食レポと新たなスキル
ようやく一山を終えたって感じだな。
大きなことを成し遂げた充実感が俺の中を巡っていく。
事実そうだし、今日の出来事はフリスタを初めてから一番衝撃的な日だったし、多分この先も匹敵することなんてそうそう起きやしないだろう。
「……サービスだ。食いな、体力がつくぞ」
一日を振り返って考えていると、お茶だけしか飲んでいなかった俺の前に一つの食事が置かれる。
無愛想ながらも、心が籠った言葉。和装の姿に、厳つい顔。ただし、頭は少し寂し気だ。
食事処<団欒>の店主、ゲンゾウさんである。
俺がここへ通い始めてから、まだ一週間と少ししか経っていない。それでも常連となった俺に、彼はこうして気まぐれに無償で料理を出してくれたりする。話を聞けば、何と兄貴も初心者の頃によく通っていたらしく、当時の兄の話を教えてくれたりもしたのだ。
もはやここは俺のオアシス。ホームと言っていい。まあ大げさだけど。
「ありがとうございます、ゲンゾウさん」
ローラさんがここに駆け込んできたのだから、彼もまたある程度のいきさつは知っているはずだ。だからこそ、こうして労ってくれたんだろう。
礼を言うも、そっぽを向いて頷くだけだった。それがまた、ゲンゾウさんらしい。
今日は何の料理かな。そう思い、カウンターに置かれた皿を見る。
焼き鳥、だろうか。
串に刺さった肉っぽいものが二本。甘そうなタレがからんでおり、食欲を刺激される。
その一本を豪快に口に含んだ。
「うまっ!」
思わず声を大きく出してしまった。同時に、ゲンゾウさんは俺を一睨みだ。少しでも声を大きくすると彼は大抵気分を害するのだ。
最も、今この場には俺とゲンゾウさんしかいない。にも、関わらずである。
とてもジューシューで濃厚な口当たりだ。匂いでは甘そうだったタレも、実際は甘辛くそれがいい感じに口の中で絡み合う。
しかし、鳥肉ではなさそうだ。どちらかというと豚肉に近い。
「これ何の肉ですか?」
「ゴブ肉だ」
ブ八ッ!
咽て、少しだけ吐き出してしまった。
もちろんジロリと、射殺しそうな視線でゲンゾウさんが睨んでくる。
「す、すみません……」
申し訳なく思うものの、驚くのは当たり前だ。
まさか、ゴブリンの肉だなんて誰が思うのか。てか食べようという発想に思いつかないだろ。
が、だからと言ってそこで食欲がなくなるわけではない。
このゴブ串は確かに美味いのだから。
あくまで咽たのは驚いてのことだ。何せさっきまで散々戦った相手なんだから。
しかしストレイドッグのステーキと同様、受け入れるのは一瞬だった。
あくまでもゲームの中なんだし、モンスターの肉が食事に流用されるなんて当たり前だもんな。……だよな?
「ゲンゾウさん、ごちそうさまでした」
「……おう」
思わぬ食事にありつき、再び一息をつける。
本当はここでくつろいでいる場合じゃないんだけどな。
明日の昼すぎに始まるイベント。それを見るためには、王都へと辿り着かなければならないのだ。
イサナギとミカンも準備に忙しいようで、結局街道のボスの手伝いの話はなくなった。最もあの話だけでは俺が到底受け入れられなかったけども。
さすがに今日一日がハードすぎたので、これからというのは無理だ。
つまり、明日の昼までにはボスを倒す必要が出てくる。
果たして、いけるのだろうか。
ゴブリンシャーマンと戦ったことにより、割と自信は付いてきたような気もするんだけどな。
あ、そういや思い出した。
レベルも上がってたし、それに新しいスキルのメッセージもあったよな。折角だし確認してみるか。
レベル:12
HP 210/210
MP 460/460
STR 12
INT 12
DEX 12
VIT 12
MND 12
AGI 42
LUK 12
CHM 77+10
BP:0
≪歌Lv20≫≪声量Lv22≫≪魅力増加Lv10≫≪体術Lv11≫≪音楽Lv20≫≪瞑想Lv6≫≪祝福の賛歌≫≪空き≫≪空き≫≪空き≫
SP:10
まずレベルが上がったBPはCHMとMPに振った。これは今日の戦いの≪歌≫の出番のなさが悔しかった思いからだ。
やっぱり歌使いとしては効果の高い≪歌≫を幾らでも歌うべきにしないとな。
後はスキル。新しく覚えらえるスキルがNew欄に二つ出ていた。
――≪柔術≫ 技能スキル ≪体術≫からの派生スキル
素手で敵を躱すことを得意とする武術。
レベル1 受け流し
適正武器 すで
――受け流し ≪柔術≫スキル
対象の攻撃を受け流す。ダメージはない。消費MP1
――≪下剋上≫ パッシブスキル
レベルが5以上高い相手に限り、与ダメと被ダメにボーナスを得る。
≪柔術≫と≪下剋上≫の二つ。
まず間違いなく、≪柔術≫は取りだ。俺のスタイルじゃ≪体術≫よりも絶対いい。迷わずこれは取った。
≪下剋上≫は微妙だな。多分ゴブリンシャーマンや上位種のゴブリンたちと戦った影響なんだろうが、今後そんなレベルが高いモンスターを相手にする予定はない。それこそ今日みたいな状況にならない限り。
レベルが5以上ってことは赤ネームか。ボス相手ならあるいは出番があるが……、他にめぼしいものもやっぱりないし、取ってみるか。SPも余り気味だしな。
結局新しい二つのスキルは取った。これで今のスキルはこうだな。
≪歌Lv20≫≪声量Lv22≫≪魅力増加Lv10≫≪体術Lv11≫≪音楽Lv20≫≪瞑想Lv6≫≪祝福の賛歌≫≪柔術Lv1≫≪下剋上Lv1≫≪空き≫
SP:4
スキル紹介 下剋上
――≪下剋上≫ パッシブスキル
レベルが5以上高い相手に限り、与ダメと被ダメにボーナスを得る。




