災難と繰り返される災難
絶対に放さない、という意思が見て取れるほどの力強さ。
そして何故か、何かを期待するような視線を注いでくる。
極めつけには、周囲の野次馬と化したプレイヤーが優しく、俺からすれば迷惑な暖かい視線を注いでいるということだ。
あぁ神様よ、俺はいったいどうすればいいんでしょうか。
「現実逃避してるとこ悪いけど、諦めなさいタクトくん」
ですよねー。ヘレンさんの意地悪。
「何だい?僕の存在が美しすぎて気を失ったのか?」
「いえ、それはないです」
「だが安心したまえ。君ほど幸福な人間なんていないだろう。何せ、この僕が直々にパーティーに誘ってあげようというんだから」
「いえ、間に合ってます」
「光栄だろう?こんなことは滅多にない。末代まで誇るといいだろう」
「いえ、大丈夫です」
え?何この宇宙人。マジヤバくないか?
話が通じないって言ってたけど、限度があるだろうよ。
助けを求めるようにヘレンさんとエッジさんを見ると、二人は顔を俯かせていた。
あ、これ絶対笑ってるやつだ。
「とりあえず……あなたの名前を聞いても?」
どうやら俺に味方はいないようだ。ここを切り抜けるのも俺の力に掛かっていると見た。
まず手始めに相手を知ることから始めるとするか。
「名前?そんなの知っているくせに聞くなんていじらしいな、少年。僕の口から聞きたいんだろう?」
えぇ……。
「まあいいだろう。僕の名はシュヴァルツ。またの名を【貴公子】と言う!」
「あ、はい。……俺はタクトですね」
「そうかそうか。では少年よ、さっきは僕に地下水路の攻略を依頼したな?ちょうどよく、普段は多忙ながらも今日は僕の手が空いている。その依頼、是非とも請け合おうじゃないか」
なんだろう、泣きたい。
「それで、君の仲間はどこに?」
「ここにはいません。ってか別に依頼してないですし、俺なんかが【貴公子】さんの手を煩わせるなんて恐れ多いですし」
「何を弱気な!この僕が自ら力を貸そうと言っているのだ。存分に受け取りたまえ」
「いやだから……」
なんてこった。
こんなにも話が通じ合わないことは人生初めてだ。
いくら話しても意志疎通が出来ないので、もはや諦め気味である。ここはもうでっち上げて、何とか興味をなくしてもらおう。
「仕方ないですね……。実は地下水路の攻略を依頼したのは俺じゃないんですよ」
「なんだって?君がさっきそう言ってたんじゃないか。嘘はよくないよ、少年」
「嘘じゃないんです!あの時喫茶店にいたプレイヤーの人が、ぜひ【貴公子】であるかの有名なシュヴァルツさんの力を借りたいと言ってたのを聞いたんです!きっと今もあなたのことを探しているはずですよ」
「それは……本当のことなのか?」
「はい」
もうここはゴリ押しだ。なんかいけそうな気もしてきたぞ。
「……そうか。そうかそうか。僕の力がそんなに必要か!ならば仕方がない。この【貴公子】、弱者の味方をするのは当然のことだからな。少年よ、残念ながら今回は諦めてくれたまえ。僕はその者のもとへと行こうとしよう。……ふっ、人気者は辛いな」
それだけ言い終ると、自称【貴公子】さんは颯爽と駆けていった。
ちょろいな、あの人。
申し訳ないが、罪悪感はない。名も知らぬ人には犠牲になってもらおう。
まあ存在しないんだけども。
「あらあら、まさか【ナルシー】の勧誘を上手くあしらうなんて。タクトくんも、なかなかやるじゃない」
「いやぁ……あれはまじできつそうだな。本当によくやったよ、タクト」
「助けてくれなかったくせに、二人とも何言ってるんですか……」
しかもギャラリーからも拍手もらっちゃってるよ。
さて、いつあの人が心変わりするかも分からない。
今のうちにここから離れておくか。
ひとまずコーダとライアたちと合流することにしよう。
話はそれからだ。
「どうした?なんか疲れた顔してねぇ?」
邂逅一番、コーダが俺の顔を見てそう言った。
