検証結果と陽炎
結果から言えば、≪シンクロ・舞曲≫は俺にとって想像以上の効果をもたらした。
俺とコーダ、ライアの三人のスキルが重なることによって、1.5倍の効果になり、どちらか二人ずつ同士でも1.2倍の効果になることが証明された。
ただでさえ、上昇効果が薄い俺たちのスキルが、これによって≪付与魔法≫に近づくのもそう遠くはないはずなのだ。
最も問題はもちろんあり、一つはタイミングだ。
同時に掛かるというのがこれまた結構シビアで、合わせようとしても本当に難しい。
何度か練習して、ようやく一番最初だけシンクロ率が上がるようになってきたくらいだ。
もしこれが戦闘中の掛け直しとなると、三人の意思疎通も難しくなるし、それが激戦であるならばそんな余裕すらないと思われる。
もう一つが、結局その支援のためにパーティー枠を三人埋めるのはどう考えても悪手でしかない。それを解消するには、やっぱり支援以外にも出来ることを増やすことしかないんだろう。
まあその辺りは要課題とするものの、それでもこのスキルには可能性に秘めているものだった。
まさかこんなとこで良いスキルに出会うなんてな。≪柔術≫といい、運は俺の味方をしてくれているのかもしれない。
「あれがイベント会場か……」
時間もギリギリになったので、すでに俺たちは王都に入り直してイベント会場へと向かっていた。
目の前にあるのは巨大なドーム状の建物だ。大きさ的にも某ドームと大して変わんないぐらいだと思われる。それがなんで王都の中にあるのか。
その理由は単純。ゲーム的なものであり、ここは本当にプレイヤー専用の建物だったりするらしい。イベントで多くのプレイヤーが集まる際などはここで行われるというのだ。
そもそも今日のイベントも三大ギルドが主催としたプレイヤーイベントであるものの、公式はそれを全面的にバックアップしているのでこうしてここで行うことが出来るのだ。
詳しい内容は聞いてなかったが、何でもプレイヤー同士の交流イベントで、主に俺たち正式組同士やベータ組との交流をメインとしているらしい。
ちなみにイベント内容自体は王都の各スペースでも生中継されているので、決してここへ来る必要が必ずしもあるわけではない。
王都の酒場なんかでも満員で観戦しているらしいし。
とりあえず俺たちはこうして会場までやって来たわけだけど。
「人、多いわね……」
「そりゃそうだろ」
どこを見渡してもプレイヤーの塊で混雑状態だ。
順番に会場入りしているらしいが、果たして全員入ることが出来るのか。
まあ見るからに数万人は入れそうだから大丈夫だとは思いたいが。
「とりあえず、並んでおくか?」
「まあそれしかないわね」
二人の意見を参考に、俺たちは列の最後尾に並ぼうと移動していくのだが、そんな俺たちに――というより俺に思わぬ声が掛かる。
「タクト、ちゃんと来れることが出来たんだな」
この声は。
「兄貴!?」
間違えるはずはない。この前よりも少しだけラフな格好となっている兄貴のサクが立っていた。
「ちょっ、タクト!?兄貴って……あんた!」
「双剣……まじかよ!初めて見たぜ!」
二人が何やら興奮じみた様子で俺の背中を叩いてる。いてぇよ。
明らかにこれは兄貴のことを知っている様子みたいだ。
「どうやら仲間も出来たみたいだな?初めまして、二人とも。俺はサク。タクトの兄だ」
「俺、コーダです!タクトの親友です!」
「わ、私はライアです。よろしくお願いします!」
おい、お前等。なんでそんなにガチガチなんだよ。つーか有名どころなら兄貴もそうだけど、【黒騎士】と呼ばれてたアレンさんもそうなんじゃねぇか?そっちは全然知らなかったくせに。
「おいおい、さすがはフェロモン垂れ流し野郎だな。サク」
兄貴の後ろの方から揶揄うように二人の人物が近づいてきた。
兄貴の連れだろうか。親しい間柄が予想されていたが、よくよく見ればどちらも俺の知る人物だった。
軽薄そうな男。燃えるような赤い髪にサングラスを掛けている。見た目的に怖い印象を抱くが、そのサングラスを外すと俺の知る顔が現れる。兄貴の親友でもあり、俺が度々名を出してきた修二さんだ。
もう一人は女性でありながら俺よりも若干高い高身長。モデルでもやってるのかと思う体型で、ヴァイオレット色の髪を腰まで流していた。若干目つきもきついが、これまた兄貴の知り合いである花梨さん。
「久しぶりね、タクトくん。前々から会いたいとは思ってたけど、まさかここで会えるなんてね」
「元気してたかー?どうよ、俺たちのギルドに入る気になったか?」
この人たちは相変わらずそうだ。プレイヤーネームはシュウとリンカらしい。
二人とも兄貴とは学生時代からの付き合いであり、俺も小さい頃に遊んでもらった記憶がある。シュウさんがフリスタをやっているのは知っていたが、まさかリンカさんもか。
てかシュウさんはまじで俺を勧誘しようとしてるのか?
