも作るかな。

 両親がほとんど家を空けているせいで、自炊は必要を迫られて男子高校生には珍しく家事は割と得意だ。サンドイッチなんてすぐに作れる。というか料理の範囲内ではないか。

 そういや生産スキルに≪料理≫もあるからいつか取ってみるのもいいかもしれない。空腹度の関係でゲーム内で料理を食べても腹は膨れないが、美味しさは感じるらしい。そういう意味ではいくら食べても太らないってことから、一部の女性層には大人気だとか。反面実用性はないので、あんまり取ってる人はいないらしい。美沙からいつか絶対取れとか言われた記憶が蘇った。


「ま、そのうちだな」


 独り言ちて考え事をしてれば、サンドイッチは出来上がる。テーブルに座ってそれに手を付けようとすると、ちょうど携帯にメールが届いていた。


「ん、兄貴からか」


 何でも夜に時間が作れるからフリスタの中で会おうってことだった。

 俺はちょっと嬉しくなり、意気揚々と返答を返す。兄貴のゲームの姿には興味あるな。どんなスタイルなのかも何も聞いてないし。

 すぐに20時に始まりの街の噴水広場で集合の旨の返事が来たので、最後にそれへと了承の意を返した。

 それまでに少しはレベル上げとかないと。俄然やる気も出てくるもんだ。




 再びログインして俺は当初の酒場へと向かった。

 酒場というと酒の匂いや暑苦しいおっさんたちのイメージが強かったが、中は小奇麗な店って感じだった。というかゲーム内では実際にアルコールが入っているものはない。どちらかというと冒険者ギルド的なものが合っているような雰囲気だ。


「いらっしゃい、坊や。初めてのご利用ね」


 キョロキョロと店を見渡す俺に奥のカウンターから妖艶な美女が話しかけてきた。

 ……これ全年齢のゲームだったよな?

 胸元を広く開けた扇情的ともとれる女性は俺を誘うように手招きしていた。気のせいでなければ、酒場にいる他のプレイヤーやNPCでさえもチラチラと彼女を見ているはずだ。

 一種のチュートリアルみたいなもんか?

 とりあえず彼女の元へ行くと、更に妖艶な笑みを深めた。


「改めてみるといい男ね。もうちょっと大人なら言うことなしなんだけど」

「は、はぁ……」


 いったい何なんだ。目のやりどころにも困るし。

 それに名誉のために言うならば、俺は目の前にいる肌を露出する女性よりかは、ローラさんみたいな清楚な年上の美人の方が好みなんだ。

 ……いや、あの人は人妻だけどな。そんな下心があるわけでもないし。


「まぁいいわ。それで、今日はクエストを受注しに来たの?それともパーティー登録?」

「……クエストで」

「そう。見たとこまだ戦闘もしてない冒険者ビギナーってところかしら。貴方の名前は?」

「タクトです。お姉さんは……」

「やだ、お姉さんって。おだてたって何も出ないわよ」


 全然これっぽちもそんな気はないですから。

 心の声に留めながらも、改めて目の前の人の顔を見ると何だか違和感が沸き起こった。

 誰かに似ている?確か……


「あら。その目は気づいちゃった?」

「……えっと」

「私の名前は二葉よ。この酒場を管轄としてるシステムキャラの一人」

「あ、一花さんに似てるのか」


 それで分かった。似ているのだ。一花さんと二葉さんが。

 システムキャラだと言っていたから当然か。NPCとはまた違うってことだよな?