そんな分かりやすかっただろうか。
「いや、ちょっとな……」
待ち合わせ場所は王都の東酒場にしておいた。すでにコーダにライア、そしてライアが連れてきたヒーラーであろう女性が待っていた。
王都は広すぎるためか、酒場が東西に一つずつと、合計二つの酒場がある。主に東酒場と西酒場と呼ばれるものの、内装や利用できるものなどは何も変わりはしない。もちろんシステムNPCである二葉さんはどちらの酒場にも常に常駐だ。忙しない。
「それで?タクトの後ろにいるイケメンがエッジさんって人?」
「あぁ、紹介するよ」
もちろんエッジさんも一緒に来ている。これで五人がひとまず揃ったことだ。
エッジさんが前に出て三人に向けて自己紹介を始める。
「初めまして、俺はエッジ。メインは≪料理≫の生産プレイヤーなんだけど、まあ一応戦闘に関してもかじってるが、正直自信はないかな。そっちの二人はコーダくんとライアさんだよな?タクトから話は聞いている」
すでにあらかた二人のことを話していたために、二人も軽く名乗っただけだ。もう一人の女性は俺も知らないため、彼女もまた同じように自己紹介を始める。
「えっと、シャーナです。ヒーラーなんですけど、ライアちゃんに誘われて……。私も自信なくて、あの……ぅぅ、ライアちゃん~」
「シャーナ、あんたね……。ま、見たまんまちょっと恥ずかしがりやで男が苦手なのよ、この子。男にナンパされてたのを助けたら懐かれちゃってね。悪い子じゃないから心配しないで。それにヒーラーとしての腕は一流よ」
なるほど。俺の周りにはあんまりいないタイプだな。てかライア以外男なのに大丈夫なのか?ライアの後ろに隠れるように俺たちを見てるけど、まあ敵意はないようだし。それに貴重なヒーラーだからな。心なしか、コーダとの距離感が一番ある気もするけど。
「あぁ、この馬鹿のことは気にしなくていいわよ。シャーナに会った途端に、質問攻めで完全に嫌われてるから」
「えー!?そりゃないっしょ!単に照れてるだけだって」
「いや、それはないな……」
さすがだな、コーダ。
「なるほどな。類は友を呼ぶってやつか。タクトの周りには面白いやつがいるんだな」
「は?何言ってるんですか、エッジさん」
誉め言葉じゃないよな、それ。
この中で一番大人のエッジさんは暖かく見守るように様子を眺めているようだった。
「で、タクトはなんかあったの?コーダも言ってたけど、ここに来た時大分おかしかったわよ」
「いや、まじで、大変だったから!聞いてくれよ」
改めて聞かれたのなら、もう語るしかない。
【ナルシー】との一件を精細に語ったのなら、もう二人は大爆笑だ。しかもその存在を知っていたらしく、尚更拍車がかかる。
「まじかよ、タクト。あの【ナルシー】に会ったのか。羨ましいじゃんかよ」
「ちょっと、コーダ。それ嫌味にしか聞こえないから。にしても災難すぎね。さすがわタクトだわ」
「お前らな……」
なんでだよ。今日はツいてないのか?少しくらい本気で俺の気持ちを汲んでくれたっていいじゃんか。
ちょっとだけ、期待を込めてシャーナさんを見たら、目が合った途端に勢いよく逸らされた。
もうダメだ。
「ま、諦めろ……」
「エッジさん……」
あなたも同罪ですけどね。
しかし俺の厄日はここでも終わらない。同じことは何度でも繰り返されるのだ。
「いたああああああ!!見つけたぞ、少年!!」
嘘、だろ……。
キャラクター紹介 シャーナ
性別:女
身長:152cm
レベル:16
スタイル:ヒーラー
スキル:≪回復魔法≫≪杖≫≪精神増加≫≪障壁≫≪瞑想≫≪狙う≫≪状態異常耐性≫≪MPアブソーブ≫≪?≫≪?≫
ライアが王都で出会ったヒーラーの少女。極端な男性恐怖症であり、基本的に女性にしか心を開かない。
それでも男性のいるパーティーに入ったのは、自分自身が変えたいという思いを持っているからである。




