王都と俺たちのスキル
王都は恐ろしく広くてでかい。
円形上に城壁が建てられており、その東西南北にそれぞれフィールドへとつながる門があった。
中央には王都の象徴とも言うべき城が建てられているが、なんでもプレイヤーは進入禁止の場所らしい。実際に王様を見たと告げたプレイヤーは一人もいない。
規模としても始まりの街の十倍以上、いや二十倍は軽くあると思われる。散策するだけでも一日が終わってしまいそうなくらいだ。最もここには数多くのNPCが暮らしており、プレイヤーが重点的に訪れる場所はある程度絞られるということだ。
まあそれでも何日かにわけては、王都を回って歩きたいとこだ。
「ようこそ、王都バランタインへ」
西門の前で、アホ面のように王都を見上げる俺たちに、アレンさんは心からそう言ってくれた。
その言葉に実感がだんだんと現れる。
俺たちは、こうして王都へと辿り着くことが出来たのだと。
ここからが、本番の冒険でもあるのだから。
「さてと、ひとまずはタクトたちとはここでお別れかな。俺たちは真っ直ぐイベント会場へと向かわなきゃならん」
イベント開始まで一時間くらいの猶予はある。けれど主催だという自由騎士団の面々はいろいろと準備があったりするんだろう。
「そうですね。俺は少しぶらついてから会場まで行くことにします」
「それがいい。見所はいっぱいあるからな。ちなみにイベント会場は王都の北東にある。ま、目立つから迷うことはないだろ」
「ありがとうございます、アレンさん。それに、カイン、ダイチ、ヒューもな」
改めて三人を見回すと、カインはどこか照れ臭いようにそっぽを向いていた。
ダイチの強面も、ヒューのやる気なさそうな狐目も、この短時間でどうやら慣れてしまったようだ。
「じゃあな、タクト。……まあ今後俺の力が必要なら気軽に呼べよ。暇だったら助けてやるから」
「おい、カイン……」
「本当に素直じゃないねー」
「……るっせ」
出来るなら、もっと話したいこともあったけど引き留めるわけにもいかない。
それにカインがそう言ってくれるなら、その時は宛てにするのもいいだろう。
「じゃあね、あんたたち」
「元気でやれよ。俺の力も必要だったら、遠慮なく貸してやるからよ!」
ライアとコーダもきっと同じように別れを惜しんでいるはずだ。
フレンドを交換しながらも、自由騎士団の四人は王都の中へと溶け込んでいく。
さりげにギルド勧誘もされたけどな。
「さて、俺たちはどうする?このまま別れるか?」
残った俺とライアにコーダ。
もともと俺たちもボス討伐のために組んだ野良のパーティーだ。
目的を果たした以上、いつまでも一緒にいるわけにもいかない。
もしかしたら二人はすぐにでもパーティーを離れたいとさえ思ってるかもしれない。まあ、これは考えすぎか。
俺にとったら二人は今まで出会った野良パーティーの人たちとは違う。
同じ不遇の支援系スタイルとして、音楽系のスキルをメインにしている同士として、ここで別れを済ますのは惜しい。
そう思っているのは俺だけなのかどうか。
「そうね……とりあえずイベント目的でもあったし、二人がいいなら一緒に見に行かない?」
「お、いいなそれ!俺も賛成。タクトももちろんいいだろ?」
ハハッ、いいね。本当に。
「馬鹿、当たり前だろ」
何かしらの絆を感じているのはきっと俺だけじゃない。二人も俺と同じなはずだ。
「それじゃ、もうしばらくよろしくね。二人とも」
「おう!」
「あぁ」
互いに顔を見まわしながら、俺たちは強くうなずき合った。そのまま自然と王都の中心の方へ向かって歩き出す。
イベントのためか、多くのプレイヤーが王都にいるおかげで人通りはやや渋滞気味なくらいだ。その中にさりげなくNPCも数多く溶け込んでいるのだから、本当にすごい。
特に目的もなく歩いていく俺たちの間には、雑談が飛び交う。その中で、さりげなくライアがボス戦のことに触れた。
「あーあ、それにしても何で私だけ死んじゃったのかなぁ。悔しいわよ、ホント」
「あんときはまじでビビったからな。普通に終わったと思ったし」
「言えてる。まあライアを狙ったのはレベルかHPが低かったってとこじゃないか?二回目はヒューだったし。運が悪かったってのもあるんだろ」
「そりゃHP上げてないし、防御なんて紙同然だけどね。結局ヴァイパーファングも成功しなかったし。そうそう上手くいくもんじゃないのは分かったわ」
ライアは大層悔しいようだ。まあその気持ちは分からなくもないけど。
自分が死んでいる間にボス戦が終わってしまうのは、やるせない気にもなるよな。俺もグレイターバット戦の時がそうだったし。
「そういえばボス戦といや、終わってから新しいスキル覚えられるようになったんだよな。タクトとライアはどうだ?」
ここで唐突にコーダがぶっこんできた。
新しいスキル?