「ここじゃ人目が多いからな。タクトたちが良ければ俺たちの観覧スペースに来ないか?」
確かに周囲のプレイヤーたちはすでに兄貴たちを遠目にいろいろと囁き合っている。まあ有名人だもんな。
「けど、それってギルドのだろ?俺たちが行ってもいいの?」
「ばっか。お前もすでに陽炎の一員なんだ。いいに決まってんだろ。もちろんその友達もな!」
いや、入ってねぇよ。
「シュウのことはともかく、全然気にすることはないわ。タクトくんのことはみんなも知ってるし、私たちはほとんど身内ギルドだから十一人しかいないしね」
リンカさんがそう言うなら、お邪魔させてもらおうか。
コーダとライアに確認しようとすると、二人はなんか憧れの人物を目の前にしたかのように潮らしくしていた。
「おい、タクト。聞いてねぇぞ俺は」
「そりゃ言ってないからな」
「何あの人……めっちゃ綺麗……」
どうやら俺が思ってた以上に、兄貴たちは有名な存在らしい。
場所を移動すると、そこは個室スペースだった。ここからなら確かにハッキリと会場が見える。
軽く数十人は入りそうだが、俺たちも含めて十三人しかいない。本当に陽炎とやらは身内だけの少ない人数で構成されてるみたいだ。みんなが和気あいあいと談笑していたし、本当になぜか俺のことを知っていたのだから驚きだ。
ちなみに俺が知る限りでは、兄貴のリアルの知り合いはシュウさんとリンカさんだけだった。
「てめぇがサクの秘蔵の弟か!まさかこうして会える日が来るなんてな!ガハハハッ!気楽にしろよ!」
「可愛い~。リアルDK?マジ萌えるんだけど~」
「サク殿の親類なら、やはりさぞ化け物なんでござろうな」
なんつーか、濃い。濃すぎる。
こんな人たちと兄貴はやっているのか。
コーダとライアも何も言えずに固まってるし。道中散々興奮してたのが嘘みたいだ。
「ここにいる人で陽炎のメンバーは全員なんですか?」
どうせなら全員に挨拶をしたかったので、単純にそう聞いたのだが、なぜかその瞬間シーンと誰もが口を噤んだのだった。
なんか悪いこと聞いたか?
気まずそうな顔をする彼らに俺は内心慌ててしまう。
初めにそれに答えたのは兄貴だった。
「もう一人はここにいない。他人と触れ合うのが苦手でな……。イベントにも興味もないみたいだから来てないんだ」
なるほど。それはまた、さすがに濃そうなメンバーだ。
まあいないものは仕方がない。けど、なんでそこまで気まずそうな顔をするのかだけは気になった。
「ならいいんだけど。ただ全員に挨拶したかっただけだし」
「……すまん、タクト」
兄貴の絞り出すその声に俺は違和感を感じつつも、突如として場を盛り上げようとするシュウさんの言葉に反応した。
「つーか何。それってタクトはやっぱ陽炎に入りたいってこと?お前なら諸手を上げて全員賛成だからな!もちろんそこの二人も良かったらどう?」
「えっ!俺ですか!?」
「そ、そんな……恐れ多いですよ!」
本気かそうでないのか、シュウさんは矛先をなぜか二人にも向けていた。
まあ、これは半分本気だな。俺を入れたいのも本気だろうから、外堀を埋めようとしたにすぎない。
「あのね、俺たちまだ初心者同然なの。ギルドだってまだ考えてないのに、三大ギルドなんて論外だから」
「冷てーな、タクトは。けどイサナギの野郎に先を越されるのも嫌だからなー。今日は諦めるが、お前は俺たちが予約してるってことを承知しとけよ」
だから何でだよ!
ちなみにイサナギとシュウさんも俺と兄貴の親友同士としてリアルで顔見知りである。イサナギは苦手意識を持っていたみたいだけど。
「おい、そろそろ始まるぞ」
誰かの言葉が切っ掛けとなったのか、話もそれで終わり全員がイベントに集中した。
イベントは三大ギルドの主催であるものの、陽炎は主に資金面など裏方担当であり、進行は主に自由騎士団が担当していた。
イベント内容的には、三大ギルドだけでなく多くのギルド紹介、選出されていた正式組のプレイヤーからの挨拶、グロリアスの強い人同士の模擬戦やら、ミスコンさながら、ベータ組からの三大アイドルや美女、イケメンなんかまで紹介されていた。
本当に多種多様に行われ、最後には正式組とベータ組同士での、交流として狩場に赴くことで現地解散となったのである。
俺たちも例に漏れず、コーダとライアと一緒に、兄貴、シュウさん、リンカさんと六人で、王都周辺のマップを回っていたりした。
楽しい時間もあっという間に過ぎ、気付けば解散もすぐだったくらいだ。
その間、俺たちを見つめる一人のプレイヤーがいたことを、俺はまだ知らなかった。
フィールド紹介 東バランタイン街道
アルファータからの道のりも半分を進むと景色は少し変わる。だんだんと近づく王都の姿に、その先に見える広大な自然の景色。
この街道は最後まで安全な道となるだろう。願わくば冒険者の道に栄光があらんことを。
出現モンスター:ホーンラビット、レッサースライム、ゴブリンウォリアー、ゴブリンアーチャー




