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Carnival  作者: ハル
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街道のボスと奮闘

 ボスフィールドは街道の真っただ中で、見渡す限りの平原が見えた。

 もちろんボスフィールドは範囲が決まっているので、一定以上は進むことはできない仕様だ。

 俺たちが入ると同時に、突如上空より巨体なモンスターが降りかかる。

 人肌と変わらず、身に着けている者は皮と見られる薄い装備だ。素肌が多く見えるが、その肉体は鍛えているというよりも肉付きがいい。大きく出ているお腹にも注目がいくが、まず目につくのは顔だ。

 人ではない。特徴的な鼻が膨れ上がったその顔は豚を思い出す。豚顔の人型モンスター。

 いろんなゲームや話にも登場するオークだった。


「迷いのはぐれオーク……」

「レベル13。亜人種族の無属性。弱点は突けないわね」


 三人の中で唯一≪見識≫を持つライアが情報を共有した。

 ボスはまだ戦闘態勢には入っていない。仕掛けられるのはこちらからだ。

 オークの武器は片手斧。防具が薄そうだから防御力低い分、攻撃力は高めだと予想される。


「タクトに合わすぜ!」

「あぁ……、支援を掛けていくか」


 体長は二メートルほどだが、横幅が大きい分、体感ではそれ以上だろう。


「魅力の踊り!ステップダンス!」

「戦意のパッション!」

「守りの歌!精神の歌!」


 一番初めはライアの魅力の踊りからだ。これで少なからず俺たちの支援スキルの効果は上がる。

 それからAGIの上がるステップダンス。

 STRの上がる戦意のパッション。

 そして俺の≪歌≫。ボスの外見から判断すれば精神の歌は必要ないかもしれないが、グレイターバットの件もあったし万が一の保険で掛けておこう。

 準備はオーケーだ。

 どこまでいけるか挑戦してやるよ。


「強パンチ!」


 正面からオークの前に躍り出て、≪体術≫スキル強パンチを三発畳み込む。反撃とばかりにオークが斧を振り上げて予備動作を構える。

 動きが遅い。ゆっくりと斧を上げるその動作は分かりやすい。頂点まで振り上げ、そして縦に叩き付けるように振り下ろす。


「ッ……!!」


 危なっ!予備動作と違って攻撃そのものは素早かった。避けるのが遅ければ直撃してただろう。

 しかし次の攻撃までの間隔は長い。その間に≪体術≫を幾つか折り込んでいく。

 オークの二撃目。今度は斧を右上へと振り上げる。そのまま袈裟斬りだ。

 さっきと同じタイミングであるならば……ここだ!


「受け流し!」


 ≪柔術≫スキルの受け流し。

 腕で攻撃を逸らすべく、オークの攻撃を当たる寸前で発動することにより、大きく動くことなくオークの攻撃がブレるように逸れていった。

 間違いない。これは俺にとっての神スキルかもしれない。

 まあ限度はあるだろうし、タイミングもシビアには違いないが。

 けどこのオークの攻撃なら今ならなんとかなりそうだな。


「うっは!マジかよ!やるじゃん、タクト!」

「そうね……驚いたわ」


 二人の称賛が後ろから飛んでくる。

 一番驚いているのは他ならぬ俺なんだけどな。

 それにボスがパワーファイター型というか、一発が攻撃が高い分、動作が遅いからこそいけているだけだ。これがいつまで続くかも分からないしな。


「さって、俺も殴りますか!」

「私もこれならいけそうかな……」


 コーダだけでなく、ライアもまた攻撃行動に移る。

 コーダの武器はギターだ。≪演奏≫にも使うものだが、モンスター相手に恐れることを知らずにギターを振り回しているのは珍妙な光景でしかない。

 果たして、壊れないのだろうか。

 けど最初に言っていた通り、ダメージは低いがそこそこ。俺の強パンチとどっこいどっこいだ。スキルの攻撃は何でも全体仕様であり、単体相手は得意としないらしいのだ。

 対するライアの装備は短剣。オークの死角に回り込み、完全な安全の隙を見てそれを突き刺す。ダメージは俺よりも低い、ほんの少しだ。

 それに視覚的に言えば、短剣の短い刃ではオークの肉壁に阻まれている気がしてならないのは気のせいか……。


「武器のダメージが低いのは当たり前よ。それでも私はソロでここまでやって来たのはこの短剣のおかげ……ヴァイパーファング!」


 紫色のオーラを纏った短剣が再び、オークを突き刺していった。

 短剣のスキルか!