そんなもん俺には――
「……あった」
「あ、本当だ。私も増えてる」
いつの間に?
ボスに勝った喜びで全然気づかなかったわ。
確かにNew欄に新たな覚えられるスキル項目が増えていた。
――シンクロ・舞曲 パッシブスキル
二人以上このスキルを持ち、且つ特定のスキルを同時に使用した場合に限り、本来の効果以上の力を発揮する。
適正スキル:≪音楽≫
なんだこれ。
シンクロ?特定のスキル?
ぶっちゃけ意味がよく分かんないな。
「シンクロ・舞曲か……」
「え、タクトも?私も同じスキルだわ」
「俺もそれ。……やっぱりな」
どうやら三人ともが同じスキルが現れたらしい。
なんかコーダは何かに気付いているみたいだ。自然と俺もライアもコーダに視線を移す。
「多分だけど、これ俺たちのスキルのことじゃねぇの?」
「どういうこと?」
「そのまんま。舞曲ってことはライアの≪踊り≫に俺の≪演奏≫、タクトの≪歌≫が合わさったもんだろう。これらが同時に掛かったら、威力が上がるってことじゃねぇの?」
は?なんだよ、それ。
そんなスキルなんてあるのか?
「てことで、ものは相談なんだけど……」
「おい、コーダ?早まるなよ!?」
「ざんねーん!もう遅い!俺は取ったぜ!どうだよ、二人とも。これとってちょっと試してみねぇ?」
まじか、こいつ。どんなものなのかもわかってないのに、取りやがった。
そりゃまあ気になるのは分かる。
俺も凄い惹かれてるのは否定しない。
けど、これって明らかにソロ用のスキルではないもんな。
コーダの読みが正しいのなら、俺たち三人、少なくとも二人がいて力を発揮するスキル。けど実際普通に考えて支援スタイルを三人いれるパーティーなんてほとんどないだろう。それこそ今日みたいな例外がない限りは。
「舞曲ねぇ……正直この言葉だけで取りたい気持ちはあるけど……」
そのライアの意見には激しく同意だ。
けどライアはコーダとは違う。そう易々と冒険することなんて――
「ま、いいか。SPもギリギリ足りるし、乗ってやるわ。タクトは?」
嘘だろ。なんでそんな清々しい顔をしてんだよ。
ライアは純粋に聞いてる傍ら、反対のコーダは視線が強制的だ。
「ったく……」
まあここまで来たら一蓮托生か。
俺はSPには まだ余裕あるし、次取りたいのも決まってないからな……。
ここは乗ってやろう。
「よっしゃー!二人とも、話が分かるぜ!てことで早速引き返して試すに限るだろ!」
何でこんなに興奮してるのか分かんないが、まあ正直俺もここまで来たら気になる。
もしこのスキルが俺たちの価値を上げてくれるなら、なんと嬉しいことである。
コーダ主導のもと、俺たちはすぐに引き返して東バランタイン街道まで向かった。
キャラクター紹介 アレン
性別:男
身長:179cm
レベル:27
スタイル:騎士
スキル:≪槍術≫≪槍≫≪力増加≫≪体力増加≫≪猛攻≫≪索敵≫≪加速≫≪騎乗戦闘≫≪馬術≫≪愛馬≫
自由騎士団所属のベータプレイヤー。有名中の有名プレイヤーであり、全プレイヤーの中で唯一、騎乗しながら戦闘をこなすことができる。それに至った経緯は本人以外知ることはない。
愛馬の名前はリオン。




