自由騎士団と新米三人組
「おい、てめぇ!何勝手なこと言ってやがる!」
俺たちの間にわけの分からぬ沈黙が漂ったが、それを真っ先に破ったのは向こう側のプレイヤーだった。
立ち上がって激昂するのは男。鎧を付けており、前衛なのは窺われた。短髪の黒髪が少しだけ凛々しく見えさせるのかもしれないが……しかし小さい。背が低いのだ。恐らく150cmを越えた辺り。女の子並みの身長、と言うよりも成長期前の男の子って言った方が正しい。事実その顔立ちは幼く、間違っていなければ中学生だと思われる。
彼とアレンさんではどう見ても、文字通り保護者、もしくは兄弟あたりか。ひとまずは暴言を吐いているのも少なからず信頼が築けているのは雰囲気だけで分かった。
そもそもアレンさんがその言葉を軽くあしらっているのだが。
「おーおー、そんな嬉しいか。良かったな、カイン。これでお前もボスをちゃんと倒せるかもしれないぞ?」
「ざっけんな!だから何でお前が勝手に決めてんだよ!」
「おい、カイン。ちょっとは落ち着け。初対面の人に迷惑だろうが」
二人のやりとりはいつものことなのか、他の二人は呆れるばかりであったが、終わらないと悟ったんだろう。一人がカインの肩を掴んで止める。
熊だ。熊がここにいる。
カインとやらの少年とは正反対ともなる巨漢。190cm目前だろう。プロレスラーを思わせるような風貌で、顔もハッキリ言って怖い人の部類に入る。そして目を疑うのが、その人の装備が茶色いローブを着て杖を持っているとこだ。
こんな強面のゴツゴツな魔法使いがいるのかよ。いや、偏見なのは分かってるんだけども。
そういやアレンさんが言っていたな。タンクに魔法使い、そして弓使い、だと。未だ発言もない残りの一人に視線を移す。
これまた男。背は残りの二人の中間ぐらいで、俺とそんなに変わらないだろう。しかし巨漢の男とは反して、これまた細い。見るからにガリガリだ。筋肉が付かずに、ただただ背が伸び続けたヒョロっとした印象を受ける。髪を伸ばして後ろに縛っており、その双眸は細く、ハッキリ言ってやる気があるようにはとても見えない。ボーっと様子を伺っているのか、静観したままである。
「なんつーか、チグハグなやつらだな」
コーダが総じて俺たちの意見を遠慮なく言い放った。
さすがだ。
「おい、そこのお前!誰がチビだって!?」
「いやいや、言ってないから」
思ってたとしてもな。
「何だよ、アンタら。早速仲良くやってんじゃねーか。なら、いいよな?ここで会ったのも何かの縁。互いに三人ずつで、メンバーを探してたんだ。ウィンウィンじゃねぇか」
そして何が面白いのか、とことん場をかき乱すこの人だ。どこをどう見ても仲良くは見えないし、彼らもいきなりこんなことを言われて戸惑っているようにしか見えない。一人は別だが。
アレンさんが言いたいのは要は、このカインという子たちとパーティーを組んで、ボスに挑めばいいという事。彼らもボスを倒す目的があるなら利害は確かに一致している。何よりタンクに魔法使い、アタッカーがいるのなら、俺たちにとって勝率は高くなるだろう。こんなとこでメンバーが増えるなら願ってもない話だ。
一応知りたいのは、この人たちの背景だな。
【黒騎士】と呼ばれる人とはただのフレンドなのか、そもそも彼らがこの話を承諾しているとは言い難い。と言うか彼らも突然のことに話を理解していないという事実。
「えっと……俺たちにとっちゃ願ってもない話なんですけど、とりあえずみなさんの関係は?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
軽くイラっとしたのはきっと俺だけじゃない。むしろこの人以外の全員がそう思ったはずだ。
「んじゃ、お互いに自己紹介しようか。俺はさっきも言ったけどアレンね。知っての通り、初心者のプレイヤーたちをイベントの時間までに王都へ行かせようと最後の追い込み中。なわけなんだけど、こいつらが何度もボスにやられてるくせに自力で倒したいって言ってゴネちゃってさ」
「変な言い方するな!」
「似たようなもんだろ?ちなみにこいつらも俺と同じ自由騎士団のメンバーね。つっても入ったばかりの新米で所属も第九分隊なんだけど」
第九分隊?そういやさっきアレンさんは本隊だとか言ってたような気もするな。
自由騎士団の中における階級みたいなもんだろうか。
疑問が俺の顔に出ていたのか、アレンさんが説明をしてくれた。
