歌使い
目を開けると眩しいくらいの朝陽が輝いていた。そして聞こえ始めてくる周囲からの喧騒が耳に入る。次第に明確になっていく脳は、ここがゲーム開始地点の噴水広場だと理解した。
俺のように周囲を見渡すプレイヤーがそこかしこに存在している。中には知り合い同士で談笑している姿や、明らかに装備の違うベータテスターが興味を持って見渡しているのも。
もう、一花さんには会えないのだろうか。
ナビゲーターという役割である以上キャラクリでしか会えない可能性は大きい。だからといってわざわざこのキャラを新たに作り変えてまで会うわけにもいかない。そんなことを望んでいるわけでもないのだから。
何もできなかったけど、彼女からのメッセージは受け取ったつもりだ。
頭を切り替えて前へと進もう。
「確か、待ち合わせは東の教会前だったよな」
勇也と美沙との待ち合わせ場所を思い出す。確かにこの人だかりじゃ落ち着いて話も出来ないだろう。移動するプレイヤーも多いが、それ以上に新たなプレイヤーが出現してのだ。
円形であるこの街は始まりの街アルファータ。冒険者たちからははじまりの街と呼ばれている。
初期の街らしく規模はそんなに大きくはない。中央に特徴的な噴水広場があり、東には大きな教会が建てられている。南には店が多く構えられ、西側は主に住宅街だ。
街を散策したい気にもなったが、ひとまずは教会へと向かわないとな。
プレイヤーの数は明らかに減ってきたが、それでもまばらに存在している。多分俺と同じように知り合いと待ち合わせする人や、とりあえず街を散策しようという人たちだろう。
教会の前も待ち合わせ場所として有名なのか、それなりにプレイヤーが賑わっていた。そのほとんどが ベータプレイヤーと新規プレイヤーの合流のようだ。
二人はどこだ、っと。
それは明らかに周囲よりも浮いた姿だった。
全身を白銅色の鎧でガチガチに着込んだ男と、隣にオレンジ色の見目の良いと分かるローブを着こなす女。男は兜を付けてないから顔は丸わかり、女はキャペリンの帽子を付けているが、その美麗は隠せていない。
うん、髪の色は変わっているが、間違いなく勇也と美沙だろう。勇也は青藍色の髪に美沙は明るめのオレンジ色だ。しかしなんか装備がガチすぎて引く。周りのプレイヤーもチラチラと二人を見てるし。
俺の不躾な視線に気付いたのか、二人もこっちを見て俺にすぐ気づいたようだ。まぁ服装が違うだけで、顔だけ見りゃ何も変わってないしな。
「よう、拓斗。お前はホント相変わらずだな」
「は?何がだよ」
「名前も顔もそのまんまじゃねぇか。せめて髪色ぐらい変えようぜ」
呆れながら言われることには慣れている。勇也の言い分も分からなくはないしな。
それに名前はまだ名乗ってないのに、なぜ分かるのかと聞いたら人物をターゲットすると名前が表示されるらしい。なるほど。
そのやり方を教えてもらうと、勇也と美沙の名前はイサナギとミカンと表示されていた。
「オッケー、イサナギにミカンな」
「えぇ。まずはフレンド登録しよっか」
そのままフレンド登録の仕方も教わり、まずは二人とフレンドになった。その他もろもろ簡単なステータスやスキルの見方などを一通り教わる。
しかし改めて見ても、凄い装備だよなぁ。特にイサナギの方。
そんなに鎧を着込んで重くはないのだろうか。背中に大きな盾を背負ってることから、タンクであることは一目瞭然だ。
対するミカンは明らかに魔法使い系であろう。杖を装備してるしローブも来てるなら、ゲームじゃ定番の装備のはずだ。
「で、お前はどんなスタイルにしたんだ?」
俺が二人を見ていたように二人も俺のことを見ていたようだ。
「俺は歌使いだよ。二人はタンクと魔法使いってところか?」
「……………………ハァ」
「おい」
なんだこいつ。憐れみの目で深い溜息付きやがって。
「まさかとは思ったが、まさかな……いやタクトならそのまさかが……」
「おーい、イサナギさん?」
「ふふっ、勘弁してね、タクト。イサナギにとって最悪な予想が当たっちゃったってことだから」
何が面白いのかミカンだけはクスクスと笑っていた。
最悪な予想って何だ。もしかして歌使いのことか?
