ドロップとユニークアイテム
半ば夢であるかのような錯覚を感じる俺たち。
誰もが呆然と言葉を発さずに、ゴブリンシャーマンが消えた位置から目が離せなかった。
まるでそこに再び復活してしまうような気がしてしまうのだ。
だけどいくら経とうが、ボスはおろか敵は現れない。
静寂のその場に音が響いたのは奥からだった。
祭壇上の棺。そこから微かに音が漏れる。
子供の声が。
「ん……あれ、ここどこ……?」
寝ぼけるかのように身体を起こすチャン。
……良かった。本当に良かった!
チャンもチャムも無事だ!
「チャン!!」
俺はすぐにチャンの元に駆けよる。当然後ろからチャムも一緒に付いてきている。
「タクト兄ちゃん……?何だよ、そんな顔して……チャムまで」
「無事なんだな!?怪我もないか!?」
「チャン!良かった……!心配したんだから!」
俺とチャムでひとしきりチャンの身体を診て無事かどうか確認していく。
どうやらチャンは記憶が混濁してるようで、花畑にいた時以降の記憶が分かっていなかったようだ。
外傷もどこにもない。文字通り、無事に救出出来たんだろう。
ここまでの経緯をあらかた説明すると、チャンは大層驚きながらも「俺も戦いたかった」と言うのだから、こいつは将来大物になるに違いない。
後は始まりの街に帰ってローラさんに二人の無事を報せるだけだ。
けれどその前に、
「イサナギ、ミカン。それに【コンダクター】さんも……本当にありがとう!みんながいなければ絶対に二人は助けられなかった」
深々と、頭を下げた。
言葉では言い表せない。態度でも示しきれない。それほどまでに、俺は三人への感謝でいっぱいだった。
イサナギもミカンも元はリアルの知り合いで俺の親友だ。当然当たり前というように、何も感じてはいないだろう。
男も本意は分からないが、どうやら遺跡の内部に興味があるようだった。半強制的に付いてきたのだし、俺の感謝など必要としていないだろう。
けれどそれでもだ。それでも、俺は三人に大きな恩を感じている。
チャンとチャムを、二人を心配していたローラさんを、俺に助けを求めた人を、助けられたことに。
それがどれだけ俺の中で昇華しきれない想いになっているかなんて誰にも分からないはずだ。俺自身でさえも。
「御託はいい。それよりも説明してもらおうか。このクエストの正体。それにお前のユニークスキルとやらを」
ブレない。マジで。この人は。
ある意味尊敬に値するな。
「おい、【コンダクター】!それはマナー違反だろうが!」
それに喰ってかかったのはイサナギだ。あれだけ長い間共闘したのだから、仲間意識が芽生えたんじゃないかと少なからず思ったが、うん、勘違いだな。
「ちっ……」
イサナギの言い分も男は理解しているのだろう。盛大に聞こえる舌打ちをしたが、それ以上は追及する様子はなかった。
だが肝心の俺自身が、別にそんな情報漏らしてもいいと思っているのがきっと問題ではあるんだろう。最も誰にでも、というわけではない。ここで戦ったからこそだ。
「あー、俺は別にいいですよ。減るもんじゃないし」
「タクト!?」
「いいじゃんか。この人に助けられたのも事実だし。何かお礼もしないとだよな……。あっ!!」
そうだ。余りの感動に忘れるところだった。
ボスからのドロップがあるじゃないか。
パーティーを組むにあたってドロップ分配の方式は複数ある。
素材、レアを含み完全にランダム方式。素材だけランダムでレアはサイコロ方式。一時的にリーダーの元にいき、分配方式。全てサイコロ方式。
設定は分配方式になっていた。もちろん俺がパーティーを結成した時にはそんなことを考えている余裕なんてなかった。。
ボスからドロップされたのは三つ。
ゴブリンシャーマンの呪杖。
ルビー。
アヴェリティアの鍵。
当たり前だけど、俺にとっては全部初めて見るものだ。
どれどれっと。
――ゴブリンシャーマンの呪杖
ゴブリンシャーマンが愛用していた呪杖。その出自は謎に包まれており、滅多にお目に掛かることはできない。
MATK+250
INT+8
――ルビー
深紅に光る宝石の一種。換金すれば高額の富を手に入れられる。
――アヴェリティアの鍵
用途不明。
ユニークアイテム。譲渡・売買・廃棄、不可。
……何だろうな、これは。
盛大に突っ込みたい所はまず一つだ。
「ユニークアイテム……」
ボソッと呟いただけなんだが、耳聡く三人はそれが聞こえたようだ。
「タクト、お前今何て言った!?」
「ユニークアイテム!?嘘でしょう!?」
「スキルだけじゃなく、アイテムまでもか……!」
反応良すぎじゃないですか、みなさん?