「自由騎士団ってのはフリスタの中でも人数だけで言えば完全にトップだからな。活動主旨は本当に自由で、攻略も生産もマッタリスローライフでもなんでもあり。もちろんノーマナー行為は追放だけどな。その中で俺たちベータプレイヤーにとっては初心者支援がそのうちの一つなわけよ。右も左も分からない、初心者プレイヤーを拾ってはゲームに慣れるまで支援。それで慣れた頃にはそのままギルドに居つく者や、抜けて新たなギルドに入る者、興す者と様々。出入りに関してもトップで間違いないってことだ」
「ギルドメンバーは確か最大三十人のはず……」
「そう。――自由騎士団――っていうギルドは三十人マックス。結成当時のメンバーがほとんどで、俺たちの中では本隊と呼ばれてる。ここにいるのが俺。そんで、それ以上に炙れるプレイヤーをギルドにいれるために姉妹ギルドとして自由騎士団第〇分隊ってのがいくつもあるんだ。最大メンバーになればその度に新たなギルドを作ってるから、当然机上論では無限にプレイヤーが入れる。最も抜ける奴も多いからデコボコなんだけどな。そんで最近ギルドに入ったこの三人が、第九分隊の所属ってわけ。数字はただの順番だから何の序列もないぜ。てことでお前等、ちゃんと自己紹介しろ」
要は、彼らにとってアレンさんは先輩というに等しいのか。さっきまでいろいろ反論していた小さな少年も渋々と名乗りを上げた。
「俺はカイン。タンクをやってる。ぜってー本隊入りしてやるんだ。だから俺は絶対助けなんかなしでボスを倒す!」
「俺はダイチっす。こんなでも魔法使いやってます。俺も概ねカインと同意なんで」
「僕はヒューだよ~。一応弓使い。やる気は正直あんまりないんだけど……」
「ヒュー!!」
「……とまあ、二人に連れられてやってる感じかな~」
なんつーか、本当に見た目とのギャップがある三人だな。
俺たちも揃って自己紹介をすれば、やはりというか何というか。
すでに評判の悪い歌使いに加え、あまり例のないミュージシャンや踊り子。三人の支援スタイルに、見たまんまいい顔はしていなかった。
逆にアレンさんだけが、本当に面白がるように興味を抱いていたようだったけど。
ともかく彼らの状況は理解した。
詰まる所は同じなのである。
助けを必要とせず、自分たちの力でボスを倒す。いくらイベントのためとはいえ、それを良しとしない考え方。
そういう意味では確かにお互いの間に共感の感情は行き来していた。
問題は俺たちのスタイルなんだろう。
俺たちからすればタンクにアタッカーは願ってもない条件だ。レベルも三人とも10だと言うし、最低限のレベルは確保されている。三人が頷けば、今すぐにでも挑みたいくらいには。
けれど、向こうからすれば支援スタイルが三人もいらないのは当たり前でもあるのだ。しかも≪付与魔法≫もない支援だ。訝しがるのも無理はないし、慎重にもなるだろう。更に言えば三人よりも確実に役立てる何かがあるとは言えないのが何よりも悲しい事実なのである。
何かを言いたげに黙考する三人を見かねて、俺たちに助け船を出したのは意外にもアレンさんだった。
「おいおい、何を迷う必要があるんだ?まさか、お前等パーティーを組む相手をスタイルで決めつけようって言わないよな?」
「そ、それは……」
「自由騎士団はガチ勢の攻略ギルドじゃないんだ。どんなスタイルの仲間とでもパーティーを組めなきゃ、それこそ本隊入りなんて夢のまた夢だろうな……。ま、お前等はその程度の器だったってことで……」
「やる!やってやるぜ!!」
アレンさんが言い終る前に、カインという小さな少年が力強く名乗り上げた。
マジか。
と、同じことをアレンさんも思っているに違いない顔だ。
なんつーか、扱いやすいってやつだな。
思わず目が合ってお互いに苦笑してしまった。
とはいえ、俺たちにとっては出来すぎた展開でもある。これを逃すわけにもいかないだろう。
「ありがとう、カイン。他の二人も良ければ、一緒にパーティーを組まないか?」
カインに比べれば、ダイチとヒューはまだ現実を見ている。
しかしだからこそ、このまま徒に仲間を募って時間を過ごすことも分かっているんだろう。
ダイチも賛成し、それに流されるままにヒューも参加を決意した。
もちろんこっち側も、誰も反対などない。
なんだか全部アレンさんに仕組まれたような気もしないでもないが、こうして無事に六人の臨時パーティーが結成された。
あとは無事に、あのオークを倒すだけである。
絶対やってやるからな!
フィールド紹介 西バランタイン街道
昔、始まりの街から王都へと街道を作ることに成功した。長き街道は魔物避けも施され、滅多なことがない限り近づかず、以来住民は安全に王都へと行き来できるようになった。しかしその街道も道のりが長く、決して完全な安全とは言えない。近辺では北西の山脈から度々あの亜人が迷い降りてくるくらいなのだから。
出現モンスター:ウルフ、ゴブリン、ハニービー、ホーンラビット、【BOSS】迷いのはぐれオーク




