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Carnival  作者: ハル
30/68

レッドゾーンと結界

 どれだけこの戦いは戦況が変われば終わるのだろうか。

 ここに来て、新たなキーマンが出来てしまった。

 チャムだ。俺の後ろを付いてきた彼女は、ただ一心にチャンを救いたかっただけだろう。

 それが今、妙な結界を用いて俺を助けてくれた。しかしその代償は、ボスから完全にチャムを認識されてしまった。

 このままではまずい、と焦燥が駆られる。

 ボスが動き出した。

 そしてそれと同時に――


「選手交代だ!タクト、お前はチャムを何が何でも守れ!」

「イサナギ!!」


 完全復活を果たしたイサナギがボスの前に躍り出る。挑発でヘイトを取り、ボスの攻撃はイサナギに向く。

 だが俺には分かった。

 それでも尚、ボスはチャムに意識を向けてることを。

 俺はすぐにチャムの元に走る。


「チャム!」

「お兄ちゃん、大丈夫?私、守るよ。お兄ちゃんも、みんなも」


 チャム、なのだろうか。何かに憑かれているようにも思えた。

 ただそれでもあどけない笑みを浮かべた彼女は、間違いなく俺の知るチャムなんだろう。

 今は余計なことを考えるべきじゃない。

 チャムは絶対に守る。そしてあいつを倒してチャンを救う。それが俺のやるべきことだ。


「よし、第二ラウンドだな。行くぞ!」


 イサナギとボスが対峙する。ミカンはサポートに徹し、忘れがちだが男は未だにグールを相手取りながらボスに照準を定めていく。

 上手い。

 距離を取りながら、グールを寄せ付けていないのだ。時折撃っているのは、威嚇射撃というスキルなんだろう。グールが怯む隙に、それこそ最大級の火力をボスへと当てる。慣れた戦い方なのが理解できた。

 俺は再び戦況を見守るだけに徹した。ボスの一挙一動を見逃さず、チャムを守り切る。それが今の俺の仕事だ。


「グググググ」


 思うように攻められないボスも焦れているんだろう。相変わらず時間はかかりつつも、ジワジワとボスのHPを削っていく。

 そして、また長い時間を経てようやくと言うほどに、第二のトリガー。レッドゾーンでもあるボスのHPが二割を切った。


「踏ん張れよ、タクト!」

「そっちこそ!」


 もはや大した言葉を投げる必要もないだろう。

 互いにエールを送り、ボスの挙動を見守る。


「ヨモヤ、ココマデトハ!ナルホドナルホド!甘ク見テイタヨウダ!」


 再びボスは杖を天に掲げた。そして現れる巨大な魔法陣。

 心なしか一度目よりも禍々しく見えた。


「今度も取り巻きかよ……面倒だな!」


 数の差は大きい。

 取り巻きを召喚するタイプのボスは、よほど強固なタンクが必要か、多くはターゲットを分散させる必要がある。それに加えて素早い殲滅力も要求されるため、必然的にパーティーの人数が少ないと厳しい一面があるのだ。

 立て続けに取り巻きの召喚が成されようとしているのだから、それは悪態が吐かれてもおかしくはないだろう。

 現れたゴブリンはさっきと同じ六体。三種類のゴブリンが二体ずつだ。しかし、そのどれもが見たこともない個体だった。

 純白の剣と盾、そして兜に鎧。神々しいその装備は緑色の醜い肌にはとてもミスマッチとしか思えない。それでもその強さは遥かにゴブリンナイトを上回ることが予想された。

 巨体な斧。そのゴブリンだけは他と比べて身体も大きく人間並みに大きかった。ふてぶてしい顔をしながら、その斧を悠々と弄ぶ姿は貫録しかない。

 影が薄い。意識しなければそこにいるのも忘れそうになるほど。鋭利な短剣を手に持ち、黒い革鎧に身につけている。人を殺しそうな視線を浮かべるのは影に生きる者の証だ。

 ゴブリンパラディン。ゴブリングラディエーター。ゴブリンアサシン。

 どう見てもヤバさしか感じないやつらだった。


「おいおい……マジかよ」

「【コンダクター】さん!」

「……全員レベル50だ。気を引き締めろ」


 男からもたらされた最悪な情報。ボスと同じレベル。というか50って本当に何なんだよ。


「ウォークライ!」

「マリオネット!」


 イサナギがまずヘイトを集め、そして男は今までと同じようにゴブリンを操ろうと動く。

 しかし意に反してどのゴブリンも動きを変えない。


「敵のレベルが高すぎる!」

「……長くはも持たないぞ!」


 六体の攻撃はそのどれもが凄まじい。ボスにもひけをとらぬほどだ。イサナギのHPはみるみる減っていく様が分かった。

 ミカンのヒールだけでは足りないのだ。

 どうすれば、どうすればいい。

 ハッキリ言って絶望的な状況だ。ここにきて万事休すなんて絶対に嫌だ。

 俺が取れる行動は一つだけだ。

 だが――

 チラリと後ろにいるチャムを振り返った。

 彼女を守らなくてはならない。それを放棄してまで、やるべきなのか。否か。

 その判断が俺には分からない。

 けれど、意外にも背中を押したのはチャムの方だった。


「大丈夫」

「……え」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 全てを悟るようにチャムは俺へと語りかけた。そして、彼女の口から何かの言葉が零れていく。まるで祝詞のように聞こえるそれは、やがて俺とチャム二人を包み込む結界を形成させていた。


「チャム、君は……」


 不思議な現象にもはや言葉にもならない。

 だが今はそれを追求する場面ではないはずだ。


「私も聞きたい。だから、歌って?お兄ちゃん」

「……あぁ。今ならきっと」


 再び戦況を見る。

 イサナギのHPは半分切っている。男が必死に攻撃をするも、まだ一体も倒せる段階ではない。ミカンもヒールで必死だ。時間の問題だ。


「イサナギ!もう少しだけ、もう少しだけ耐えろ!!」

「……タクト!?」


 敵に集中しているイサナギは、今俺たちの様子に気が付いたようだ。それは他の二人も同様だ。


「ミカン!今まで彼にやってきたように俺のMPを少しでも回復できるか!?」

「……今!?」


 そりゃそうだ。イサナギのヒールに手放せないのに、そんな余裕はないかもしれない。けど、≪瞑想≫をしたとはいえ、まだ俺のMPは全快ではない。出来る限り回復しておかなければならない。


「ミカン!タクトの言う通りにしろ!俺なら大丈夫だ!」


 さすがはイサナギだ。全てを俺に賭けてくれた。


「耐えてやるよ!タクト、お前を信じるぞ!……固有スキル、守護の盾!!」


 瞬間、イサナギは青白い光に包まれた。前方に実態のない大きな盾がイサナギを守るように展開されていた。

 あれが、固有スキル。プレイヤーのスタイルに合わせて得られる、ただ一人の為のスキル。

 見るからにダメージ量が減っている。これならミカンもヒールの手を少し休められるはずだ。


「全く、これだから男ってのは……。でも、タクトを信じるわよ!……≪MPアブソーブ≫」


 ミカンのスキルが発動すると、俺のMPが回復していく。なるほど、こんなスキルもあるのか。まだまだ俺の知らないことばかりだ。

 これで準備は整った。MPは全快。後は時間の勝負。

 聴け、俺の歌を――


「祝福の賛歌!!」


スキル紹介 MPアブソーブ


――≪MPアブソーブ≫ アビリティスキル

自身のMPを最大MPの30%消費し、対象のMPを使用者の最大MP20%回復させる。

CT:5分

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