「ふふっ、そうそう気づく人もいないんだけどね。あなたは一花姉さんに興味があるのかしら?」

「は!?いやいやそんなんじゃなくて!……って、姉さん?」

「そうよ。私は一花姉さんの妹」


 冗談だろ?どう見ても姉だろう。

 いやまぁシステムキャラにそんなこと関係ないのかもしれないが。

 改めて二葉さんを見れば、その豊満な胸を強調する服装に大人っぽい性格に高身長。どう見てもあの一花さんの妹だとは思えない。

 ま、そんなこと考えたって仕方がないか。


「えっと、とりあえず今日はクエストを受けに来たんですけど」

「あら、そうだったわね。あなたがに見合ったクエストはこんなところかしら」


 仕事モードになった彼女が差し出したのは三つのクエストだった。


・ラビットの討伐

 ハーク平野にいるラビットを10体討伐。

 報酬:300G


・薬草の採取

 近隣で採れる薬草を10個採取。

 報酬:400G


・ストレイドッグの討伐

 ハーク平野にいるストレイドッグを10体討伐。

 報酬:600G


 ラビットは確かフリスタの中でも最弱なモンスターだったはずだ。難易度的には一番簡単なものだろう。ストレイドッグもラビットよりは強いが、それでも弱い方だ。

 薬草は採取だから、どちらかというと生産プレイヤー向きなのだろう。

 ま、無難にラビットの討伐かな。

 俺がどれだけ戦えるかも分からないし。


「それじゃ、ラビットの討伐で」

「分かったわ。10体討伐したらここにまた報告しに来てね。そしたら報酬を渡すわ」

「分かりました」


 そして俺はクエストの受注をして、ようやくモンスターを狩ることになった







 目の前には緑豊かなのどかな景色が広がっていた。

 ハーク平野。始まりの街から南にある一番低レベル用のエリアだ。誰しもが最初にここで狩りをすることになる。そのせいか、至る所にプレイヤーがいっぱいだった。

 ここに来る前に酒場で受けたクエストはラビットの10体討伐だ。一番弱いモンスターなので、武器がない俺でもなんとかなるだろう。

 少し人気のないところまで移動して、ラビットの姿を探す。あれだけ人がいようとも、その姿は容易に見つかった。

 見たまんま白い兎のモンスターだ。つぶらな瞳に反して、牙が少し見えることからやっぱりモンスターの類であるんだろう。

ターゲットをすれば、ラビットという緑の文字と、小さなHPバーが表示されている。どうやらレベル差でモンスターの名前の色が変わるらしい。緑なら自分のレベル±2、レベルが2より弱い方に離れてたら青、強い方に5まで離れてたら黄色、それ以上は赤と。青や赤のモンスターだとレベル差が離れすぎているので、経験値には制限が掛かると言われている。

 要は適切なモンスターでレベル上げろってことだ。


「とりあえず、やりますか」


 武器はない。よって攻撃手段は殴る蹴るしかない。ちょっと抵抗はあるものの、文句を言える立場じゃないんだ。


「力の歌!」


 ≪歌≫スキルの力の歌を歌う。といっても、もともとのSTRが1なので、ハッキリ言って効果は0に等しいだろう。それでも歌うのには意味がある。

 プレイヤーレベルはモンスターを倒して経験値を得ることで上がるが、スキルレベルはスキルを使うことによってレベルが上がっていくのだ。逆に言えばスキルレベルを上げるのにモンスターを必ずしも倒す必要はない。

 その例が俺がチャンとチャムに歌を何曲か披露したおかげで、すでに≪歌≫と≪声量≫のスキルはレベルに2に上がっていることだ。最もイサナギたちの話では、モンスターを相手にした方がレベルは上がりやすいってことだけども。

 閑話休題。

 ラビットはノンアクティブモンスターだ。こちらから攻撃しない限りは戦闘状態にはならない。

 まずは一撃。

 ちょっと可哀想に思うが、結構力を込めてラビットに近づいて殴った。

 そして減ったラビットのHPは一割。


「…………」


 これが多いか少ないかは分からない。

 嘘だ。

 少ないに決まってる。最弱のモンスターを十回攻撃を当てないと倒せないとかあるわけない。

 あるわけない、よな?


「ま、仕方ないか。歌使いは大器晩成。そう信じよう。今は苦行の時だ!」


 自分自身でそう思いこんで、戦闘態勢になったラビットに向かう。

 動きが単調なラビットの攻撃は体当たりをしてくるだけだった。それは注意してみればハッキリ言って避けるのは容易く、攻撃を当てるのも容易い。

 さすがに最弱モンスターではあるな。

 一度だけミスして体当たりをくらったが、減ったHPは20だった。俺のHPは100だから5回くらったら死ぬ計算か。初期装備だしそんなものか。

 一応は難なくラビットを倒すことはできた。時間は掛かったものの。


「効率を求めるならやっぱ武器は必要か……」


 でもなぁ。せっかく≪声量≫っていう武器スキルがあるのに、もう一つ武器スキルを取るのも何だか癪だと思うのは俺がいけないのか。

 とりあえずクエストにある10体を狩るか。考えるのはまた後でいいだろう。

 ちなみにモンスターは倒されると同時にポリゴンエフェクトのようにその場で光って消える。ドロップ品は基本的にプレイヤーのカバンに直接入る。

 今入ったのはウサギの皮とウサギの骨だ。

 素材は店売りするか、必要とする生産プレイヤーに売るか、自分で生産するか、もしくはクエストで必要になるか。それくらいだろう。ラビットのドロップ品なんてたかが知れてるだろうから、店売りに限るとは思うが。

 さて、続いて根気よく行くか。


フィールド紹介 ハーク平野


始まりの街の南にある平野。のどかな景色はピクニックに最適である。緑豊かで、東には小川が流れている。フリスタの中で一番モンスターのレベルも低い安全なマップ。

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