窮地と勝利
オークが戦場に響き渡る咆哮を上げた。
それによって、俺たち全員が問答無用に身動きが出来ない気絶状態に陥る。僅かな時間といっても、勝敗を分ける瞬間といっても過言ではない。出来るなら防ぎたいものだが、現状この状態異常を防ぐ術はないのだろう。
「カイン、気を付けろよ!」
「るっせ!分かってるっての!」
オークは赤いオーラを纏い、前に俺を死なせた攻撃をカインに仕掛けいていた。
この赤いオーラは興奮状態と言うらしく、攻撃力を高め、防御力を低めるらしい。メリットもデメリットも存在する興奮は、一応はバッドステータスとして扱われている。
そんな状態のオークが、カインに連撃を仕掛けていくが、カインはすでに瞬時に防御態勢へと入っているところだった。
あらかじめ分かっていた攻撃でもあるからな。
「シールド!」
≪盾術≫を発動させ、器用に盾を動かしながらオークの攻撃を凌ぐカイン。その後ろ姿はやはりタンクなのだと再認識させられた。
「ヒール!」
「ヒールダンス!」
オークの攻撃を凌いだカインを回復させるべく、すぐにダイチとライアが回復行動に移る。
オークは未だに興奮状態のままで、赤いオーラを纏い続けている。
これはチャンスだと思っていいのか?
攻撃力が上がってるかもしれないが、その分防御力は下がっているはず。畳みかけるなら今しかないか。
当然そう思ったのは俺だけじゃない。
カインが防御に集中する傍ら、全員で攻撃に移った。
「アースニードル!」
「連射!」
「強パンチ!強キック!」
「おらぁ!」
「ヴァイパーファング!」
前半よりも大きいダメージがオークに入っていく。
そして連動するように攻撃に激しさを増していくオーク。明らかに攻撃のバリエーションが変わっていた。
それに翻弄されるカイン。だんだんとダイチとライアは回復を余儀なくされている。
残る純粋なアタッカーはヒューだけだ。口では面倒だと言いつつも、果敢にその腕を止めずに攻撃をし続けている。
そしてライアも隙を狙うように、ヒットアンドウェイを繰り返してヴァイパーファングを当てにいく。
なんだかんだで、陣形は崩れていない。ペースは落ちたが、このままいけば勝てそうではあるんだろうか。
「動きが変わったぞ!」
カインの言葉に俺たちはハッとしてオークに注目していた。
突然オークは地団駄を踏むように、その場で足踏みを繰り返していた。
いったいなんだ?
ただのパフォーマンスであるわけはない。
そして直後に地鳴りのと共に、地面がデコボコと浮かび上がった。
勿論、オークの攻撃に他ならない。
しかもこれは、全体攻撃だ。
「みんな、無事か!?」
確認するように、周りを見る。
とりあえず死者はいない。けれども、俺を含めてコーダ、ライア、ダイチ、ヒューと、五人共HPは半分を下回っていた。
危なすぎる。もしも連続でこの攻撃が来れば終わってしまう。
危険な状況に陥りながらも、すぐにライアとダイチは回復行動へと移る。
しかし同時に、オークもまた追撃行動に移っていた。
「おい、どこ狙ってやがる!!」
カインが再度挑発を仕掛けるも、オークの狙いは一人を見据えていた。
獲物を狙うように斧を投擲。その狙いはHPが最も低いライアだった。
「ちょっ!」
回避する間もなく直撃。そのHPは0となっていた。
「ライア!?」
エフェクトに包まれ、その場に倒れながら留まるライア。
まさか死者が出るとは……。
しかも今のはオークが狙ったコンボ攻撃に違いない。恐らくヘイトを無視して、一番HPの低かったライアに攻撃したんだろう。
やはり、一番弱かろうがボスはボス。
そう簡単にはいかないってことか。
ライアのことは残念だが、どのみち俺たちに蘇生方法はない。これ以上犠牲を出さないようにしなければ。
一人だけとなったダイチがヒールを次々と回していく。この様子ではしばらく攻撃には参加できないだろう。少しでも負担を減らすべく、HPポーションを飲みながら俺はオークへと攻撃していく。
「強パンチ!」
それに続くようにコーダとヒューも攻撃していく。
カインも隙を見ながら攻撃をしていく。
防御主体となっても、やはり≪斧術≫の威力は抜群だ。攻撃面だけで言えばヒューをも上回る。
とにかく耐え続けながらも攻撃を繰り返す。
しかし攻撃力の上がったオークの一撃と、回復要因を一人失ったダイチだけの回復では徐々に押し切られていた。
このままではカインがやられるのも時間の問題かもしれない。
それでも、そろそろオークのHPは二割へと到達する。次のレッドゾーンのトリガーだ。
「グオオオオオオオォォ!!」
二度目の咆哮。それはさっきと同じものだった。
再び気絶状態に陥れ俺たち。
もちろんその時すでにオークは攻撃を仕掛けていた。しかも赤いオーラが更に禍々しくオークを包んでいた。
斧を構えて、カインに一撃目を当てる。
前回ならすでに気絶が解けていたはずなのに、未だその兆候がない。
気絶の時間が長くなっている!
