パーティー募集と新たな出会い
日曜の朝。タイムリミットまで約六時間。今日果たすべきミッションは一つだけだ。
街道に出現するフィールドボスの討伐。
イサナギたちの話ではイベントの情報は一週間も前から発表されており、多くのプレイヤーが参加出来るように三大ギルドの一つである自由騎士団が動いているらしい。
何でもパーティーに一人から二人ベテランのギルドメンバーが参加し、手厚いサポートを受けられるのだ。
勿論、それを受け入れる受け入れないは人の自由である。
攻撃も回復も一切手だしをせず、ただ指揮を出して欲しい人もいれば、弱点や攻略法だけを伝授して自力で戦おうとする人、程よく戦闘を手助けして欲しい人、なかには完全に彼らだけに任せてもいい、と言う人さえいるらしい。最も一番最後の人に関しては自由騎士団としても本当にいいのかしつこく尋ねているらしいが。まあ、もはや完全に寄生だもんな。
とはいえ、イベントに参加できるのなら最初のボスに拘る理由があるかないかなど本当に人それぞれなんだろう。王都へと辿り着けば、それこそ冒険の選択肢は幅広くなるのだから。
ちなみに俺は分かっていると思うが、完全に自力で行きたい派だ。まあ情報くらいなら貰うらのもアリだ。……時間の猶予もないし。
ここまでが現在の状況だ。
そして、少し考えれば分かってもらえると思う。
この一週間の間に、すでに多くのプレイヤーが王都入りしていることを。
「残念だけど、街道のボスを相手とする条件に合ったパーティーの募集は今はないわね。昨日の夜がピークだったんだけどねぇ」
「……ですよねぇ」
申し訳なさそうで、どこか嬉しそうにも見える声で答えたのはグラマラスな美女。システムNPCでもある酒場の店主、二葉さんだ。
一週間前にトオルさんたちと出会って以来の来店なのだが、あの時と比べてすっかり人は減っていた。それこそ俺と同じように自力で頑張ろうとする人たち数人と、残っている者はいないかと初心者を探す自由騎士団のメンバーだけだった。
前者には自分から声を掛けた。良かったらどうですか、と。
もちろん返答はNGだ。歌使いと言った途端に態度を変えるのだから、俺のメンタルもそろそろヤバそうである。ここ最近に見なかった反応だから尚更だ。
後者は向こうから接触してきた。しかし俺はやっぱり自分でボスを倒したい。だからこそ、その誘いは断った。それでも気が変わったら、と言ってくれた自由騎士団は噂の通りとてもいいギルドなんだろう。
「しかし、どうするか……」
まさかすでにこんな状況に陥ってるなんて思いもしなかった。
そんな悩みに悩む俺に声を掛けてくれたのは、二葉さんだ。
「だったらあなたがパーティーを募集すればいいんじゃない?」
本当に面白そうな声で彼女は淡々と告げた。
俺が?パーティー募集?