「まず見ての通り、私たちのスタイルはイサナギがタンクで私は魔法使いでもヒーラーね。それで歌使いっていうのは、正直ちょっとみんなから敬遠されているスタイルなんだよね」
「そうなのか?何で歌使いが……戦闘向きじゃないからか?」
「ううん。むしろ支援系のスタイルはパーティーに一人は必須って言われてるぐらいよ。特にレベルが上がれば上がるほどね」
「だが!逆を言えば一人いれば十分ってことだ。それに低レベル時は支援魔法も大した効果を得られるわけじゃないし、歌ならなおさらだ!」
いつの間にか復帰したイサナギがやけに力説してきた。
「このゲームの特徴の一つとして、同じ系統の技能や魔法に限りバフは重複されない。しかも後から掛けた方が上書きしてしまう仕様だ。アビリティ系スキルは別だけどな」
「ふむ。つまり……?」
何が言いたいのか全然分からん。
「≪歌≫のレベル1のスキルの詳細見れる?」
スキルか……確かさっき教わったやつだと。
――力の歌 ≪歌≫スキル その歌は聞く者の力を引き上げる。
パーティー全体のSTRを増加させる。基本値5% 効果時間3分 消費MP30
おぉ、全体に掛かるじゃん。強いんじゃね?
5%だと低レベルじゃあんまり実感できないかもしれないが。
俺が力の歌の説明をするとイサナギだけじゃなく、ミカンの顔まで顰めていた。
「なるほど。ちなみにだが≪歌≫と競合されるといわれる≪付与魔法≫のレベル1のストレングスは、5分間対象一体のSTRを20%増加させるものだ。消費MPは20」
ん?聞き間違いか?
「まぁつまりは単体と全体の違いはあれども、効果時間、効力、消費MP全てにおいて付与魔法が勝る。更にはさっきも言ったが低レベルのパーティーで5%なんてほとんど無意味だし、力の歌が全体に掛かったとしても恩恵があるのは前衛だけだ。俺の言いたいことは察したな?」
なるほどな。そりゃ≪歌≫持ちよりも、≪付与魔法≫が選ばれるはずだ。ここまでは分かった。だが、それは序盤においての話であろう。
「レベルが上がってけばまた変わるんじゃないか?≪歌≫の先のスキルは分かんないけど、イサナギたちくらいのレベルだと有用になったり」
「すると思うか?」
「……そんなの分からないだろ」
「まぁ、それも一理あるけどね。何せ比較する相手がいないわけだし」
どういう意味だ。
「私たちの知る限り≪歌≫スキルを取っているベータプレイヤーはいないってことよ」
「でも歌使いのスタイルはあったんだろう?」
「あくまで一例としてだな。ベータテストの時点では検証組は数が少なかった。それに対しスキルの数は膨大だ。ハッキリ言ってマイナーにあたるスキルの検証は行われてない」
おいおい、仕事してくれよ。マイナーなスキルを検証してこその検証組じゃないのか。
「とまぁ、詰まる所歌使いは所謂不遇な立場にあたると言っていいだろう。タクトが歌を本気で好きなのは俺たちも知ってるし、応援はしてやりたいが……」
「正直茨の道かもね。いろんなスタイルがあるといっても、やっぱりスタンダードなスタイルが求められることも多いし。特に柔軟性のない低レベル時は尚更ね」
「かと言って支援がメインの歌使いじゃソロは厳しいしな。無難なのは理解のある前衛をパートナーに見つけてペア狩りってとこか。後はタクト自身の攻撃手段も増やした方がいいな」
「そうね。そういえば武器は何なのかしら?見たところ何も持ってない気がするけど」
「あぁ、歌使いは確か初期の武器はなしなはずだ。つまりこれから武器とそれに対応した武器系スキルと技能系スキルが必要になるな。もしくは魔法でもありか。どのみち最低でもレベル7は必要か。この辺りまでが難関になるかもな」
「ストーップ!ストップ!!分かった、分かったから!二人が俺のことを心配してくれるのは!」
だからって本人を蚊帳の外に真面目に話し合わないでくれよ。
まあ嬉しいけどさ。
「けどなぁ、本当に結構辛いぜ?」
「それはもう分かったよ。それでも俺は歌使いを止めるつもりないし、しばらくは地道に頑張ることにするよ」
「そうだな……手伝ってやりたいのはやまやまだが……」
「これから攻略も開始するんだろ?気にすんなって」
トッププレイヤーである二人はすでに今日からPTでの前線攻略が始まるんだ。低レベルの俺に構ってる時間もないだろう。
「分からないことや相談があったら、いつでも連絡してね。イサナギなんてだいたいログインしてるはずだから」
「おう!任せとけ!」
いや、そこ威張るとこじゃないだろ。
気持ちは有難く貰っておくが。
それから簡単な序盤の情報だけ貰って、俺たちは分かれることになった。
しかし思っていた以上に大変そうだな、歌使いも。
キャラクター紹介 イサナギ
性別:男
身長:175cm
スタイル:タンク
レベル:30
スキル:≪剣術・片手≫≪片手剣≫≪体力増加≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫
タクトの親友にして、βプレイヤーの一人。それなりに有名な人物であるが、本人はそれを歯牙にかけない。自他共に認めるイケメンであるが、最愛の彼女がいるので周囲には目を向けない。むしろ彼女の尻に敷かれている部分がある。