「≪剣術・短剣≫のヴァイパーファング。低確率だけど毒状態にするのよ。これがなかったらとてもじゃないけどソロなんて無理」

「おいおい、だけどボスだぜ?状態異常なんて掛かるのかよ」

「知らないわよ、そんなの!でも初めから無効だなんて決めつけるもんじゃないでしょ」


 まあそれもそうだ。けれどさっきの攻撃ではオークは毒状態には陥っていない。かといって無効というには早計であろう。

 試し続ける価値はあるよな。

 まあ俺に状態異常をするスキルは何もないけど。


「ヴァイパーファング!」


 ライアは諦めずに何度か攻撃を続けていく。しかし毒に掛かる気配は今のところない。

 幸いライアのダメージが低すぎるおかげで、オークのヘイトが彼女へ向かうことは一度もなかった。けれど一撃の振りは大きいので、その間は素直に後方へと下がっている。

 案外強かだな。


「毒ねぇ……なら、俺もいっちょやってみるか」

「あんたもあるの?」

「≪演奏≫の攻撃スキルに属性ダメージに状態異常が含まれてるんだよ。つっても状態異常は本当に確率低いけどよ。てかほとんど使ってなかったしな」


 コーダの発言は初耳だ。何となくこいつの性格的に戦略じみたものは余計なんだろう。


「毒はこれだな……哀愁のエレジー!ついでに情熱のマーチ!」


 コーダがギターをかき鳴らすと、水色の音波と続いて赤色の音波がオークを襲う。

 コーダのレベルで二つの属性攻撃に状態異常も付くとか、普通に≪演奏≫有能じゃねぇか?

 しかしオークの状態は未だ変わりはない。


「そう上手くはいかないよなぁ……。ちなみに≪演奏≫スキルは消費MPが高いから連発できねぇぞ」

「ヴァイパーファングならそれなりには使えるけど……≪踊り≫の支援を考えると使いすぎるわけには行かないわよね……」


 どうやら二人もMPについては苦労しているんだな。俺たちのスキルは全体効果がほとんどだからそのせいなのかもしれないが。

 とはいえ、これは試しの戦いだ。ここでオークに毒が効くのであればそれは大きな情報だ。


「今回はそれでもいいんじゃないか?二人で毒付加のあるスキルをつかいまくって、それで毒になればしめたもんだろ」

「それもありね……。コーダは?それでもいい?」

「オッケー!じゃMPのある限り使ってくぜ!」


 それから二人はヴァイパーファングと哀愁のエレジーを繰り返し使用していく。

 何度目かの後。


「掛かった!毒状態よ!」


 まさしくオークは毒に侵されていたのだ。紫色の見るからに毒々しいエフェクトがオークの身体を蝕んでいる。

 徐々に減っていくオークのHP。

 それはもはや……


「俺たちの攻撃以上じゃね?」

「おい、馬鹿。言うな……」

「……これが現実なのね」


 てんで笑えねぇけどな。

 最も毒状態も長くは保たない。程なくして止まるが、オークのHPは六割ぐらいまで減っていた。

 よし、この調子ならトリガーまではいけるな。

 未だにオークの攻撃は単調なものばかりだ。トリガーまでいけばそれからは変わるであろうが、ここまでなら俺でも行けることは分かった。

 それから数分。

 三人で攻撃を繰り返したことで、オークのHPは五割へと到達する。

 そして途端にオークは咆哮を上げた。


「オオオオオォォォ!!」


 耳を塞ぎたくなるような絶叫に、俺たちの身が竦む。

 動けない!

 何かの状態異常。これは気絶だ。実際には気を失っているわけではないが、一切の行動が出来なかった。それに陥ったのはほんの数秒だ。

 治りかけた頃にはオークは目の前に迫っていた。赤色のオーラに覆われ、見るからに狂暴性を秘めている。

 そして斧を振り上げて攻撃をする。


「受け流し!」


 咄嗟に一撃を受け流す。

 これで無事に生き残れたはずだった。

 今までならば――


「タクト!」


 オークの攻撃は止まらなかったのだ。そのまま二発目、三発目と連続で斧を振り回す。


「まじ、か……」


 受け流しが出来たのは二発目までだった。直後に三発目を浴び、俺のHPは半分を下回る。そして態勢を整える間もなく、四発目が俺を襲った。


「うん、やっぱ無理だよな」

「……ここまで行けたのがある意味奇跡ね」


 俺が死んだことによりオークの視線は二人を向いていた。

 ギラついた目は未だ変わることなく、二人を獲物と捕らえている。

 もはやコーダもライアも諦めているんだろう。

 まあ、無理もないか。

 ライアの言う通り、本当にここまで来れたことが良い情報にも繋がったのだから。

 何とか抵抗して戦おうとした二人であるが、大した時間を稼げることもなく俺たちは揃って始まりの街まで転送された。

 死に戻りとして。


スキル紹介 演奏


――≪演奏≫ 技能スキル

楽器によってさまざまな音楽を奏でる

レベル1 基礎のエチュード

レベル5 情熱のマーチ

レベル10 戦意のパッション

レベル15 哀愁のエレジー

レベル20 ???

適正武器:楽器系統


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