パーティーを募集するには、基本的に酒場でリーダーとなるプレイヤー自ら登録する必要がある。フレンド同士などでは直接やり取りできるが、所謂野良パーティーと呼ばれるものは大抵がそうだ。
当然パーティーを募集する側なのだから、ある程度明確な募集要項が求められる。レベル、スタイル、などなど。当然それはリーダー自らも明かすのが最低限のマナーだ。そしてその情報はプレイヤーが街中やフィールドにいても情報として見られるようになっていた。メールで参加希望を伝えるも良し、直接会いに行くも良しだ。
ただでさえ、断られてるというのに、いったい誰が歌使いが募集するパーティーに入るというのか。
それが一番の問題でもあるのだ。
「でもそれで集まるならワンチャンいけるか……?」
二葉さんはどうする?と、とても楽しげな笑みでニコニコと俺の様子を伺っている。
いったい何なんだ、この人は。
まあこのまま当てもなく探すよりはやってみるか。誰も集まらなければそれまで。並行しながら自ら探してみるのもいいだろう。
そんな軽い気持ちも含みながら、結局俺は二葉さんにパーティー登録をする。
「オーケーよ。えぇっと……、募集主はタクト。レベル12の歌使い。スタイル問わず街道のボスを倒すパーティーを募集と。……間違いない?」
「はい」
見るからに何なんだ、と思うようなパーティー募集でもある。これで全員後衛職が来たなんてことには目も当てられないが、それはその時。話し合って決めるとしよう。
まずは誰でもいいから同じ目的の人物をパーティーに引き入れることだ。
もちろんハナから期待など大してしていない。
来ればいいな、とそんな程度の思いだった。
同時に、誰でもいいからと同じようなパーティーがないかと張り込もうと、ここでしばらく待機することにする。
約十分。人の出入りも相変わらず少ない。期待は出来そうにないかと思った時であった。
二人のプレイヤーが同時に酒場へと入店してきたのだ。
「おいっ!ここにタクトってプレイヤーはいるか!?」
「歌使いの人いますか!?」
二人の言葉に、思わず俺は入口を凝視する。他にいたプレイヤーたちも何事かと興味深そうに事態を眺めていた。
どちらも同年代と思える男女のプレイヤーだった。
一人は金髪のチャラそうな男。ウルフカットのパッと見イケメンだが、外見の装備は俺と大して変わらない布製の装備だ。
もう一人は黒髪ショートヘアの女子。露出的な装備をしており、絶対男からの視線が絶えないはずだ。
なんだろう。どっちも見たことがある気がした。
同時に入ってきた二人だが、特段知り合いではないようだが、お互いの言葉に目的が一緒なのだと悟り目を配らしていた。
「あ……」
思い出した。
立ち上がって言葉を発した俺に、二人が視線を向けてくる。本能的に俺が歌使いのタクトだと悟ったんだろう。
こうして視線が合うと、やはり間違いではないはずだ。
「ラビットにやられてたギター使いと、ここでナンパされていた女の子……」
確信しながら呟くと、それが聞こえた二人はそれぞれ反応を示した。
「なっ!?見てたのか……!?あれはまだレベル1だったからだぞ!?決して弱いわけじゃないからな!」
「あなた……あの時の!!……まだ礼を言っていなかったわね。……あの時は声を掛けて助かったわ。それと、すぐに落ちてごめんなさい」
男に関してはまあたまたま見かけただけだ。初日だったし別に無理もないのかもしれない。それに本当はあの時声を掛けようとした相手とこうしてチャンスが巡ってきたということだ。
女の方はトオルさんたちと出会った時に、ナンパ男に困っていたので声を掛けた時の女人だった。あれからすぐに落ちたようで、これっきりフリスタを辞めたら可哀想だなと少し心配をしていた。けれどこうしてみるとそれも杞憂に終わったようだ。
「……えっと、二人とももしかして俺のパーティー募集に?」
「あぁ!俺も王都に行きたいんだよ!」
「私もよ。イベントも見てみたいし」
まじか。期待もしていなかったパーティー募集に二人も来てくれるなんて。
しかもどちらもゲーム内でニアミスをしているのだ。これも何かの縁かなんだろうか。
「じゃあとりあえず自己紹介でもするか……俺はタクト。スタイルは歌使い。一応支援向きだ」
「俺はコーダ!スタイルはミュージシャンだな。俺は支援もあれば攻撃も一応あるって感じかな。アタッカー寄りの支援スタイルだ。ダメージには期待できないけどな!」