そして無防備なカインに、一撃目、二撃目と連続攻撃が当たる。その時点で俺たち全員の気絶は消える。
すぐに盾を構え直そうとするカインであるが、モロに攻撃された影響かその動きが鈍い。このままでは全部喰らってしまう。そうなればカインといえど助かる見込みもないはずだ。
少ない見込みを望んで、攻撃中のオークに俺は突撃してターゲットを外れさせようとする。ヒューもまた、素早く矢をオークへと当てて動きを止めようとしていた。だが、その効果は薄い。
そのままオークが三撃、四撃とカインを斬りつけていき、すでにカインのHPはレッドゾーンまで突入しようとしていた。
間に合わない、という想いが駆け巡ると同時に、背後からダイチの声が響く。
「グレイブ!」
同時にオークの目前の地面が勢いよく盛り上がった。そのせいでバランスを崩したオークの攻撃は空振りに終わる。
もちろんその隙を逃すはずもなく、カインは瞬時に盾を構えてシールドを掛けつつその後の攻撃を凌ぐに至った。
間一髪。ダイチのフォローがなければカインがやられてもおかしくはない状況だったはずだ。すぐにカイン自身HPポーションを使いながら、ダイチも≪回復魔法≫を施す。
俺とコーダとヒューは攻撃を続けていく。
オークのHPも残り僅かだ。
完全勝利とは言えないが、それでもこの調子なら、と思いを抱く。
もちろん油断はしない。
オークの動向に注視しながら攻撃をしていると、再びオークはその場で足踏みを始めたのだ。
「まずい、また全体攻撃だ!」
避ける術はない。
不安なのはオークはさっきよりも赤いオーラが強く揺らめいていることだ。興奮状態がもう一段階上になったとすれば、その威力はさっきよりも高いはずだ。
「来るぞ!」
そしてその全体攻撃はやはりと言うか、その威力が上がっていた。俺なんかはレッドゾーンまで持ってかれている。
周りを見渡すと今回も死者はいない。けれどカイン以外はみんなレッドゾーンだ。その中でもダイチとヒューのHPなんかは俺以上に少ないギリギリだ。
そしてオークの次の行動もさっきと同じだった。けれど明確な違いはある。
どこに持っていたのか知らないけど、両手に斧を持っているのだ。狙いはもちろん一番HPの低いダイチとヒューであろう。
そしてオークは同時に二つの斧を投擲する。
どちらを守るべきか。俺の思考はそれだけだった。
結果として、俺はダイチの前に躍り出て、その斧を受け流す。斧は軌道をそれて明後日の方向へと飛んでいった。
同時にもう一つの対象であったヒューが死を迎える。
アタッカーよりも、ヒーラーを選んだのだ。
どっちみちあの攻撃を助けれたのは俺だけだ。コーダじゃ無理だし、カインも前線からでは間に合わない。
咄嗟の判断であったが、もちろん理由はある。
ライアがいない以上、ヒーラーの変わりはいない。けれどアタッカーであるヒューの変わりはいる。
「カイン!お前は攻撃に回れ!」
「は!?何言って……!!」
カインの言葉を遮りながら、俺はその前へと出る。
「おいっ!?」
今の俺ではそのヘイトを奪いきるのは無理だ。ならば、考えられるのは一つ。
カインへの攻撃を前で、受ければいいだけだ。
「おーおー、漢だな、タクト!」
「……尊敬するっす」
二人の言葉に勇気づけられながら俺はオークの攻撃を受け流していく。
無論、タイミングを間違えれば一撃死は免れないであろう。
もはや賭けと言ってもいい。
けれど実際、その賭けは成功したわけだ。
カインも全力で攻撃に参加したおかげで、残りHPの少なかったオークはそう時間も関わらず死を迎えたのだ。
「おっしゃああああああ!!」
カインの雄叫びだけがその場に響いた。
キャラクター紹介 ダイチ
性別:男
身長:187cm
スタイル:魔法使い
レベル:10
スキル:≪土魔法≫≪杖≫≪魔力増加≫≪回復魔法≫≪精神増加≫≪瞑想≫≪詠唱≫
熊並みの顔と身長を誇るリアル中学生。見た目からすれば、完全に不良そのものだが、実際はそうではない。幼馴染と共にフリスタを愛するゲーマーである。その強面がギルドの面々からは大層面白がられている。自由騎士団所属、