つーか俺自身このアイテムが何なのか分からないし。
「アヴェリティアの鍵ってやつだな。用途不明と書いてるし、譲渡売買廃棄不可ってどうすりゃいいんだ……」
本当にどうすればいいかも分からない。ひとまず持っておくだけするしかないみたいだ。
しかしその名を聞いた男が過剰に反応を示した。
「アヴェリティア?今、そう言ったのか!?」
なんだ、いったい?
確かにそう言ったが、男は何かを知っているのだろうか。
そう尋ねる無言の視線が俺だけでなく、イサナギとミカンからも注がれる。
「……アヴェリティアというのは、この遺跡の名前だ」
「は?」
「え?」
「嘘ッ!?」
俺だけじゃない。二人も驚きを隠せない様子だ。
それを知らなかったということだ。
男はさも当たり前のようにそれを説明する。
「≪言語学≫を持って、この遺跡を調べればそれは分かる名前だ。最も、そんな奇特な人間などいないのだろうがな」
まあ目の前に一人いるみたいですけどね。
それはさておき、それが分かったところでどうしようもない。
結局この鍵は用途不明であり、譲渡も不可だ。お礼にとも思ったが、渡せぬものは仕方がない。
「アヴェリティアか……。ますます気になるな」
探究心が凄いのか、男は考えるように自分の中に閉じこもっていく。
しかしいつまでもそうしても仕方がないだろう。
残るドロップ品の二つ。
これらを分配する必要がある。
まず一つはゴブリンシャーマンの呪杖だ。
もちろん、これはミカンにだよな。
「んじゃ、ミカンにはボスが杖をドロップしたからやるよ。残りは一個だから……【コンダクター】さんに」
残るルビーは男へと分配する。
イサナギには何もないが、仕方がない。それで文句を言う奴でもないだろうし。
「嘘……!何この杖!」
ゴブリンシャーマンの呪杖を受け取ったミカンが驚きの声を上げている。
そんなに凄いものなのか?
生憎と俺にはその価値が分からない。まあ、すごい強そうなのは分かってるけどな。
「これはまた……けどミカン向きじゃないな」
「ん?そうなのか?」
「そうね。確かに私は杖がメイン装備だけど、これはヒーラーじゃなくてアタッカーの魔法使い向けね」
あぁ、なるほど。確かにステータスもINTの補正が掛かっていたしな。
でもミカンたちのパーティーには魔法使いもいたはずだよな?それならその人に渡ればそれでいいだろう。二人のパーティーが底上げされるなら、それこそ礼になるだろうし。
「なら、パーティーの人に譲ってよ。どうせ俺には使い道ないし」
「おい、いいのか?売ればかなりの額になるぞ」
「別にいいよ。よくは分かんないけど、結構強いんだろ、それ。それでイサナギたちのパーティーの攻略が捗るなら俺も嬉しいし」
それは俺の本心からの言葉だった。
なのに、二人揃ってクスッと笑っている。なんでだよ。
「まあ、タクトがそう言うなら有難く貰っとくわ」
「こりゃヴィータの驚く顔が楽しみだな」
知らない名前が聞こえたが、それがイサナギたちのパーティーの魔法使いの名なんだろう。
「……俺は宝石はいらん。お前に譲ろう」
イサナギたちとの会話が落ち着くと同時に、男がルビーをイサナギへと譲渡していた。
これはこれで驚きの場面である。
「は?マジで言ってんのか?」
「あぁ。俺への報酬というなら、それこそ情報を話してもらう。それが俺の望みだ」
やっぱり、この人は本当にブレなかった。
「分かりました、いいですよ。けど、一つだけ条件を追加していいですか?」
「……何?」
「名前です。あなたの名前を俺は知りたい。もちろん口外はしません。イサナギとミカンにも絶対約束させます」
「…………」
男は何かを考えるように熟考していた。
≪認識阻害≫を付けいているのだ。それなりの理由があるのかは知らなかったが、そう簡単に名前ですら知られるのを嫌がっているのは分かる。
そして男の名を知りたかったのは俺の願いだ。
男は俺と同じく音楽系のスキルを習得している。だからこそ、出来るなら名前を知って今後に繋げられたらと思っているのだ。
男もまた、ユニーク関係について知りたいのだろう。何の目的か≪言語学≫を以て、この遺跡を調べてぐらいだ。
やがて、決意するように自ら名を一言告げていた。
「……アインス。それが俺の名だ。ここまで言わせるだけで大したもんだな、タクト。さすがはあいつの……」
え?今、なんと言った?
小さく消えたその後半の声は俺の耳には届かなかった。
ただ分かったのは、【コンダクター】の名前がアインスだということだけだ。
キャラクター紹介 アインス
性別:男
身長:180cm
レベル:31
スタイル:???
スキル:≪?≫≪?≫≪魅力増加≫≪銃術≫≪銃≫≪見識≫≪認識阻害≫≪言語学≫≪?≫≪?≫
名もなき遺跡で出会ったベータプレイヤー。一匹狼の存在だと知られ、二つ名に【コンダクター】という名がある。
≪認識阻害≫を持っており、本名を知っているプレイヤーは数少ない。