「私はライア。踊り子のスタイルよ。……私は反対に回復向きの支援なのかな。前衛はとてもじゃないけど無理。回復もとてもじゃないけどヒーラーの真似は無理よ」
そうかそうか。コーダにライアな。これからパーティーを組むメンバーとして、その名を記憶に深く刻む。
しかもスタイルがミュージシャンと踊り子って、もはや運命なのか?音楽関係のスタイルが三人同時に揃うなんて。
二人はいったいどんなスキルを使うんだろうか。スキル構成は?何を取っているのか参考までに聞きたいくらいだ。
…………。
なんて、軽い現実逃避をしても仕方がないよな……。
少しばかり気まずい沈黙が漂よっている。みんな何て言ったらいいか分からないんだろう。
「……とりあえず、他の人を待つか」
「そうだな。あぁ、それがいいと思う」
「……誰が来ても文句は言わないわ」
お分かりだろう。
集まってくれたのは大変嬉しいのだが、俺たち三人みんな支援向きのスタイルなのだ。さすがにこれじゃボスも難しいよな……。それは俺だけでなく、きっと二人も感じているからこその若干の気まずさなのだ。
まあ少し雑談でも交わすか。
「ところで、二人のレベルは?」
「俺は13だな」
「私は今朝10に上がったばっかよ」
意外にも、コーダのレベルは俺より上だった。13となれば、始まりの街付近では適正レベルも超えてるよな。もう少し遠くに行けば別だが、レベル10を過ぎた頃には王都行きを考えるのが普通だ。まあ俺もあんまり人のこと言えないけど。
逆にライアは今日になってギリギリ駆け込んだようだった。先週に会っているのだから始めた日が遅かったわけではないんだろう。
「なるほどな。ライアはともかく、コーダはそのレベルなら昨日とかにもボス討伐のパーティーに参加出来たんじゃないか?」
「んー、まあそうなんだけどな……」
どこか歯切れの悪い言葉で濁しながらも、その理由を語ってくれた。
「支援向きっても、俺のスタイルってかなりマイナーなんだよな。ミュージシャン?何それ?って反応がほとんどでさ。全然見向きもされねぇの。説明すれば、なら≪付与魔法≫でいいって言われるし、かと言って接近戦は弱いから話にならないとさ。まあ確かに間違っちゃいないんだけど、俺は好きでこのスタイルでやってんだよ。頭来たからこっちから願い下げたっつってな。それからは延々と西バランタイン街道でレベル上げしてたら気づけば13になってたって感じ。けどさすがにこのままじゃいかないと思ったし、タクトの募集にスタイル問わずってあったからつい、な……」
苦労したんだな、コーダも。
半分ぐらいはめっちゃ身に覚えのある話でもあったけど。
だからこそ、コーダの気持ちは十分に理解できた。≪付与魔法≫がなくて何が悪い!ってな。
「安心しろ、コーダ。俺もそんなスタイルだ。同じ音楽系スタイルだし、お前とは仲良くなれそうだな」
「タクト……お前、いいヤツだな!」
感極まるように、コーダが抱き着こうとしてきた。
だが、ごめんだ。
「全く、男ってのはホントに良くわかんないわね」
呆れたように放つのはライアだ。
「ライアは?あれからあの男に会ってはないのか?」
「……おかげ様でね。というかここに来たのもあれ以来よ。ゲームでも男は馬鹿ばっか。あれから私もずっとソロで狩ってただけでようやくレベル10。けど、イベントは見たかったしこうやって思い切って募集に乗ってみたんだけど、まさかあなたに会えるとは思わなったわ」
いやいや、男全員をあんなやつと同じにされては敵わないんだけどな。でも少しだけでも前向きになっているのならそれはいいことなのか。
よくは分からなかったが、とりあえずライアは男という生き物があんまり好きではないのは予想された。
二人の状況もだいたい分かったし、とりあえずは残りの三人を待つか探すかだな。もう少し雑談しながら様子を見ることにしよう。
キャラクター紹介 コーダ
性別:男
身長:174cm
スタイル:ミュージシャン
レベル:13
スキル:≪演奏≫≪ギター≫≪魅力増加≫≪音楽≫≪狙う≫≪集中≫≪気配察知≫
ラビットに殺された場面を目撃してしまった、金髪のギター使い。同じ音楽系のスキルを取っていることもあり、タクトとも話が合い、実年齢も同年代だと後に知る。
チャラい要素を存分に持つものの、根はいいヤツである。




